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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド2「星の戦の絶えぬ世界で」

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014:見た目は完全にロボ

「……宇宙スタートかよ……」


 つい、入弦は呟いてしまっていた。前の世界は荒野スタートだったが、今回はいきなり宇宙にいる。そもそもこの世界がどんな世界なのか全くわかっていないが、少なくともこの世界がもともと自分がいた世界よりもずっと文明が進んだ世界なのだということを入弦は理解していた。


 だが、今ここ、入弦のいる場所が本当に宇宙なのかどうかも分かったものではない。実際はただ映像を映しているだけで、ただの建物かもわからない。


 とにかく情報だ。情報を得なければと、入弦は自分が座るべき場所と思われる机に何か情報はないかと探してみることにした。


 と言っても、机には引き出しらしきものも何もない。


 机であるのは間違いないのだが、何かをしまう類のものが一切存在しないのだ。


 これは本当に机と言ってもいいのだろうかと疑問に思っていると、机の一部に僅かに突起があるのに気づく。


 それがパソコンなどで言う電源ボタンに近いことに気付き、入弦はそれを押してみた。


 すると机から映像のようなものが空中に投射され、目の前にいくつもの画面が映し出される。


 それが所謂ディスプレイであると気付くのに時間は必要なかった。そのディスプレイは軽く手で触れてみると操作することもでき、近未来的なその技術に入弦は素直にテンションが上がっていた。


 こういったところで情報を集められれば何か得られるかもしれない。そんなことを考えて、入弦はふと思う。


『アカさんアカさん、一ついいか?』


『なんだ、随分とアドバイスをもらうのが早いではないか』


『いやそうじゃなくて、ちょっと気になったんだけども……それぞれの世界の俺の記憶を俺が手に入れることってできないのか?俺自身が覚えてることを俺も知ることができればもっと情報収集楽になると思うんだけど』


 それはつい先ほどまでいた世界で思い知らされたことだ。たとえ情報収集によってその世界の常識などを理解することができても、その世界で自分がやってきたことすべてを知ることなどできない。


 すでに悪行の限りを尽くしていた場合、文字通りその目撃者などがいなければそれを知ることはできないのだ。


 せめて自分の、今こうして宿っている『京入弦』という人間の記憶を読むことができれば、より優位に事を進められると思ったのである。


『いや、それはやめておいたほうがいい。お前という存在そのものが危うくなるぞ』


『どういうことだ?』


『記憶というのは肉体と精神両方に宿るものでな。お前は今精神だけの状態で別の体に乗り移っている。基本的に経験によって人格は形成される。精神に残っている記憶によって、今のお前という個人は形成されている。だが、もし肉体の方の記憶を精神に接続するとなれば、今のお前の精神にもその記憶が宿り、人格そのものも歪むだろう。元に戻った時、複数のお前の記憶と人格が混在することになるぞ』


『つまり……?』


『……つまり、お前は複数の人格を混在した別人になってしまう可能性が非常に高いということだ。正気を保てる確証はなく、お前自身の人格が崩壊することもあり得る』


『つまり、混ぜたら危険状態ってことか』


 思っていたよりもやばいことになるのだなと入弦は今の自分の状態がだいぶ綱渡りになっていることを知った。


 だがそれであればなおの事、この世界の自分がやったことを客観的に把握しなければならないと、入弦は机から映し出されたディスプレイから何かしらのヒントを得られないかと探すのだが、ここで一つ問題が発生する。


 文字が読めないのだ。


 この世界の文字は入弦が知っている日本語とは全く違う。そのために全く読むことができなかった。

 記憶や知識を継承しないということは当然そういう部分もわからなくなるということでもある。


 ひとつ前の世界では日本語が存在していたため読むことができたが、どうやらこの世界には日本語は存在していないらしい。


 だが文字の形はローマ字に近い。どうやら英語などから続いた世界がこの世界の基本的な文字になっているのだということは理解できた。


 数字も基本的な0~9までのものと変わらないようで、そこだけは理解できたが、英語が得意ではない入弦ではその内容までは理解できなかった。


 文明的にかなり進んだ世界だ。文字媒体ではなく映像媒体でも情報が残っているはずであると、入弦はデータを漁りまくる。


 するといくつかの映像データらしきものを見つけ、それを閲覧することができた。

 それはどこかで行われたと思われる戦闘の様子だった。


 何を意味しているのかは分からないが、少なくとも映像データに名前が付けられているというあたり、情報を共有するために作られたものであろうということはわかった。


 そこには大量の兵士と思われる、近未来的な、無駄のないプロテクターの集合体のような鎧を着た者たちが隊列を組んで進んでいた。


 近くには巨大な四足歩行の砲台を搭載した兵器なども並走している。


 映像の遠くの方では輸送機のような巨大な宇宙船のようなものが、兵器や人員を次々と運び込んでいた。


 空中ではこれまた見たことのないような戦闘機が飛び交い、敵陣地と思われる部分へ攻撃を仕掛けたり、同じく空中を飛び交っている戦闘機と空中戦をしたりと地上も空中も忙しなく動き続けていた。

 少なくとも入弦がいたような二十一世紀レベルの技術ではないのは確かだ。


 この世界は入弦のいた世界よりもずっと科学文明が発達した世界なのだということはこの時点でも確定した事実であると理解できる。


 入弦が動画を眺めながら、この世界はずいぶんSFチックだなと考えていると、部屋の扉が何やら鳴り響く。どうやら来客を知らせているようだった。


『入りますよ』


 こちらの返事を待つこともなく、その人物は入ってきた。


 いや、人物という表現が正しいのかはわからなかった。自動扉を開けて入ってきたのは、見た目人型のロボットだった。


 鈍色に輝く外装、そして一歩歩くたびに響く機会の駆動音。全身にちりばめられた装甲に加え、その手には何やら箱のようなものを持っている。


 その胸元には『YY』という記号が取り付けられている。スポンサーか何かの広告のようだと考えている中、入弦はやってきたロボットを見て目を細める。


「せめて返事を待ってほしかったんだがな」


「おっと、これは失礼。さすがに無遠慮過ぎましたか」


 目の前のロボットはおどけるような素振りをして軽く謝罪をして見せる。この世界の入弦とどの程度の間柄なのかわからないため、まずは適当にはぐらかしながら情報を探ることを最優先にしていた。


「それで?何か用でも?」


「頼まれていたものの修理ができたんで、届けに来たんですよ。出力の調整は問題ないけど、あまり乱暴に使うと次は直せないかもって言われてるから、扱いは慎重に」


 そう言ってロボットは入弦の机の横にまでやってくるとその手に持っていた箱を机の上に置き、開いて見せる。


 その中には棒状の、いや筒状の何かが入っていた。


 それが一体何なのか、入弦には理解できなかったが、それが入弦の持ち物であったということは間違いないのだろうと考えていた。


「何を見て……あぁ、この間のザラーピ星の戦闘映像か……随分熱心なことで。あの戦いはこちらの圧勝だったでしょうに」


 今入弦が見ているこの映像はどうやらザラーピという星で行われた戦闘の映像であるらしい。星での戦闘を行っているということは、今この場にいるのはやはり宇宙空間である可能性が高いということになるなと、入弦は分析していた。


「……だからこそ、確認しておきたい。そう思うのはおかしいかな?」


「いえいえ、さすが将軍閣下。万が一の綻びも許さないあたりさすがの一言ですよ。反乱軍からすりゃ、こういう圧倒的な勝利を続けられるのは悔しいでしょうからなぁ」


 ロボットとは思えないほど流暢に、それでいて調子よくそんなことを言っている。さらに言えば入弦が将軍などという立場であることも知ることができた。


 将軍。どういう立場の人間なのかはともかく、そんな将軍の立場にこういう風に話すことができているということは、少なくともこの人物もそれなりに立場があるか、あるいは自分に近しい存在なのではないかと入弦は考えていた。


 単純にこの世界の自分が、部下に親しまれやすい存在なのかもしれないが、そのあたりは後で考えればいいだけの話である。


「それは皮肉か何かか?」


「まさか!申し訳ない。昔馴染みとはいえ立場を忘れたのは、勘弁してください。でもたまには肩の力を抜いたほうがいいと思いますぜ?キョーちゃん」


 その言葉に、入弦は目を見開く。


 キョーちゃん。そんな風に自分を呼ぶのは後にも先にも一人だけだった。


 胸元にある『YY』のマークを見て、入弦はまさかそんなと自分の近くにいるロボットを見る。


「…………………………………………………………………………お前吉野か!?」


「は?なんです今更。あ、そういうことか、フレームを変えたから別人に見えたって?嬉しいこと言ってくれるじゃあないですか。そう、来るべき決戦に備えてフレームも一新したんだ!これで反乱軍なんざ一発!」


 だんだんと調子を取り戻してきたのか、普段の調子に戻ってきたのかそのロボットは軽快に動きながら入弦にそのフレームの細部を見せてくる。


『YY』の意味がまさか『吉野安則(Y  Y)』であるなどとわかるはずがない。


 入弦自身もまさか吉野がロボットになっているとは予想もできなかった。


「フレームを変えたって……まさか全身?機械にしたのか?」


「いやいや、生身の部分は残してますよ。だからちゃんと人間。ちょっと便利になった程度ですって」


 まさか人間を半分以上機械化できる技術まで発展しているとは思わず、入弦は眩暈がしていた。


 というか吉野が人間をやめかけているという事実に、この世界が入弦が元いた世界とはだいぶ遠い世界なのだなと理解しつつあった。


 一つ目の世界はまだ近い世界だった。日本という国もあったようだし、地名も一応は同じような場所があった。


 だがこの場所はすでに日本と仮想いうレベルではなく、宇宙規模の話になってしまっている。


 というより、将軍という言葉がものすごく気になった。


 アカの話では、入弦は一定の年齢で死亡するのがほぼ確定している。つまり今この体も同様に一定の年齢であることは間違いない。


 一体どれだけの功績を重ねれば若いうちから将軍などという立場になれるのかと入弦は悩んでいた。


 ここは吉野を信じて聞いてみるほかなかった。今入弦の近くにいるのは吉野だけだ。昔馴染みというのなら、少しは入弦の過去を知っていても不思議ではない。


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