【第三話】Come alive
目覚めたのいつ頃だろうか。気づけば病室のベットに寝ていた。
「うぅ......頭が痛い......」
起きあがろうとすると頭に激痛が走る。
『おぉ、起きたか』
「気絶している時に何があったんだ?」
頭を抑えながら呟く。
『一ついいことがある。あの女性は救出できた。ただお前はガスを吸いすぎて体への負担が急増した』
「普通なら死ぬのでは?」
『運が良かっただけだな。ただお前の体を使っているとき、お前の持病が暴れている気がしたな。特にガス区域内のときに』
「......what?」
『おそらくお前の持病を悪い方に活性化させる働きがあるようだ』
偶然か?それともわざとそれを狙ったのか?
『多分わざとだ。お前の体はある程度のガス侵食を防げるんだろ?普通のガス兵器だとトラスト市での出来事同じようになんとか耐えられそうだし』
「あぁ......」
『言いたいことは理解したか?』
「......なるほど、分からん」
『死ね』
「ひどくない⁉︎」
思わず声を大にして叫ぶ。
『まぁいい。こっからは救出劇が終わってから何があったか伝えようか、今度こそはしっかり覚えろよ』
「了解。保証はできないけど」
『そこは保証しろ。それより現状だ。今は国連もこの大規模暴動をどうにかしようとしているが、まだなんもできていないとのことだ。暴動発生国では財団機動部隊による周辺住民の保護がされているが、対して効果がないとのことだ』
「えっと......カルトの動きは?」
『空港は未だ占拠されてて、大使館は本国からの派兵をしてくれるとのことだ』
「本国?アメリカとロシア?」
『その通りだ』
あまりにも規模が大きくなりすぎている。そもそもアメリカとロシアに喧嘩売るってカルトは正気か?はっきり言って財団ですらも敵に回してはならないと判断している奴らだ。それをカルト教団は敵に回した。
「ガンシップが出動してきそう......」
『全くもって同感だ。とりあえず今後は上空を注意しないとな』
痛む頭をさすりながら苦笑いする。
「さてこっからどうするかだね」
『あぁ、今この世界は世界恐慌の時よりも乱れていると言って過言ではない』
「そんなに荒れているのか?」
『主要国家ではカルト主導のデモ団体が各地で蜂起し出し、日本でもその波が襲いかかってきている。各地では金融機関へのダメージも大きく、リーマンショック以来の恐慌が襲いかかってくると予想されておるみたいだ』
「もはや終末世界」
『財団も頑張って対応しているがいかんせん敵が多い。世界各国に点在している一部の支部はデモ集団に侵入されているところもあるそうだ』
ふと病室の扉がロックされ、外から見慣れたメンバーが入ってきた。
「よぉ、仁。元気か?」
「頭と体が痛いことを除いてね」
「なら大丈夫だ」
バンパーが笑いながら僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「いやぁ驚いたよ。お前のダストが2階から飛びおる選択を取るとはね」
「え?」
『そういや言ってなかったな。大丈夫だ。あの女性は怪我をしていないからな』
「そう......ならよかったけど」
いろいろ疑問があるが、今はそれを機にする必要はない気がした。まぁ、全てが終わってから聞けばいいか。
「とりあえずこっからどうするかだ。カルトの殲滅を優先的に行うか、それとも民間人救助を優先的に行うか」
個人的にはカルトはそのトップを倒さな限りどうしようもない気がする。
「ねぇ、カルトのトップは誰かわかる?」
「カルトのトップか......幹部は財団のデータサーバーに記録されているとは思うが、トップとなると分からなさそうだな」
「そうだね......ねぇダスト?」
『なんだ?』
「カルトが崇めている神様とは知り合い?」
「お前は今ダストに何を聞こうとしているんだ?」
「こいつって悪魔じゃん。どうやら一部神様とは知り合いのようでさ、その崇められている方が降臨させられようとした場所がカルトの本拠地じゃないかって」
「ごめん。どうやら俺にはお前の言葉を理解する能力が欠如したようだ」
『要するにその神に場所を聞いて、そこに殴り込むってことか。面白いじゃないか』
「それで?できるの?」
出すとは少し悩んだ後に言った。
『結論から言うと、これはできない』
「なんで?」
『理由言うから待て。理由としては、俺はお前の体から抜け出すことはできない。つまり神どものもとに飛んで話を聞くことはできないってことだ』
「スゥー......なら無理だな」
「俺はお前らの会話は聞こえないが、その様子だと作戦はできなさそうってことだな」
「うん。そうだね」
ベットに倒れ込み、大きなため息をつく。
「あまり動くなよ。チューブが切れるかもしれないからな」
「分かってるよ」
いくら考えても最適解が出てこない。いくら頭をフル回転させても何も分からない。
「なんなんだよ......この世界は......」
気づいた頃にはバンパーはもういなかった。おそらく仕事に戻ったのだろう。外を見ると日が暮れてきた。しかし街中はいまだに喧騒に包まれていた。
「誰がこんな運命を決めたんだよ」
『神の気まぐれというべきなのか?まぁ、俺は分からないな。なんか人間の学問で哲学と粒子力学というのがあるんだろ?運命は分裂するのかどうか、その結果は収束するのか並行して存在し続けるのか問い続けている分野もあった気がする。でも今の人間には早すぎる世界だけどな』
「神の気まぐれねぇ......そしたらどんな神が僕とお前を一緒にさせたんだろう」
『俺には分からん。でもそれも運命だろう』
はっきり言って僕は昔っから運命というのがあまり好きではなかった。厳密に言えば決められた未来というのが嫌いだった。
「運命かぁ......もしその運命を破壊して、好きなように作り変えれたらさ......ぐっちゃぐちゃな僕の運命もマシになったのかな?」
『さぁな。でもここで諦めないのがお前だろ?』
「そうだね。ところで雪。いつまでそこに立っているつもり?」
ふと廊下から何かにぶつかる音がした。そして雪が入ってきた。
「ば、ばれてた?」
「ずっと前からだよ。バンパーが帰った頃からいたでしょ?」
「そうだけど......なんで私だと分かったの?」
「足音。15年以上一緒に過ごしているんだ。君の足音ぐらいとっくに覚えたよ」
『なんか気持ち悪いな』
「気にすんな。ところで雪、今日は何の用で来たの?日本に帰ったはずじゃ」
「私は仁が心配で帰れなかったの」
彼女は顔を俯きながら僕のそばに座った。悲しそうに見える顔にはうっすらだが汗が流れていた。
「そう。ありがとね。でも僕は戦いを止めないから。たとえ君があっち側に行ったとしても」
若干雪の体がビクッと跳ね上がる。
「あぁ、殺しはしないから。君が敵になったとしても僕は愛し続けるから」
「そう......ありがとね」
彼女は顔を僕の顔に近づけ、額を僕のにくっつけてきた。
「でもこれだけ約束して......《《生きて》》」
「大丈夫。ありがとうね」
ふと頬に何か液体が落ちてきた気がした。小さくて、でも暖かかった。
「それじゃあ、私はこれで」
「うん。じゃあね」
彼女がさった後、病室内にはまた静寂が訪れた。
△ △ △
「お久しぶりですっ⁉︎」
病院に放り込まれてからしばらく経ち、回復してきた頃、僕は財団本部司令室に招集された。
「これどういう状況?」
『黙ってろ』
財団本部司令室内の空気は重く、湿った沈黙が壁の間に滲んでいた。大理石の長机に並ぶ書類は、もはや報告書というより絶望の塊だった。薄暗い蛍光灯が揺らぎ、天井の換気音だけが、何かがまだ動いていることを証明していた。そしてここに蓄積された絶望が、扉を開けた僕の体に襲いかかってくる。
「これは一体どういうことだ!」
司令室内に入ってからしばらく経った頃、書類の束を読んでいた一人の男、バンパーが声を荒げた。
「財団はなぜここで止まるんだ!そもそもこの事件の当事者は財団だろ!」
「アメリカの要求だ。いくら財団といえど、アメリカには頭が上がらない」
その言葉が放たれた瞬間、怒号を挙げていたバンパーは司令官の胸元を掴み上げた。
「アメリカの要求だぁ⁉︎財団が行なっていた全ての行動の情報を明渡し、アメリカの監視下に入って行動しろっていう要求のことか!」
バンパーは肩を上下に動かし、息を荒げる。
「......そんなのやった暁には財団の理念がアメリカの政治によって介入されるぞ」
司令官は軽くバンパーを睨んだ後、小さく呟いた。
「……お前の怒りは理解している。しかしこうでもしないとカルトを殲滅できないんだ」
司令官の声は低く、冷えていた。バンパーの手は震え、だがその指の力は衰えない。
「理解してる......?お前は本当に理解しているつもりなのか?」
周囲の通信士は身じろぎもせず、沈黙の中でその光景を見つめていた。蛍光灯の微かな揺らぎが、まるで彼らの迷いを映し出しているかのようだった。
「ならば聞かせてくれ。」
バンパーは吐き捨てるように言う。
「アメリカの『要求』のために、財団の三大原則を捻じ曲げるつもりか?財団を政治の道具として渡すつもりか?」
司令官は視線をバンパーから外さず、ゆっくりと息を吐いた。
「我々は全くねじ曲げるつもりはない」
静かな言葉に、誰かが無意識に喉を鳴らした。
「これは選択だ。我々が存続するための。財団がずっと長い間残すことができるように」
その瞬間、入り口にボケッと立っていた僕は無意識に踏み出した。
「選択……?」
思わず声を出してしまう。
「それは本当に僕らが納得できるものなの?」
室内の空気がさらに重くなった。誰もが、次の言葉を待っていた。司令官はわずかに眉をひそめ、長机の上の資料を指先でたたいた。
「納得とは何だ?」
その声は冷静だったが、どこか試すような響きを含んでいた。バンパーは肩を怒らせながら、司令官を睨む。
「俺たちは財団の理念を元に、世界平和を目指すためにここにいるんだ。それが政治の駆け引きで揺らぐのなら、俺たちは何を信じ、何を納得すればいい?」
通信士の一人が息を詰める。財団内の構成員の間には、すでに微細な亀裂が走っていた。アメリカの要求に従えば、財団は存続する。しかし、それは本当に財団があるべき姿なのか? 僕にはここにいる司令官の考えが分からなかった。でも唯一分かることがあるとすれば、それは彼らがジョージアン会長とは違うことぐらいだ。
「財団は理想のために存在するのではない」
司令官の言葉は淡々としていた。
「財団は現実の中で存続しなければならない。理念を守るために、まず生き残らねばならん」
その言葉が落ちた瞬間、沈黙が支配する。 僕は無意識にもう一歩踏み出し、口を開く。
「生き残ることがすべて?それが財団の最適解?」
司令官は視線をゆっくりと向け、ほんのわずか口角を動かした。
「そうとも限らん」
そして、机上の書類をめくりながら、静かに続けた。
「だが、理念だけでは戦えない。我々はどの道を進むべきか......それを決める時が来ている」
誰もが息を詰めた。時計の針だけが、冷たい規則性を持って時を刻んでいる。 その沈黙を破るように、バンパーがゆっくりと口を開いた。
「それなら、俺たちは俺たちのやり方で決めらせてもらう」
司令官は目を細めた。
「つまり......?」
バンパーの唇が軽く歪む。
「俺らの部隊は、司令部の命令に反してカルトの本拠地を潰す。命令違反だろうが、理念を捻じ曲げるくらいなら俺は戦場に戻って、喜んで死のうじゃないか」
重々しい沈黙が室内に満ちた。だが、それは恐れではなく、決意が生み出したものだった。
「お前らの部隊解散権限は私たちにもあった気がするが......たとえ解散されたとしても続けるつもりか?」
「その通りだ」
バンパーは僕の肩を掴んで言う。
「それと司令官殿。一つ忘れないでいただきたいことがある」
「ほう......?」
みんなが息を飲み込んで見守る中、バンパーは続けて言った。
「俺らの部隊の管理権限はお前ら傭兵部門の司令部にはない。何せ5K評議会《《直轄》》部隊だからな」
その瞬間、司令官含めて全職員が凍りついた。
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5K評議会。財団を管理するトップオブトップの5人組。財団の全てを管理する組織であり、どんな部門でもここにだけは逆らえない。
そしてその直轄部隊というのが僕ら財団機動部隊の一部の部隊。まず零号狼部隊から始まり、α-4「飛び出た弾は戻らぬ」、ε-11「白狼」、ω-7「開かぬミステリーボックス」などの部隊がある。要は財団の最高戦力部隊は直轄部隊になっているということ。この場合、これらの部隊は評議会からの命令か独断でしか動くことができなくなる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……5K評議会《直轄》部隊?」
司令官がゆっくりと繰り返す。彼の声には戸惑いと苛立ちが入り混じっていた。
「どういうことだ……?」
情報部門の責任者が呟くように言った。
「お前らは一体なんなんだ?一体どこの部隊に所属している?」
バンパーはふとこちらに目を配る。おそらく「部隊のこと公開してもいいかな?」と聞いているだろう。僕はそれに対して小さく微笑んだ。
「お前らが聞いたことがあるかは分からないが......俺らはα-0「零号狼部隊」だ。財団最高戦力の......いや世界最高峰の傭兵部隊だ」
バンパーの言葉は冷たく響き、司令室内はざわめき始めた。司令官は一瞬、視線を泳がせたが、すぐに表情を引き締めた。
「それは、私の決定を覆せるという意味ではない。たとえ君らがあの都市伝説級の部隊名を出したからって」
「覆すさ」
バンパーは淡々と答えた。
「俺らの任務は、財団の理念を貫き、この世界を守ることだ。そして今、それが揺らぎかけている」
室内の空気がさらに重くなる。誰もが、次に交わされる言葉がどう転ぶかを見極めようとしていた。
「もしアメリカの要求に従えば、財団は理念を捨てることになる。そうなれば、俺たちが財団にいる意味はない」
バンパーは一歩前へ出る。
「だから、俺たちはカルトの本拠地を潰す。財団の未来を守るために」
司令官はバンパーを睨んだ。
「その行動が、財団全体を危険にさらすと考えたことはあるか?」
僕は今にも飛び出しそうなバンパーを抑えて続ける。
「理念を守るためなら、財団が犠牲を払うこともあるだろう。ただその犠牲はせいぜい僕ら16人のメンバーぐらいだけどね」
司令官の拳が机に沈む。どうやら僕らの行動が相当頭に来ているようだ。
「お前は理想論を語っているにすぎない!」
バンパーの目が鋭く光った。
「違うな。俺は《《財団の本質》》を語っている」
室内の緊張が頂点に達したとき、突如ドアが開く音が響いた。
「やれやれ、ずいぶん騒がしいな。そんなに言い合うことなのかい?」
みんなが入口に視線を向けた瞬間、僕とバンパー以外の全職員が起立して敬礼をした。そこには年老いながらも夢と意欲は消えていない老人、ハドルフ・D・ジョージアン会長が立っていた。
「そんなに緊張しなくても良いじゃないか」
「でも今は緊急事態では」
「若いの。私はお前よりも多くの地獄を見てきた。これで焦ってたら司令官の仕事ができなくなるぞ」
会長さんは司令官を一蹴し、僕らの方に歩み寄ってくる。彼の顔は恐ろしくもなく、おいぼれてるわけでもなく、未だに希望というのが秘められていた顔だった。
「君たちは今まで本当に頑張ってきた。はっきり言って私よりもだ」
「会長さん。それは言い過ぎです。あなたがいなければ俺たちはここにいなかったでしょう」
バンパーがさっきの態度とは打って変わって、とても腰を低くして対応していた。
「そこでだ。もう言ってしまったからこれ以上は隠さないでおこう。君らの部隊の全ての行動を私たち評議会は黙認する。思いっきり暴れてこい」
その一言に司令室内がまたざわめき始める。
「か、会長さん。それだと財団への被害が」
「私は自分たちの被害を第一に考えて行動する組織を作った覚えはない」
ジョージアン会長の言葉が落ちた瞬間、室内は張り詰めた空気に包まれた。誰もが息を詰め、次の展開を予感していた。
「……黙認、ですか」
司令官は低く呟き、視線を長机の書類に落とした。
「会長……それはつまり、財団が公式にα-0『零号狼部隊』の作戦を認めるということですか?」
ジョージアンは微かに口角を上げた。
「公式には認めない。でも止めもしない」
その言葉が落ちた瞬間、バンパーは静かに笑った。
「つまり、俺たちが動くのを誰も邪魔しないってことだ。ようやく今まで通りになったぞ」
司令官は腕を組み、深く息をつく。
「……お前たちの部隊は、財団の理念を守るために戦う。その意思は理解する。だが、それが財団全体の存続と理念に矛盾する選択にならないようにしなければならない」
ジョージアンがゆっくりと司令官を見つめる。
「財団の存続とは、理念を守ることそのものだ。理念を捨てて生き延びても、それはもはや財団ではない」
沈黙が落ち、バンパーが、拳を握りしめる。
「俺たちは、戦場へ向かう。理念を貫くために」
司令官の目がバンパーへと向く。
「……そして、財団はどうする?」
ジョージアンの目が司令官を捉え、静かに言った。
「私は財団の創設者だ。そして、財団は理念を守るために存在する」
司令官は眉をひそめる。
「しかし、生き残らねばなりません。理念を継続するためにも。」
ジョージアンは、ゆっくりと口角を上げる。
「だからこそ、戦うのだ。それが財団の信念だろ?」
その声が室内に響く。
「α-0『零号狼部隊』の作戦を承認する。財団は理念を捨てない。戦え。闇の中で、蝋燭を灯せ」
バンパーは静かに息を吐き、わずかに笑みを浮かべた。
「イエッサー!!」
ジョージアンは最後に司令官へ視線を向ける。
「お前たちは、自分たちの財団をどうするつもりだ?」
司令官は沈黙の中、苦々しく目を閉じる——答えはまだ、決めきれない。 そんな感じだろう。 しかし、僕らはすでに戦場へと向かう準備を始めていた。
△ △ △
「―――ていうことがあったんだ」
「うへ〜よく啖呵切ったね、バンパー。僕ならできないよ」
ガルーダさんのホテルの部屋の中でMINIMIのメンテナンスを行なっているハスが感心しながら笑う。
「でもあくまで黙認されたってことでしょ。支援はないってことだよね?」
「おぉマリーか。まぁそうだな。現状支援してもらえそうなのはお前の武器も調達したアーマメントのところだけだな」
「やっぱり問題は物資ねぇ〜」
みんなが頭を抱えて悩む。いくら行動の制限は無くなったというものの、物資の制限はまだある。これでは本拠地叩き潰す前に弾切れになってしまうぞ。
『なぁ仁。あの人はどうだ?トレーダーの』
「そうじゃん!ダスト、お前は天才だ!」
トレーダーと言われてトカルストのガルーダさんを思い出す。そういえば彼はトレーダー。商売用に大量の弾薬を持っているはずだろう。
「どうした仁。ダストがなんか言ったか?」
突然飛び上がった僕をみんなが訝しんで見てくる。
「そうだね。実はダストが物資の補給先を思い出させてくれたんだ」
『俺を敬え』
「前言撤回。お前は天才のふりをしたクズ野郎だ」
『手のひらぐるぐるしすぎだろ』
「そんなことよりもガルーダさんだ。ガルーダさん」
「えっと......誰だっけ?」
ジェイドが恐る恐る手を上げて問う。
「トカルストで仁を助けていたトレーダー。お前はそういや行ってなかったな」
カインがパソコンで作業しながら答える。
「それとトカルストでメカニクスというやつとも仲間になったんだろ?」
「そうだね」
「どうせならそいつもチームに入れるか」
「攻撃部隊に?」
「後方に決まってんだろ。でもそいつがいいというなら攻撃側に入れるのも考える」
カインがキーボードをすごい勢いで打ち続ける。
「ねぇカイン。今何してるの?」
「ハッキング」
ふとみんなが固まる。
「ハッキングって......どこを?」
「ドイツ内の防犯カメラ。これで今までのカルトの行動を確認する。そうすればどこから来たかがわかる」
カインの説明にみんなが納得し、カインの周りを囲み、画面を見ようとする。
「今のところ地下鉄から来ているのが確認できた。おそらく廃線を通ってきたんだろう」
「俺らが最初に見た場所からか?」
「いや。別の廃線から来ている。誰か俺のバックから地下鉄路線図を持ってきてくれねぇか?財団が作ったやつだ」
ガスターがスッと地図を机の上に置く。そこには現在も稼働している路線だけではなく、未だ現存する廃線の路線図も掲載されていた。
「俺が一番気になるのはシュターンスドルフ線と呼ばれる廃線だ。どうやら一部の駅はほぼ自然に飲み込まれているみたいで、カルトの隠れ家にするなら絶好の場所だ」
「それよりもっといい場所があるぞ」
ふと入り口から男性の声が聞こえた。
「イヴァンさん。いい場所ってどこですか?」
「まぁ、一旦待ってくれ」
部屋の主であるイヴァンさんは僕らのブリーフィングテーブルの前に立ち、とある紙束を取り出した。
「お前らはドイツにはWW2の時に廃棄されたバンカーがたくさんあることは知っているか?」
みんなが首を縦に振る。
「その中でも攻略がむずいバンカーがあってな。俺はファストゥング・アイゼンヴァル。要するに鉄の壁の要塞と呼んでるのが一つあるんだ」
彼は紙束を分け、僕らに配布する。紙にはバンカーについての情報と、イヴァンさんの部下が調べてきたと思われる調査結果があった。
「そしてカルトがそこにいることが分かった。しかも結構な人数がいる。おそらくそこがカルトの本拠地だろう」
バンカーと言われて僕は嫌な記憶しか思いつかない。トラスト市のバンカーとか恥ずかしさの塊だよ。
「それと面白いことも分かった」
「なんだ」
「カルトのトップが判明した」
部屋が一瞬で静まり、みんなが顔をしかめた。
『ようやく分かったんか。はっきり言って遅すぎる』
「ダスト。お前は何人敵を作るつもりだ?」
ダストの言葉に真顔でツッコミながらイヴァンさんの話を聞く。
「今判明したのは顔と呼ばれ方だけだ。顔は次のページに写真が掲載されているから確認してくれ」
1ページ開くと、そこには50代ほどの男性がたくさんの人の前で演説している写真があった。おそらく彼がその指導者だろう。
「こいつの呼ばれ方は《《教祖》》。まぁぶっちゃけそんなのはどうでもいいか」
「あぁ、敵の呼ばれ方なんてなんだっていい。今俺らが必要なのはこいつを抹殺する方法だ」
財団は敵対組織でもたまに話し合いで交渉することもあるが、今回のカルトはあまりにも多くの人を殺めた。そのため僕らが取る手段は
「そうだな。今回は殺害という手段しかないな」




