ep2-9.諦め調子の突貫攻略
——【帝都スカイタワー】:第十六層:Sランクコース
お二人に、陰りが見えてきたのは迷宮に終わりが見えてきたころだった。
電算さんは所々《ところどころ》にジャージに焼き焦げた跡がある。彼はずっと無傷だったけど、前層からちょくちょく傷を負い始めている。そろそろ大きな怪我をしてもおかしくない頃だ。
一方の柳山さんは彼より重体。左腕、右足に目立つ焼け跡があるし、身体のあちこちに切り傷や擦り傷がたくさん。のわりにはピンピンしてるし、泣き言一つ零さない。
それに怪我をするたび笑っていやがる。こわ。この人、ホントに鈍化剤使ってないんだよね?
展望台の外周を囲んでいた手すりと窓は無くなり、吹きさらしに。ひゅうひゅうと冷えた風が外からやってくる。
外は絶えず鋼鉄で出来たカラスの群れが滞空していて、わたしたちが隙を晒すのを今か今かと待ち構えている。現実のそれと違い、一匹一匹が一メートルちょっとある。
配信で知ったけど、名前は【メタル・クロウ】なんて言うらしい。
お二人が戦っている侍の甲冑は、銀色。こやつらは【巌流師範代候補】なんて言うらしい。ちなみに十二層で出てきた銅色は【巌流高弟】。青銅色は【巌流門下生】だね。
見た目こそ単なる色違いだけど、実際は全然違う。稲妻の斬撃を波動として放てる上、動きも早い。
突如、窓の外で青白い光が線を引いていくのが見えた。光はカラスの群れに幾度となく反射し、やがて侍と斬り合う電算さんの下へ。彼に対処する余裕はなさそうだ。
斜め前からは稲妻の斬撃が飛ばされていたし、中央の小穴はまた電流の準備をしている。おまけに【メタル・クロウ】が三匹も接近している、と来た。
——スキル:【闇黒の帳】
——スキル:【侵食する闇黒】
【闇黒】が電算さんの足元から生じる。彼の視界を塞がないよう、薄く、透明感を持たせた【闇黒】が。
先が見えちゃあ【闇黒】っぽくないんだけど、性能はほぼまんまだ。そう調整した。ま、吸光能力だけは弱くなっちゃうし、余計に魔力を食うんだけどね。
【闇黒の帳】は外から来た電流と衝突。相殺するように、帳と青白い光が消えた。
作り出した【闇黒】はもう一つ。彼を襲おうとした【メタル・クロウ】にひっつく。
徐々に黒が鈍色のボディを蝕んでいくのを、カラスは翼をはためかせて振り払おうとする。けど、しつこく【闇黒】は纏わりつき、電算さんを攻める隙を与えない。
——スキル:【フェイタル・ショット】:使用者:『電算巡』
——スキル:【シャープ・キリング】:使用者:『電算巡』
三発の銃声と、二度の白刃の煌めき。
電算さんの足元に、胸元に穴の開いた侍と、首のない侍の胴体が倒れている。
わたしが稼いだ時間で、彼は二人の【巌流師範代候補】を倒したようだ。
ただ、ジャージの左足の部分が焼き焦げ、左腕から微量のDE粒子が流れていくのが見えた。
敵は倒せたけど、彼自身もダメージを負ってしまっている。
今度は柳山さんのサポートに意識を切り替える。【メタル・クロウ】達は、彼女に狙いを定めているみたい。群れ全体が徐々に近づきつつあるし、赤く輝く瞳が向けられている。
電算さんと違って、【巌流師範代候補】にしょっちゅう斬られたり、電流を流されたりしてるからね。隙を突くならこの子だー、って思ったんだろう。
ちなみに、わたしは対象外。【闇黒はいずこにも潜む】で隠れているから。ジョブ、【闇黒に潜む者】のジョブ特性も相まってそう簡単には見つからない。特に今はお二人が注意を惹きつけているし。
ともかく、わたしがいる以上、そう簡単には攻めさせない。
——スキル:【悪夢:終わらぬ闇黒時代】
【闇黒】を展開。【メタル・クロウ】、三体の視界を覆う。彼らは途端に悲鳴に似た鳴き声を上げ始め、柳山さんから離れていく。その異様な様子に群れの他の奴らもつられてか、段々と距離を取っていった。
けど、その間に二人の【巌流師範代候補】、二人の【巌流高弟】から彼女は四方を挟まれていた。
前後から稲妻の斬撃が放たれる。左右からは侍がそのまま突っ込んでくる。柳山さんは剣を盾のように掲げて前の侍へと走っていった。どんな意図で動いているか分からない。
彼女の影に【闇黒】を潜ませて、追ってゆく。
並行してお二人に近づかんとした【メタル・クロウ】や飛び交う電流のうち危険なものを【帳】と、【悪夢】で対処する。
——スキル:【柳流剣技・天斬り】:使用者:『柳山未知留』
柳山さんは勢いよく剣を振るい、三人の侍を斬り飛ばす。ただし、背に迫る稲妻の斬撃は躱せそうにない。用意していた【闇黒】を帳に変換。すぐさま波動を防いだ。
一安心したところで、突如、上下左右の砲口が起動し、光が集まった。
不可思議に思って、辺りを見る。お二人はどちらもガラス床のあるとこにいない。となると、原因は……わたし?
足元に目を遣ると、案の定だった。わたしが踏んだガラス床が、警告するような薄い赤色に染まっていた。
稲妻が落ちてくる。レーザーのように、電流が発射される。
急いで柳山さんと、電算さん、わたしの周囲を【帳】で覆う。多すぎる電流のせいで、視界がまともに利かない。帳が尽きても補修できないし、彼らの動きに合わせて位置調整も出来ない。マジごめんなさい。
やがて雷撃が収まると、すぐ帳を消した。維持しても魔力の無駄だ。
すると、わたしの視界が青白く染まった。咄嗟に帳を出そうとしたけど、もう間に合わない。
「ぎいやぁああああああ!」
直撃した電流が体内を駆け巡っていく。全身が逆立っていくような感覚についわたしは悲鳴を上げた。
『次のニュースです。本日、中東で行われていた軍事衝突に、ウィンストン・スミス氏が武力介入しました。同氏により、両国の主要軍事施設及び兵器は解体され、作戦行動中の兵士は強制的に武装解除を受けました。同氏はこの介入について、「中東圏における主権国家の紛争は国際秩序を著しく脅かします。いかなる』
機人ウィンストンが瞬く間に施設や兵器を解体する映像を背に、ニュースキャスターが原稿を読み上げる。
いつかの日にテレビで流れた映像と音声が頭に浮かんだ。脳のリソースがニュースを再生することに割かれ、思考を乱す。
これが状態異常、【情報過多】だ。
幸いにしてダメージは少なかった。けど、一歩間違えれば相当HPを削られていたはずだ。
今度こそ落ち着いたところで、二人の様子を見る。電算さんは無事、軽傷で、マズい怪我はない。けど、柳山さんは脇腹に赤黒いエフェクトがあった。
刺し傷だ。刀で突かれたのだろう。
傷口からは緑の粒子が絶えず零れている。早急に覆わないと。
——スキル:【継ぎ接ぐ闇黒】
柳山さんの傷を急いで【闇黒】で覆う。治療は出来ない。けど、接ぐまでならいける。この魔法で傷口を塞ぐと、更なるDE粒子の流出と痛みを抑えられる。
また、患者が激しく動いても傷口が更に広がることもない。軽傷程度なら効果が薄いけど、重傷であればあるほど役立つ魔法だ。
とりあえず当面の危機は脱した。【メタル・クロウ】はまだ沢山いるけど、侍は見る限りだいぶ減った。カラスどもは道を塞いだりして来ない。ここからの攻略はすんなりと行くだろう。
それに、次の層に繋がるエレベーターが見える。ここの層はもう突破出来ると見て良いだろう。
ただ、進めたとしても次の層が限界だと思う。
わたしはこのメンバーでは、【帝都スカイタワー】を攻略できるとは思ってない。
ここはSランクコースだ。お二人のようなAランク冒険者になりたての人が来るべき場所じゃない。わたしみたく中途半端な輩が攻略できる迷宮じゃない。
それで一人足りないパーティーで攻略するだなんてもってのほかである。
先日、ソロで攻略したゾーイさんだって、Sランク、それも限りなくプロに近い実力があったからこそ、成し遂げられたのだ。
十六層まで順調に進めていたのは、スカイタワーが二十一層もあるから。層数の多い迷宮はそれだけ上層の難易度が低く、深層からようやく本領を発揮してくる。
低層であれば数層ごとに変化があったが、ここからは層を突破するごとにギミックもモンスターも強化されていくことだろう。
それでも頑張った方。普通ならこの層で脱落してもおかしくないくらいだし。でも、見るからにお二人の攻略はキツくなってるし、わたしもミスがちらほらある。
ここまで来たし、出来ることはするつもり。手を抜いている、なんて思われないようには。
お二人との関係を必要以上に悪くし過ぎないように。嫌なヤツ、ではなく、 惜しいヤツか、悪くないが実力が足りんヤツ、として評価されて、この場を良い空気感で乗り切れるように。
悔恨を残さず綺麗さっぱりお別れできるように。




