01-21.隣国の王子様
さて困った。
リーンゴ王国がどこの国なのかは知らないけれど、この子たちが王子様御一行であるのは間違いなさそうだ。
俺たちのことをギルド長かギルド職員に聞いてダンジョンに来たのも間違いないっぽい。
すなわちギルドの意向としては「好きにやらせろ」ということなのだろう。
目的は箔付けといったところだろうか。第四王子という立場は継承争いにおいて、中々難しい立ち位置なのだろう。
だから手っ取り早くダンジョン攻略で名を上げようという算段なのだろう。
ここ『ファースタート王国』に棲む魔物たちは、比較的低ランクのものが多いらしい。だからわざわざこうして遠征してきたのだろう。
そこだけ微妙に思慮深い。もしかしたら祖国にはまともな助言をしてくれる者がいたのかもしれない。
しかしこの子たちは世間を知らない。名も知られていない国の王子がどれだけ高圧的に迫ったって、大抵の者たちはまともに相手をしないだろう。
実際ギルド長か誰かは、自分で相手をせずにこちらに押し付けてきたわけだし。
とはいえ俺までそんなことをするわけにはいかない。
このまま放っておいたら、きっとこの子たちは自分たちだけでミノタウロスに挑んでしまうだろう。そこまで辿り着けずとも、きっと無茶をしてしまうのだろう。
手ぶらで国へ帰れば立場も無いのだろうし。それこそ決死の覚悟で挑むのだろう。
そうとわかっていて見過ごすわけにはいかない。
かといって、責任を持ちますなんてその場しのぎでも口に出すべきじゃない。
出来ることと言ったら、適正レベルまで育てることくらいだ。しかし俺たちには見回りの仕事もある。おろそかにすれば、他の誰かが傷つくかもしれない。
王子の命と冒険者の命であろうと、この場においては当価値だ。リーンゴ王国の者たちだって、第四王子の扱いでギルドと揉めることはしないだろう。この子たちだけで出国出来ている時点で、その存在を重要視されているとは思えない。
「おい!! なんとか言いやがれ!!」
「うるさい!!」
フィーア!?
突然飛び出したフィーアが、杖で王子の足を絡めて転がした。
「ベランさんが考えている最中です!! お静かに!!」
杖の先端を王子の首元に突き立て、他の少年少女たちを睨みつける。
「ぶ、無礼者!!」
年長の少年がいち早く正気に戻り、フィーアを退けようと手を伸ばしてきた。
「その程度で!!」
「がっ!?」
フィーアは逆に少年の手首を掴んで引き寄せ、膝を入れて押し返した。
「はっ……!!」
胸を抑えて蹲る少年。
「「な、なにを!!」」
ようやく状況を理解した残りの二人。
「思い上がらないでください!!」
「「「「っ!?」」」」
フィーアの一喝と、その身体から発された莫大な魔力が、少年少女たちを射竦める。
……迂闊だった。考え事に思考を割きすぎて、フィーアの動きを見逃していた。機嫌を損ねていたことはわかっていたのに。こういうパターンも通知は鳴らないからなぁ……。
「ありがとう、フィーア」
フィーアを背に回しながら前に出て、倒れたままの王子に手を差し伸べる。
「申し訳ございません、殿下。我々は貴方がたをボス部屋にお連れすることは出来ません。ボスへの挑戦はDランク以上に限られます。それがギルドの決まりです。何より、みすみす殿下のお命を魔物に奪わせるわけにはいきません。どうかご容赦くださいませ」
「くっ……」
少し意外だ。ここで声を荒げることをしないとは。
「代わりと言ってはなんですが、殿下と皆様のレベル上げにお付き合いさせていただけますでしょうか。その案内であれば務めさせていただきます」
「ベランさん!? 何を言って!?」
ごめん、フィーア。勝手に決めてしまって。
「……いいぜ。強くしてくれるってんなら付き合ってやる」
王子が俺の手を取った。
「ベラン。お前に免じてその女の無礼は許してやる。ありがたく思え」
「感謝します。王子殿下」
「ラティスだ」
え?
「んだよ。俺の名前だよ。そんくらいわかんだろうが」
「い、いえ。随分と可愛らしい名前だと」
「うるせ!!!」
いかん。気にしていたようだ。
「「「殿下!!」」」
「おめえらもだ! 俺の決定だ!! 従いやがれ!!」
「「「っ!! 御意!!」」」
仲良いな。この子たち。
「ベランさん」
あかん……。フィーアが怒ってる……。
「……ありがとうございます」
え?
「……私のためなんですよね。すみません」
あ~……。
「大丈夫だ、フィーア。なるようになるさ」
「……はい。ベランさん」
よしよし。ナデナデ。




