プロローグ~限界アラサーOL、異世界へ~
どこにでもいるごくごく普通のOL、久堂貴美子(32)は今日も死んだ魚のような目で
職場のPCでひたすらにデータを入力している。
「九堂さん、マルボシさんからの資料あがってるから確認してリスト作成しといて」
上司のオヤジがわざわざ貴美子の背後までやってきて仕事を振ってくる
(うっせーな、今明らかに忙しそうに作業してるだろ!他の暇そうな奴に頼めよ!向かいの席の秋山なんてどうみても暇そうだろ!)
と、向かいの席でモニターを眺めながら殆ど手を動かさず悩んでるフリをしている先輩の秋山を一瞬睨みつつ、貴美子は無愛想に「…はい」と返事をした。
(ったく、なんでいつもいつもいつも私にばっか仕事振ってくるんだよここの奴らは!仕事量増えても給料変わんないからやるだけ損だろ!何で他の何もしてない奴らと給料同じなんだよチクショウ!あー辞めてやる!絶対辞めてやる!私が辞めてから私の存在のありがたみに気が付け無能共が!)
貴美子はイライラしながら作業を中断し、上司に振られた業務にとりかかる。
「九堂さーん、すみませんちょっと分からないところがあるのでみてもらえますか~?」
今度は後輩の若手女子が背後から声をかけてきた。
(何で今なんだよ!何で私なんだよ!他の先輩に聞けよ!私がついさっき仕事追加で振られてて明らかに忙しいの分かってないのかこの子は!)
貴美子は脳細胞が全て煮えくり返って死滅し、頭の血管という血管が全てブチ切れて、髪の毛が1本残らず抜け落ち落ちそうなくらいの急激なストレスを押し殺し、後輩を威嚇してしまわないように必死に平静を装いながら精一杯の愛想笑いを浮かべ
「どした?見せてみ?」
今日も給料も上がりもしないのに後輩の面倒をみてあげた。
「あーーーー!つっかれたーーーー!」
退勤後、自宅についた貴美子はストレスを発散するように大きな声で独り言を言いながらスーパーに寄って買ってきた割引弁当を机に置き、尻餅をつくようないきおいで座椅子に腰かけるるとそのまま
流れるように無意識でスマホの動画サイトを開き、おすすめに表示される動画を適当に一つ再生する。
「あー、弁当温めるの忘れてたぁ…めんどくさいなぁ、もうこのまま食べるか」
なんてブツブツ言いながら再び立ち上がり弁当を電子レンジへ入れて、冷蔵庫からチューハイの缶を取り出し飲み口を開ける。
「あ、風呂溜めないと」
貴美子は缶チューハイを冷蔵庫の上に置き風呂場へ向かった。
晩飯と風呂を終えて、ベッドに寝ころびながらスマホで動画をみているとあっという間に時間は過ぎ
気が付けば22時を過ぎていた
「はぁ~、1日って短すぎ…このまま寝て起きてまた仕事かぁ…」
この時間帯になるとナーバスな気分になってしまう。
職場に不満はあるし仕事を辞めたいと思いつつも結局辞めないまま時間が経過してストレスが溜まっていく一方だ。
現状を打破したい、もっと楽に生きたい、と思うだけで行動する気力は無い
そもそも自分にはこれといった才能もスキルもないし、若いうちに色々もっと勉強しておけばよかったと後悔が募るだけで、結局時間が足りないと言い訳をして現状を維持するだけの日々
将来の事を考えるだけで気が狂いそうになる。
「はあ~」
と大きなため息をついて貴美子はふと部屋を眺めると棚に飾られている「トゥインクルマジカル☆ミライ」のフィギュアが目に入った。
「トゥインクルマジカル☆ミライ」は貴美子が幼い頃に放送されていた大人気子供向けの魔法少女アニメで、とっくの昔に放送が終了しているものの、昨今再びファン向けにグッズ展開が始まり、当時視聴していた世代のファンを中心にリバイバルブームが来ている人気作品だ。
貴美子はアニメや漫画は結構好きな方で、推し活に人生を賭けるほどではないにしろ、
好きな作品のグッズはいくつか部屋に飾ってある。
「私もミライちゃんだったらな~、若くて元気で優しくて夢があって、何よりお目目がまん丸キラキラでかわいくて…」
スマホの画面には、怒ってないのに怒っていると常に思われてしまうほど目付きの鋭い限界アラサーOLの顔がうっすらと映っていて、何もかも「ミライちゃん」とは違いすぎる事に絶望し、貴美子は再び深いため息をついた。
「あのクソ上司、いい加減にしろよ、辞める、絶対辞める」
翌日、相変わらず仕事でストレスを抱えている貴美子はブツブツと独り言を言いながら帰路についている。
そして貴美子は自宅から10分ほどの距離にある小さな神社に立ち寄った
貴美子はこの神社にはちょくちょく来てはお賽銭を投げ込んでお参りをしている。
どういう神社なのか、どういう御利益があるのかは全く知らないが、
人間困ったときは神頼みに限る、と貴美子は思っている。
貴美子はいつものようにお賽銭を投げ入れて手を合わせ
「仕事辞めれますように!次なんかいい感じの職場が見つかりますように!あとミライちゃんみたいな可愛い魔法少女になれますように!」
貴美子は自分の願望をはっきりと声にだした、小さな神社で他に誰も人は居ない様子なので恥ずかしくもなんとも無かった
自分の願望を一方的に吐き出し、神様に届いた気になってスッキリした貴美子は、
(今日は牛丼屋にでも行っちゃおうかな~)
なんて考えながら上機嫌で人通りの少ない狭い交差点を歩いていると
突然右方向から明るい光が、と思った次の瞬間
ドン!




