表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド2「星の戦の絶えぬ世界で」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/33

020:思わせぶりなすれ違い会話

「キョーちゃん、助かったぜ。モーバーのおっさんのところの部下が協力的になってくれたおかげで、こっちも仕事がしやすくなった」


 会議から数日経過してから入弦の部屋にやってきた吉野はかなり上機嫌だった。どうやらモーバー将軍が入弦に行った協力という言葉に嘘はなかったようだ。


 少なくとも吉野がこれだけご機嫌ということは、それなり以上の効果が望めたということだろう。


 機械だというのにその表情が見えるかのようなオーバーリアクション。あの鰐の顔の表情はわからずとも、目の前にいる吉野の表情は透けて見えるから不思議である。


「そりゃよかった。それで、何か問題は?情報は得られたか?」


「あぁ、悪いことにキョーちゃんの勘大当たりだ。反乱軍はかなり計画的に動いてる」


「……この間の大勝利も、つまりは向こうの思惑通りだったと?」


「まぁ、半分は思い通りってところか。ちょっと待ってろ」


 吉野は説明がしやすいように入弦のデスクにデータをいくつか取り込ませて入弦たちの管理している宙域データを展示する。


 そこには入弦たちが今いる要塞や、その周辺、帝国本星に加え、その周りにある諸星などもすべてあらわされている。


 その中にいくつかの赤いマークが点滅しているのが入弦の目にもわかった。


「この赤いのが最近うちと反乱軍の間で戦闘が起きた星、あるいは宙域だ。そして、そこに向かうために向こうさんが使ったルートが、こいつ」


 赤い点につながるように、黄色いラインが形成されていく。いくつかのルートがあるものの、それらが相手が使っているルートであるということはかなり重要な航路を表していることにもなる。


「よく調べられたな。どうやったんだよ」


「なぁに、向こうもそれなりにでかい組織になってるからな、本丸の情報はさすがにまだはわからねえけど、それでも通った道を確認するくらいはできるって。問題なのは、このルートが帝国の巡回ルートを交差する形で使われたってことだ」


「……帝国の監視網を縫う形で通ったと?」


「そうなる。こっちが向こうの情報を知っているように、同様の調査をやってるってことなんだろうよ」


 こちらができることが向こうにできないという理屈は通じない。吉野が優秀だったとしても、反乱軍にも優秀な人材はいることだろう。


 その人材がこちらの監視網を掻い潜れるだけのタイミングを掴んでいたとしても不思議はないのだ。


「そんでこっからがネックだ。連中は確かに、いくつかの星の戦闘に参加した。それなりの数の軍が動いたのも間違いはなかったんだ。問題は、その大量の軍や部隊が戦闘のために動いていなかったことなんだ」


「何か別の目的があったか……まさか……」


「さすがキョーちゃん話が早いぜ。そう、こっちが掴んだ、相手の大軍が動いているって情報は決して間違いじゃなかったんだ。連中は、あえて軍を大量に動かして、こっちの補給路や、厳戒態勢を敷いたときのこっちの動き方をとにかく確認させていった」


「……直接ぶつかったあの軍隊は、それを知るための決死隊ってことか?」


「戦闘を長引かせる必要があったかは重要じゃない。そこに至るまでの過程を知りたかったんだろうよ。決死隊というよりは、完全な囮役。戦闘行為さえすればいい」


 つまり、補給路や移動のための航路、それらを確認するための布石として行われたのが先の戦闘だということらしい。


 入弦はそれらを映像でしか見ていないためにあまり多くの感想を口にすることはできなかったが、それでもたくさんの人が参加していたはずだ。


 反乱軍からすれば戦力を保持しておきたいはずなのに、それだけの軍隊を、しかも何回も壊滅に追いやるような行動をとっている。


 そしてその背後で動いている別動隊がいる。その作戦がどのようなものか、入弦には見当もつかなかったが、これだけは言えることだった。


「こちらと比べると少数とはいえ、あれだけの数を捨て石にして、それでもなお価値が勝るだけの作戦を向こうが考えているってことか?」


 戦闘における戦果は被害と得られる利益による天秤によって量られる。これだけのことをしてなお、それを実行に移すだけのメリットが相手に有ったとしか考えられなかった。


「さすがキョーちゃんだ。そこに気付くか。見てくれ、戦闘があった星は、俺らがいる要塞や帝国本星を囲うように、散り散りになっている。あと一回か……多くても三回同じような戦闘を行えば本土を含めた、帝国の支配する全宙域からの移動経路を網羅することになる」


「……つまり、連中の狙いは……」


 こういう時、入弦が気を付けていることは結論を口に出さないということだった。吉野とはそれなりに長い仲だ。この世界でもそれは変わらないだろう。


 そしてこういう言い方をすれば、次に吉野がどう反応するかも予想はできる。そして予想通り、吉野は入弦の言葉をつづける形でうなずいた。


「そう、帝国本星。連中はこっちの動きを丸裸にしたうえで、たぶん、奇襲攻撃を仕掛けてくるはずだ。警戒網や補給、移動経路の穴をついて……それがどういうルートなのかは俺にもまだわからねえけどよ」


 深い事情を知らなくとも、吉野ならばこういう風に話を続けてくれると信じた甲斐はあったというものである。


 この世界の事情を完璧に把握できていない入弦からすれば、ある程度予想して言葉を選ぶほかない。


 それがあまりにも的外れだと怪しまれる。何もわかっていなくとも、全く見当がつかなくても、こういう何か含みを付けたような、それでいて曖昧な言葉を使うことがこの世界における入弦の処世術だった。


 吉野のおかげで、相手が奇襲を行おうとしていることは知ることができた。とはいえまだそのルートが不明瞭なままだ。


 本星に攻め込まれれば、当然大規模な戦闘になるだろう。この宙域の中で本星に攻め込むだけの部隊を送り込むということはそれこそ正面衝突になる。


 もちろん入弦の命も危ない。


 その時点で入弦は死ぬ可能性がかなり高くなってしまう。それだけは避けなければならない。


 相手の奇襲はわかってもそのルートがわからなければ厳重な守りを敷くことはできない。可能であれば本星そのものにたどり着くよりも前に討ち果たしたいところではある。


 とはいえ、反乱軍だって散り散りになっているところから本星を目指してくるはず。


 本星を囲う形で、衛星軌道を保っている四つの要塞、そしてその要塞間に築かれた防衛網、このどれか一つを突破する形で戦闘を挑むだろう。


 奇襲戦というのは相手に知られればその時点で失敗だ。だがその奇襲を逆手に取ればまたとない好機にもなる。


 相手を一網打尽にする。その方法を入弦は考えていた。


「キョーちゃん、どうするよ」


「……相手を誘い込めないかと思ってな。一か所に」


「おいおい正気かよ。あらかじめ手を打って集まる前に仕留めちまったほうがいいんじゃねえのか?本星に近づくリスクはさすがにやばいって」


 吉野の言うことも間違いではない。ここで入弦として、この世界の入弦であればもっと別のことを考えられたのかもしれないが、あいにく今この場にいる入弦は完全な素人だ。


 正気かと言われても仕方がないのかもわからない。事実、本星が落とされた時点で敗北が確定する可能性は非常に高いのだ。


 ただ、入弦からすれば一か所に集めてしまえば入弦だけはそこには近づかないという策が使える。


 本星に侵入されようと、仮に帝国が敗北しようと、入弦にとっては自分が生きていればそれでいいのだ。


 死の運命はこの奇襲である可能性が非常に高い。となれば、相手の戦力を一カ所に集めたほうが逆に入弦としては安全なのだ。


「吉野、反乱軍の戦力、最大がどれくらいかわかるか?」


「そりゃ……調べようと思えば……」


「この要塞と、その周辺の防衛ラインのレベルも調べられるな?」


「もちろんだ。うちの規模なんて余裕で調べられる。これがこの要塞の防衛範囲とその防衛網の図だ」


 吉野は手慣れた様子でそれを見せてくれる。今入弦たちがいる要塞は球体をした衛星型の要塞だ。これが四つ、帝国本星を中心とした軌道を描く形で周回している。そしてその周辺に当然防衛ラインが築かれているのだ。それらも表示され、要塞を含めて四段階の防衛ラインを敷いていることになるのが入弦にも確認できた。


「言っとくけどよ、ざっくりの換算でも、仮に反乱軍が一斉に襲い掛かってきたら、本星への侵入を許す可能性は高いぜ?もしこの奇襲が確実に行われて、相手の勢力が一点に集められたら、さすがのこの要塞だってまともには……」


 吉野はそこまで言葉に出して言葉を詰まらせる。表示されているよう際の映像、そしてその防衛ライン。それらを見比べて少し思案した後、入弦の方に顔を向けた。


「まさか……キョーちゃん……本気か……?」


 驚愕したような声を出す吉野に対し、入弦はどう答えるべきか迷っていた。だが、吉野は何かを思いついたのだろう。


 ここで何かを言わなければ不自然だ。どう答えるかによって入弦の今後が変わるだろう。逃げると思われているのか、それともここから反乱軍を壊滅させられるだけの一手を思いついたと思われているのか、この一言にかかっている。


 どうするべきか。入弦は少し悩んでから結論を出す。


「可能ならの話だ。他の将軍にも話をしておかなければいけないし、俺の一存では決められない。だが……」


「……確かに、これが成功すりゃ、相手に大打撃を与えられる。帝国の勝ちは揺るがなくなる……けどよ……」


「ならやる価値はある。違うか?」


「……本気なんだな」


 これ以上応える必要はないだろうと、入弦は口をつぐんだ。だが内心、吉野お前何言ってるんだ状態だった。


 勝手に盛り上がって勝手に理解して勝手に納得してしまった。いったいどういう作戦を入弦が考えたのか、入弦だけがわかっていない。


 何が起こるかわからない以上、入弦には何が最善かなどわからない。少なくとも適当な回答はこれ以上は控えたほうがいいだろうということは理解していた。


「……わかった。根回しの方は俺からしておく。お前は、他の将軍たちにこのことを話してみてくれないか。こっちで情報回して、うまいことはなしをすれば、他の将軍も悪い顔はしないように交渉しておくから」


「場合によっては俺の名前を出しても構わない。そのあたりはお前に任せる」


「おうよ。任せときな。ばっちり根回ししておいてやるよ」


「悪いな。いつも助かる」


「よせよ。このくらいなんでもねえって。そうと決まれば忙しくなるな!もう時間はあんまりねえだろうし!」


 この話はここで終わりになりそうだと、入弦が安堵しているなか、ふと気づく。これだけ優秀な吉野だ。他のところでもかなり活躍できるだろう。となれば、遠くからの反乱軍のルートを特に調べさせておいたほうがより確実になるのではないかと。


「なぁ吉野、お前が直接反乱軍を調べるっていうのはなしなのか?」


「俺が?何言ってんだ、俺は」


「ここにいなくても、直接向こうの指揮を取れば仕事もはかどるだろうに」


 その言葉に、吉野は一瞬動きを止め、それから入弦の頭を軽く叩く。


 機械の体と入弦のヘルメット、この二つがぶつかったことで、どちらもよい音を部屋の中に快音を響かせる。


「バカ言うんじゃねえよ。俺がいなきゃ、キョーちゃんが困っちまうだろうがよ。そういうこと、もう言うなよ」


「それも、そうか。そりゃそうだ。そうだったよ」


 その時、わずかに吉野の声が震えていることに入弦は気づかなかった。機械の声であるが故に気付きにくかったというのもあるが、ヘルメットが音を響かせてしまったのもあるかもしれない。


 この時に変化に気付いていれば、もう少し違う手段も取れただろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ