018:一見黒幕達の開合
入弦がこの世界にやってきて、早いもので数日が過ぎていた。
入弦はこの世界の情報などを集めつつ、自分が今どの立場にいるのか、何をしてきたのか、そしてどのように思われているのかというのをとにかく調べつくした。
とはいっても、文字そのものを読むのにも苦労したのだ。多少の文字ならば読めるようになったとはいえ、それでもこの世界の自分自身が何をやってきたのか、その程度を理解するくらいしかできなかった。
反乱軍と帝国、その戦いはかなり激化しているようだということも、調べた中の情報で把握できた。
特にここ数カ月の動きが頻繁になってきている。そのためもあってか、入弦は皇帝、および各将軍が参加する会議に召集されていた。
入弦自身もそこまで真っ当な外見をしているとは言い難いが、他の将軍たちもほとんどが普通の人間の様相ではなかった。
というか、地球の人間という定義に当てはまるものではなかった。
良くも悪くも、入弦のイメージする宇宙人という感じが強い。人型ではあるが口元に髭、髭と言っていいのか、触手と言っていいのか、毛ではなく肉でできた何かを生やし、頭頂部に毛はないが首に黄色い体毛を生やした緑色の肌をした人物。
およそ顔や体というべきものがなく、球体の肉体を浮遊させたままになっている、生き物かどうかも定かではない茶色の物体。
腕が四本あり、足は動物のそれに近い四足歩行、体毛が多く、何より筋肉質だ。顔は入弦の元の世界で言うところのライオンに近いネコ科のそれであることはわかるのだが、細部はライオンのそれとは異なっている。
このように、他にも山ほど訳の分からない人種が総勢十人。まともな人型をしているほうが少ない状態の中で、入弦のような完全な人型は割と少数派の部類になっていた。
この席上のもっとも上座に位置している皇帝もまたまともな人型ではなかった。異様に背が高く、各四肢の関節が二つ存在している。座っていてもわかるほどのその背の高さと、顔と胴体が一致しているような、胴体部分に顔があるような、異様な外見をしていた。
ゲームにあんなキャラがいたなと、入弦は見当違いなことを考えながらも、周りの面々を確認する。
集まれるものは集まり、集まれないものは立体映像などで参加している。テレビ会議のようなものだろうかと、入弦は自分の頭の中にある知識を使ってこの場に適応しようとしていた。
それぞれの将軍が各報告をする中で、入弦は自身の報告をするまでに他の将軍がどのような報告をするのを聞いていた。
報告と言っても最近の情勢などを皇帝や他の将軍に伝えるのがこの会議の目的でもあるらしい。
「私の方からの報告は以上となります。して陛下、一つだけお耳に入れたいことが」
「……なんだ?」
低い声が会議室の中に響く。入弦の師匠はこんな人物なのかと、少しだけ体が震えるのを感じ取っていた。
「私の部下からの情報ですが、昨今の反乱軍との戦闘に、少々違和感を覚えていると。我が方の圧倒的優勢で事が進むのは当然ではありますが、反乱軍の動きに妙なところを確認しているとのことです」
「……具体的には?」
「こちらの勢力に対し、相手の勢力が少なすぎる、どこか別の場所に主勢力を配置している可能性があるとのことです。私も同様の見解を……」
これは吉野を介して入弦が気づいたことを各将軍が情報分野の人間を介して知ったということだった。
「ふむ……それで?」
「はっ、こちらでも反乱軍の動きに特に気を配っているところです。何か追加のご報告があれば、その際に」
この場で、そして満足に調査もできていない段階で皇帝にそのことを告げることに意味はない。意味があるとすればそのことに最初に気付いていたとアピールするためでもあり、他の将軍が仮にその情報を掴んだとしても、第一にそれを伝えたのが自分であり、手柄そのものの根元の部分にいると印象付けるためでもある。
将軍のような位の高さを得ても、やはり上の人間へのアピールは欠かさないということだろう。否、そのようなことができるからこそこれほどの役職に就けたと思うべきか。
「では次……我が弟子よ、報告を」
「はっ……私の方では特に問題はありません。粛々と、準備、および対応を進めております」
入弦は過去の会議の映像や音声データをもとに、この世界の入弦の口調を可能な限り再現していた。
いきなり口調が変わってしまえばそれだけで疑惑の目が注がれることになる。こんな会議の場で、無用な疑いをかけられたくはない。
「……おい、カナドメ将軍、陛下の御前でありながら、報告することがそれだけか」
やはり来たかと、入弦は半ば予想していただけに内心ため息をつく。
これほどの若さで将軍となり、さらには皇帝の弟子というだけで周りの将軍からすれば面白くない存在だろうことはあらかじめわかっていたことだ。
これは所謂やっかみでもあり、普段の不満を皇帝の前であえて言うことでその不和と入弦の存在そのものをどうにかして蹴落とそうとする他者からの因縁に近い。
「陛下にお伝えするほどのことがあるとは思いません。少なくとも現段階では」
「陛下にお伝えせずとも、我々には伝えるべきことがあるのではないか?貴殿の手駒が動いているという情報もある」
「私の部下にはそれなりに働き者が多いので、私も助かっているところです。それとも、何か問題が?」
「問題があるかどうかの話ではない。貴殿が部下を積極的に動かすというのはそれなりの事情があってのことだろう。それを説明せよと言っているのだ。出なければ連携も協力もできん」
つまり、特に問題である行為を行っているわけではないが、難癖をつけたいからとにかく情報を出せと言いたいのだろう。
だが皇帝の前であることもあって、協力できるならばしたいからこそ情報を共有してほしいなどという言い方をする。
随分と遠回しだが、それでも筋は通っているために、入弦としても話をせざるを得なかった。
「先ほどお話が出た一件、私も僅かにではあるが情報を得ていました。反乱軍の動きが妙であると」
「ほう……貴殿も掴んでいたか」
「はい。ですが、私の方に上がってきた情報は現場の人間が感じた違和感程度のものでそれほど多くなく、その裏付け、という形で動いていたのです。反乱軍との戦闘が圧倒的に優勢であることは喜ばしいことではありますが、優勢すぎるというのが少々気になったもので」
あくまで自分はそこまで情報は得ておらず、その確信に至るための調査という名目を出す。そうすることで先に情報を出したものよりも劣っているというところを印象付けることができ、なおかつ相手に優位性を与えることで難癖をつけるその口を緩和させることができる。
相手を立てるという言い方をしてもいいかもしれない。
だが、一人ではなく、二人の将軍が、それも入弦がその件に触れたことで、反乱軍の動きに対する内容がただのアピールではなく、反乱軍の作戦によるものではないかと、その場にいた全員が認識を改めていた。
「それと、それとは別に中立立場にある連邦、評議会に対する情報も集めています。こちらもまだ動き出したばかりであるため、ご報告できることは今のところはありませんが」
「中立とは口ばかりのあの連中か……陛下、こちらでも情報を集めておりますが、奴らが反乱軍に手を貸しているのはもはや確定的でしょう。手を打つべきでは?」
どうやらほかの将軍も、中立の立場を維持し続けている連邦および評議会に関しては怪しいとは感じているのだろう。
だがその確たる証拠がない。だから攻められずにいるようだった。その証拠に、他の将軍が遮るように声を上げる。
「確固たる証拠もなくそのようなことができるはずがないだろう。まだ手を出すべきではない」
「ふん、帝国の兵力をもってすれば押し潰せる。結局は金にものを言わせている連中ではないか」
「それでは敵を作りすぎると言っているのだ。反乱軍が大きく膨れ上がったのは、敵を作りすぎたからだということを忘れたか」
「その反乱軍もすべて押し潰してしまえばいいだけの事!連中の肩を持つというのか」
入弦の報告などどこ吹く風か、将軍たちは言い争いを始めていた。今までの会議でも似たような展開は何回かあった。つまり入弦に多くを発言させないために、このように白熱した議論しているふりをして、入弦の持ち時間を少しでも潰そうとしているのだろう。
だがこの状況は入弦としてはありがたいことだった。何せ入弦が今話したいことは既に話し終えたのだ。
一ついい忘れている、というか気になっていることがあるとすれば、先日師団長から告げられた民間船のことについてだ。
既に吉野にこのことを連絡し、そのことについても情報を調べてもらっているとはいえ、その民間船のことまでここで話す必要があるかどうか微妙なところである。
とはいえ、先の将軍も掴んでいない情報を出せば、余計なやっかみを買う可能性もある。
中身の人格が入れ替わり、口調だけではなく人格的な部分まで再現できているかどうかは不明で、あまり多くを話せばぼろを出してしまう可能性も高い。
可能な限り話す量を少なくすれば、不信感を抱かれることもない。そういう意味ではこの状況は入弦にも将軍たちにも利益のある状況と言えるだろう。
「そこまでにしろ、陛下の御前だぞ」
「こ、これは陛下、失礼を」
「お恥ずかしいところをお見せいたしました」
将軍の中でもドンと構えていた一人が白熱した議論をしている将軍たちを嗜めると、将軍たちは次々に謝罪をしていく。
宇宙に出るようになり、ただの人間ではない他の星の人類までもを巻き込んで戦争をやっているというのに、こういうところはどこの星のどこの生命体でも同じようなものなのだなと、入弦は辟易していた。
そんな将軍たちのやり取りももはやいつものことなのか、皇帝は気にした様子もなく、将軍たちを一瞥すると、最期に入弦の方に目を向けた。
「我が弟子よ、他に何か報告することは?」
「私からはありません。各将軍も、私が危惧しているところをご理解していただけたものと思います」
先程の話で将軍たちは反乱軍の動きに目を向けるだろう。
目の敵、とまではいわないが、入弦のように若くして将軍になったような人間が目障りなのは事実。そんなものでさえも掴んでいる情報をほかの将軍たちが掴んでいないとは言えない。おそらくは躍起になって情報を集めることだろう。
中立の二つの組織に対して意識が向くかどうかはさておき、今最も、入弦を殺す可能性が高いのは反乱軍だ。この帝国と呼ばれるこの組織が全力をもって立ち向かえば、まだその死の可能性を少なくすることができる。
入弦の言葉に皇帝は不満なのか満足なのか、小さく息をつく。その外見というか表情は非常に読みにくい。というか入弦のような人型ではないために、表情がどの感情を示している者なのかわかりにくいというのもあった。
もう少しわかりやすい外見にしてくれればいいものをと思わずにはいられないが、そのあたりを言っても仕方がないことだろう。
「わかった。では次、報告を」
入弦の次の将軍が再び情報共有を始める。それらの話を聞きながら、入弦は情報を整理しつつあった。




