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第二十六章 新硬貨の鋳造

今、母国で何が、と不安に思っていると、給仕していたレカが「あのう」と切り出した。


「お食事中すいません。しかし、ローザからの手紙が来たようです」


男に媚びるローザのことは嫌いだが、職務に従わなければならない葛藤の中、レカは複雑そうに「以前、すぐ知らせるよう仰っておいでだったので」と言い訳っぽく付け加えた。


「ああ、ありがとう。早速見せてくれるか?」


間もなく、レカは盆にローザからと思しき手紙を乗せて持ってきた。食事中だが、イロナは受け取ると、早速封を切り、目を通した。


「オークションの合計額だが、金貨にして三十五万枚だそうだ」

「……一体どんな手段を使たんだ」


予想二十五万枚を遥かに上回っている。エースターの紳士諸君の懐を考えたらちょっと同情してしまうが、オノグルからすれば外貨を得られて万々歳だ。


「で、何か問題があった? 送金が届かなかったとか?」


大金を得たにしては女王は浮かない顔だ。理由を問えば、読み終えた手紙を渡してきた。ざっと目を通し、手紙を返す。


「ごめん、読めない」


可愛らしい丸文字だが全く読めない。


「む、すまなかった。君はオノグル語を流暢に話すが、読み書きは苦手か?」

「書庫の本は読めたけど。これは何が書いてあるかさっぱりわからない。暗号か何か?」


機密情報は誰かに盗られた時のために暗号化することはままあるが、その類だろうか。


「いや、いたって普通のオノグル語だが。えっと『ローザの成果は既に届いたと思いますけど。存分に崇め奉ってくれてもいいですよ』」


イロナはすらすら読み上げた。微妙にローザの口真似までしている。本当に暗号でなく、ただの悪筆のようだ。


『実は気になることがあるですぅ。未亡人のついでに、とあるおじさんのお家にお邪魔したです。エースターの議会のえらい人らしいんですけど、オノグルとの戦争の時は軍にいたそうで、大敗した責任をとらされたそうです。あたし、可哀そうだから慰めてあげることにしました。あわよくば財布君仲間(二六四号ですぅ)に加えてあげようと思って』


エースターの主戦派にコンタクトを取ろうとしたと言うことか。あと、地味に財布君の号数が増えてるのが怖い。


『ところが、郊外の別荘に下見に訪れた時、懐かしのB君に似た人を見たです』


Bで始まる文字の名前。まさか、女王を暗殺しようとしたベンツェ!?


『噂では、最近食客として雇われた切れ者だそうですぅ。ローザ、びっくりして逃げ出しちゃったので相手は気づいてないと思いますけど。旧交を温めるべきですぅ?』


「危ないから止めといた方が良い。彼がいるとわかっただけでも十分だ」


思わず手紙に突っ込んでしまった。イロナは手紙から目を離す。


「しかし、帝国の工作員がエースターに何の用だ?」

「言うまでもないんじゃない?」


彼を食客として雇っている人物については、ローザの手紙の内容とエースター貴族の末端であるウィルの知識を組み合わせれば、恐らくあの人物と目星はつく。今回通貨交換を停止したのは、帝国の裏工作かもしれない。さすが帝国、後宮で権力争いしてるだけある。


「因みに、オノグルにも対抗する組織はある?」

「目と耳くらいはどの国もあると思うが」


目とは監察官、耳とは間諜のことである。実際にあってもあると言わないだろうが、イロナは一般論として答えてくれたようだ。


「そう言えばオノグルには死神がいるって聞いたことあるけど、本当にいるの?」


オノグルは”死神”と呼ばれる暗殺部隊を抱えているとされる。クーデターを企てたと思しき軍人が馬車の事故で死んだり、ヴァラヒアの公主が部下の凶刃に倒れたりと、オノグルに都合の悪い人物が立て続けに不自然な死をしたことでその噂が流れているのだろう。


「そんな都合の良い存在はない」

「だよね」


興味本位の質問だったが、ウィルは胸を撫でおろす。何かの加減で女王と意見がぶつかった際、殺されてはたまらない。頭に人を殺す方法はいっぱいあると言っていたローザが頭に浮かび、嫌な予感がした。なんとなく得体が知れないので、夫婦喧嘩は避けようと心に誓う。


「さて、その話は置いておいて、そろそろ今後の方針決定と行こうか」


食事も一段落し、ウィルは気持ちを切り替える。


「ならまず、現状確認からかな。現状を明文化することで問題点も見えてくる」

「現状か。芳しくないな。覚悟していたよりは悪くない。王都周辺、私の息のかかる範囲では公売価格を定め、公共機関で小麦を販売している。辺境にも例年よりやや高い程度の価格で届くだろう。飢える人間は予想よりずっと少ない」

「俺のおかげだね」


得意顔で指摘すると、「そうだな」と素直に頷かれてしまい逆に気恥ずかしい。


「君の奇策で小麦は十分確保できている。この冬は凌げるだろう。だがこの状況が一、二年続くとなると……」


女王はおし黙り、ただ首を振った。

小麦が余ってエースターでは価格が下がっていている。物珍しさも手伝い、安い値段で売るよりは、と農家は靴と交換してくれた。ある程度経てば小麦の価格も上がる。靴の在庫も無くなる。農家に靴が十分行き渡れば、交換してくれる人はいなくなってしまう。


「外貨はどうなったんすか? たくさん集めたんすよね?」


控えているレカが口を挟む。彼女も在庫整理を手伝ったので気になるのだろう。


「ゲルト銀貨との交換が停止され、今まであった二国間の流通が止まった。そこで商人たちにゲルトとピンズの両替を行っているが、蓄えた外貨はみるみる目減りしている。しかも、それが直接商業の活性化には繋がってはいない」

「何故ですか? 他国の通貨、ゲルトをピンズと交換すれば商人たちがエースターとか他の国の商品を仕入れてくるはずですよね?」

「話は単純だ。通貨を交換する方が儲かるからだ。しかも労力もかからず」

「為替取引だね」


訳知り顔で頷くウィル。置いてきぼりにされふくれっ面のレカに説明する。


「現在、王宮では一二ゲルトを一六ピンズで両替している。これは以前のレートだね。でも、エースターと接している西部の方では両替が停止されているんだ。そうは言っても全く取引できないのは困るから、裏では商人たちが勝手に交換しているだろう。仮に一二ゲルトを二〇ピンズで交換しているとしよう」

「そんなのおかしいです。王都では一六ピンズで交換してるんだから西部の人も同じように交換して欲しいって思うはずです」

「交換する方もそれはわかってるが、西部では他に交換してくれない人がいないから仕方なく呑んでいるのだ」

「例えば一六〇ピンズを王都で一二〇ゲルトに交換するとすると、それを西部に持って行けば二〇〇ピンズ、四〇ピンズの儲けになるよね。さらにそのピンズを王都に持って行けば、一五〇ゲルトと交換される。それをまた西部に持って行けば二二五ピンズ、六五ピンズの儲けだ。それをさらに……」

「旦那様、ありがとうございます。よくわかったです。要は通貨の交換だけでお金が儲かるわけですね」


数字を並べられ食傷気味のレカが言うように、商売なんて手間がかかるものだ。行商人が盗賊に怯えながら国境を越える長い旅をし、売れそうなものを物色し、交渉して買い取り、それを帰国した時には加工し、買い手を探す。だが、さっきの方法なら国内で完結しそんな手間もいらない。誰しも楽して儲けられるならそっちの方が良いだろう。


「現状では王宮の蓄えた外貨が流出し、一方的に損をするだけだ。そこで、異国との取り引きがない商人との為替交換は停止している。しかし悪知恵が働く輩はどこにでもいる。取り引きがあるように書類を偽装すると言うのは日常茶飯事。しかしあまり審査を厳しくし過ぎ、商品の取引が滞ってしまえば、それはそれで問題なので悩むところではあるな」


いくら戦いの女神と呼ばれる女王と言えど、この難局には手をこまねいているようだ。


「基本に立ち戻ろう。この経済的混乱を収める方法は五つある」

「五つもあるんですか?!」

「だが君がすぐに進言しなかったと言うことは、どれも簡単にはいかぬと言うことだな?」


ウィルは静かに頷いた。


「まず一つ目は、固定交換レートによるリンクを放棄して交換レートは市場に委ねるやり方。市場で実態のレートが決まったら、追認してお墨付きを与えれば良い」

「それが一番ですね。みんなも幾らにしようかって迷わないですし」

「ただ、市場のレートが定まるまでどれくらいかかるのだ? それまで我々は耐えきれるのか? それにそのレートは、国内共通のものになるのか? 現時点でエースターに接している西側と東方の国々に接している東側とでは交換レートに差があると言うのに?」

「イロナさんの言う通り、時間があればこれが一番混乱が少ない。ただ、何年かかるかわからない。そこで二つ目、強制的にゲルト銀貨の流通を停止し、ピンズ銀貨のみの流通に切り替える方法」

「国内では可能だろう。しかし問題はエースターとのやり取りだ。エースターからの輸入にはどうしてもピンズが必要だからな」


「なら三つ目、逆にピンズ銀貨を強制的に廃してゲルト銀貨のみの流通に限る方法。これなら経済的な混乱はすぐに収まるだろう。ただ……」

「我々は経済的自立を失うことになる」


急激にトーンが暗くなった二人に、レカが能天気に問う。


「えっと、ケーザイジリス? それが無いとどうなるんですか?」

「言い換えれば、自分のことを自分で決める力がなくなるってことだ。自分でお金を稼げれば自分の好きなものを買えるよね。親からのお小遣いじゃそうもいかない。国もそうだ。自国の通貨が無ければ自国のことを自国で決められない。他国の都合に振り回される」

「経済の安定には有効ではあるが……最終手段だな。先に残りの二つを聞こう」


「じゃ、四つ目。ピンズ銀貨に強力な裏付けを与えて信用の回復を図る」

「えっと。つまり……どう言うことですか?」

「元々、貨幣って言うのは信用によって成り立っているんだ。そこら辺に落ちている石ころでも、みんなが“価値があるものだ”って認めれば貨幣になるんだ」

「そんな馬鹿な。石ころなんて価値は無いですよ」

「価値がないと思う人が多ければ実際に価値がなくなる。そう言ったものは貨幣にならない。だいたいなんで貨幣が金や銀でできてると思う? 昔は貝や布、穀物だった時もあったんだよ? 答えは簡単、貴金属はみんなが価値があると信じているからだ。

でも、金や銀の含有量はぱっと見てわからないよね。だから、それを本物だと判別できるよう国が保証する。今のところ、各国の通貨はそうした信用の上で成り立っている。

エースターはピンズ銀貨の取引を停止した。それはつまり、『ピンズ銀貨なんて無価値ですよ』ってエースターという国が宣言したも同じ。だから前よりみんながピンズ銀貨を信用しなくなっている。それでも貴金属でできているから国内で、価値が下がっても辛うじて国外で流通している」


「なるほど。信用がなくなるのが大変だってのはわかりました。じゃ、強力な裏付けって?」

「例えば、証書為替ってものがある。元は教皇が遠くの領地の税金を取り立てるための制度だ。君はエースターからオノグルのイロナさんに銀貨数万枚を支払いたいとしよう。でも、銀貨を運搬って大変でしょ? 金や銀は重いし嵩張るし、盗難される恐れもあるからね。そこで君はエースターの両替商に代金を払い、公正証書を発行してもらう。その証書をイロナさんに送ると、彼女はオノグルの両替商にその証書を持っていく。すると、両替商が代わりにお金を支払ってくれると言うわけさ。紙切れが銀貨数万枚の価値を持つんだよ? 面白いよね。つまり、誰かが価値を保証してくれれば紙切れでも良いわけだ」

「じゃあ、こう言うのどうです? ピンズ銀貨を十枚集めれば宝石と交換するって保証すれば、みんながピンズを使ってくれます!」


名案だと顔を輝かせるレカに、つられてウィルも笑ってしまう。


「その景品みたいな考え方は面白いと思うけど。ただ、宝石なんて量を確保できないし、みんなが交換に殺到したら困っちゃうよ。交換できなくなった時点で信用を無くして価値が下がるだろうね」

「皆が欲しがって安定的に供給できるものがあれば良いってことですね。なら、オノグルの名産品はどうですか? 靴とか」

「みんなが欲しがってくれればそれも有りだけど。特にオノグルの人はオノグルのものなんて見飽きてると思うよ?」

「じゃあ、小麦! みんなパンを食べるし絶対に必要です!」

「穀物は価値が変動するから止めた方が良いよ。豊作だと安くなるし、不作だと高くなる」

「うーん……難しいです」


レカは考え込んでしまった。


「みんなが欲しがるもので、価値が変わりにくいもの。さらに言えば、持ち運びが簡単だと尚良いよね」

「そうなるとやっぱり、金ですか?」


通貨の価値を補償する方法だが、実は多くの国は先ほどレカの案を採用している。エースターでは銀貨を十五枚集めればみんなが欲しがるもの、金貨と交換しているのだ。

金貨は希少性が高く、ごく一部の人々の間でしか使用されない。だから、流通している貨幣は主に銀貨だ。

では、金貨は何に使われるのかと言うと、主に外国との貿易で使用されている。だから、金の含有量はどの国でもだいたい一律で、何年経ってもほとんど変化しない。悪戯に品質を下げては、相手国から信用が得られず、貿易ができなくなってしまう。


「金が手に入れば言うことないんだけどね」


金貨を鋳造できる国は限られている。信頼と歴史がある国。発行しても価値が保証できなければ意味がない。そして、流通できるだけの金の確保できる国。

そうすると、貿易で金を手に入れることができる商業国や、富を産み出し、奪うことのできる大国に限られている。言うまでもなく、オノグルはそうではない。イオドゥールの一商業国が発行する金貨の模造品を製造しているが、流通可能な量は確保できていない。


「とは言え、ピンズ銀貨を使い続ける以上、何らかの形で価値を保証しなければならないだろう。これは保留だな。ラスト、五番目。第三の通貨を流通させて事態の収集を図る」

「別の種類の通貨を基軸にすると言うことだな?」

「別の種類って? ヴァラヒア公国の通貨を使うんですか?」

「他の国の通貨を持ってきたとしてもさっきの案の二の舞だ。この国で新しい通貨を作る」

「それ、前にお話してくれましたよね。新貨幣を作ったら価値が安定せずに大変だったって。貨幣を変えると余計に混乱しないですか?」


レカは以前の講義を覚えていてくれたようだ。教師役として鼻が高い。


「勿論その可能性はある。だが、最早一刻の猶予もならぬ状況だ。実は国境付近で最近工場の摘発を行ったのだが、そこではピンズ銀貨を鋳潰していた」


女王の報告に、訳がわからず首を捻る。国が価値を保証する通貨を溶かすなんて意味がない。下手すれば贋金を作ろうとした罪で縛り首だ。ウィルはそうか、と膝を打つ。


「ピンズの価値が下がり過ぎたんだ。貨幣としての価値よりも、銀貨そのものの価値、成分としての価値が上回ったんだ。だから銀貨に含まれている銀を取り出そうとしたんだ」

「そう言うことだ。元々、国際的な通貨にしようとピンズの銀の含有量は周辺国に比べて高い。そう言う輩が出てきてもおかしくない。このままでは銀は国外に流出し、国が保有する量が減ってしまう。そして我々に、銀を買い戻す術は無いのだ」


レカは目を回しながら何とか状況を整理しようと試みる。


「えっと、今の銀の量で問題が起きているのはわかりました。だから銀の量が少ない銀貨を作ろうとしている、と。でも待ってください。話戻っちゃいますけど、そんなことしたら物の価値がとんでもなく上がるんですよね?」

「そうそう。今のまま銀貨が鋳潰され、通貨量が少なくなれば物の価値が下がるデフレになる。えっと、デフレと言うのは物の値段が下がること、その逆はインフレと言って物の値段が上がること。デフレより過剰なインフレの方がマシなんだ」


人は元来怠けものだ。これから安くなるとわかっているものはわざわざ作りたいと思わない。デフレは経済が停滞する。逆にインフレ、値段が上がるとわかっていれば、物をどんどん作って経済は活発になるだろう。


「エースターが取引を停止している通貨はピンズだ。ならそれ以外の通貨を作ればいい」


ウィルは懐から羊皮紙を取り出す。そこには二つの円が描かれ、右の円には女王の横顔、左の円にはこの国では重要な意味を持つ聖なる王冠が描かれている。


「新通貨、バルタ」

「作ったんですか?!」

「計画を前倒ししただけだよ。元から新硬貨を発行する予定はあったんでしょ? 偽造防止のため何年かごとに更新する必要があるわけだし」


レカが「へ~」と新しい通貨の図案を眺める傍で、イロナは額を抑えた。


「どこから情報を得たのか気になるが。準備ができてるなら後は流通するかどうかだな」


国家財政の資料に挟まっていたのだが、機密情報だったようだ。女王は目を瞑ってくれるようで何よりだ。


「急に見慣れない硬貨になって銀の含有量も少なくなる。皆が使ってくれたかが問題だ」


せっかく新しい通貨を発行しても、国民が信用して使わなければ意味が無い。


「なら、先ほどの四つ目の提案との合わせ技で行く」

「理屈としてはそうだが。具体的にどうやって?」

「金は泥の中でも金だ。金で価値が裏付けされるなら、新通貨は信用される。オノグルの鉱山で金が見つかったことにする」


レカはぽかんと口を開けている。女王は軍略家らしく冷静に策を吟味する。


「偽りの情報を流すと言うことだな。まるで情報戦だな」

「人聞きの悪いことを言わないでよ。山師があたりと見間違えたかもしれないじゃないか。悪い噂は羽が生えたように進み、良い噂は進まず止まるものだからね。景気なんて空気みたいなもの。皆がこれから良くなっていくと“期待”すれば、購買意欲が高まる。物が売れれば、多く生産しようとする。そうして物を作って得た金でまた物を買う。すると、経済が回っていく。誰もが“期待”さえすれば、実際に景気が良くなるんだ」


ただ、一つ肝に銘じておくことがある。商売の上でも詐欺は一時的には利益になるかもしれないが、長期的な取り引きには向かない。今は銀の含有率と小麦との交換で辛うじて価値を保っている通貨が、一歩間違えればその価値を下げ続けるハイパーインフレーションだ。しかし、手段が残されてないのは確かだ。


「我々は刃の切っ先だろうと踊らねばならぬ」


国家元首が決意を滲ませて呟く。嘘はいけないことだ。嘘をつくような人間は信用されなくなる。だが、嘘でしか救えない場合もある。


「なに、エースターが交換停止を撤回し、レートが安定するまでの間だけで良い。確か今回家探しした時に、古い金の装飾品があったな。あれを鋳潰して金塊にし、外交官らに見せびらかそう。さすれば少しは信用されよう」


無理やり作った笑みはやけくそだ。彼女だって嘘の危険性は知っている。それでも一緒に共犯者になる決意をしてくれたのが、ただただありがたい。


「それじゃ、国内の銅鉱石のサンプルを集めてくれる?」


ウィルの依頼に目を二、三度を瞬かせる。


「銅鉱石を? 何故だ?」


新通貨を作るのには材料が要る。その内、最も重要なのはもちろん銀だ。オノグルでは銀は採れないので、今まである銀貨を再利用するか外国から輸入するしかない。それは選択の余地が無いのだが、問題は混ぜ物の方だ。


「銀貨に安価過ぎる鉱物や下手な混ぜ物をして、銀の輝きが鈍ったりしたら、必要以上に価値が下がっちゃう。折角で銅が産出されるんだから使わない手はないよ」

「言わんとすることはわかるが、各地のサンプルを集めるのとは何の繋がりが?」

「今まで細々と輸出していた以上に銅の需要が増えるってことは、新たな銅脈を開拓しないといけないでしょ。銅の品質を調べておいて損はないと思うけど」

「それはそうだが」

「後はまあ、ちょっと思うところがあって」


こちらは可能性の薄い話なので、言葉を濁しウィル胸に秘めておくことにする。

レカが不安そうにエプロンの端を握っている。

ふと、エプロンいっぱいにされた花の刺繍を思い出した。婚約者を攫われた女性は悪魔を騙し、恋人を取り戻せた。


果たして自分たちは皆を騙しきることができるだろうか。


――ここからが正念場だ。


ウィルは一人拳を握った。

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