01-01.ベテラン冒険者の日常
「おかえりなさいませ♪ ベランさん♪」
受付嬢の眩しい笑顔に迎えられ、冒険者ギルドの受付窓口へと向かう。
「依頼完了ですね♪ 今日も時間通りです♪」
「あっはっは♪ そりゃベランはそれしかねえかんなぁ♪」
背後の席から笑い声が上がる。一人だけじゃない。釣られるように幾つもの笑い声が上がった。
「何がおかしいんですか! ダストンさん! ダストンさんこそ時間を守ってください! って! 言ってる側から! もう約束の時間じゃないですか! なんでまだここにいるんですか!? またクレーム来ちゃいますよ!! 商隊の護衛は時間厳守が鉄則です!! 事前打ち合わせに遅れたら依頼自体取り下げられてしまいますよ!? 今すぐ向かってください!!」
「ま~だ飲んでんだろうが~」
「ダストンさん!!」
「わぁ~ったよ。おめぇら~。行くぞ~」
「「「「う~す」」」」
筋骨隆々の大男が仲間たちを引き連れて去っていった。
「まったく! 【ゴウワン】の皆さんにはもっと自覚を持ってもらわねば困ります!!」
あれでも彼らはここのエースだ。
リーダーであるダストンの冒険者ランクは『B』。
『S』『A』に続く、上から三番目だ。
何故彼らのような高ランク冒険者がこの平和な町を根城にしているのかは不明だ。この辺りには大した魔物も出ないのに。
「ベランさん♪ どうですか♪ 【ゴウワン】に入っては頂けませんか?」
受付嬢は今日も無茶を言う。
自分に彼らを御する力なんてある筈もない。こちとら十年経ってもFランク止まりなのだ。活動年数だけならダストン以上だが、実力は到底及ばない。
「残念です。ベランさんが入ってくだされば、彼らも少しは真面目になると思うのですが」
この受付嬢は本気で言っているらしい。Fランクを過大評価しすぎではなかろうか。
「あれ? これは……ベランさん、戦われたのですか?」
しまった。採取袋と魔石袋を間違えた。
「これはゴブリンの魔石ですね。しかもこの数は……」
受付嬢が厳しい目つきを向けてきた。
「ベランさん。よくよくご存知のこととは思いますが」
知っている。戦闘系スキルを持たないソロ冒険者は不用意に戦ってはならない。それが冒険者ギルドの鉄則だ。もちろん降りかかる火の粉を払うなとまでは言われないけれど。
「……今回は見逃しますが、繰り返されるようなら資格の剥奪もありえます。どうかお気をつけください」
受付嬢はそう囁きながら魔石袋を返してくれた。
「すみません」
「せめてパーティーを組んでください」
補助系スキルならその道もある。直接的には戦わずとも、パーティーメンバーと共に魔物討伐へ赴く者も少なくない。
しかし自分はそれすら望めない。
何故ならスキルが一切戦闘の役には立たないからだ。
スキル【リマインダー】。
予め指定した時間になると通知をくれるスキル。
たったそれだけだ。
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物心付く頃には冒険者に憧れを抱いていた。
物語の英雄になりたかった。誰かの役に立ちたかった。
近所に住んでいた元冒険者の老人に鍛えてもらいながら、ありふれた子供時代を過ごした。
十五歳になった時。この町の教会へとやってきた。目的はスキルを授かることだ。もちろん目指すは冒険者だ。
しかし授かったスキルは戦闘系どころか補助系とすら呼べないものだった。
それでも諦めきれず、冒険者ギルドの門を叩いた。
周囲からは散々反対されたものの、なんとか登録に漕ぎ着け、冒険者としての第一歩を踏み出した。
とはいえ受けられる依頼は極限られたものだけだ。最初は採取依頼すら受けさせてはもらえなかった。
それでもコツコツと、町の皆がくれる依頼をこなしていった。溝さらいや猫探し。建築現場の手伝い、衛兵の助っ人。出来ることは何でもやった。
最初は『G』だったランクも、いつしか『F』まで上がっていた。ランクが上がることは素直に嬉しかった。
たとえ普通の冒険者が半年も掛からず『G』から『F』へと至るものなのだとしてもだ。
採取依頼を受けるようになってからは、こっそり弱い魔物を狩るようになった。
決して戦うなと散々言い含められてはいたものの、戦ってみると意外とどうとでもなることに気がついた。
ゴブリンは弱い。ホーンラビットも弱い。オーガは無理。ディア系やベア系やウルフ系も無理。ボアは運が良ければ。
自分なりに戦えるラインを見定めて、少しずつ魔物狩りも続けてきた。
魔石を使えば身体能力が上がる。時にはスキルが強化されたなんて話もある。
何事も積み重ねだ。たとえゴブリンの魔石しか取れなくたって、少しずつでも成長していける。
そう信じて努力を続けてきた。
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「ベランさん♪ 今日もいらっしゃったのですね♪」
教会のシスターさんが朗らかな笑顔で迎えてくれた。
冒険者ギルドで報告を済ませた後は、夕暮れの町を少し歩いて教会へ向かうのが、いつものルーチンだ。
「まあ♪ 今日はたっぷりですね♪ 頑張りましたね♪」
魔石袋を受け取ったシスターさんは、いつも通りに女神像の前へと導いてくれた。
そのままシスターさんは、魔石の半分をお布施として回収し、もう半分を女神像の前にある皿へと流し込んだ。
神像の前に跪くと、すぐに変化が訪れた。
「おや?」
首を傾げるシスターさん。
「おやおやおや♪ これはこれはこれは♪」
何やらテンションが上がっている。
「おめでとうございます♪ ベランさん♪」
何がだろう。いつもと様子が違う。ノリはあまり変わらないけれど。
「ベランさんのスキル【リマインダー】が進化しました♪」




