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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド1「人の業の刻まれた世界で」

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12/33

012:一矢報いて

「ふぅ……いやぁ、キョーちゃんバイクで轢くのはさすがにどうよ?なんていうか……俺ら一応さ、同郷の奴なわけでさ」


「アホ、殺しに来てるやつに何言ってんだ。下手すればこっちがやられてたんだぞ」


「まぁそりゃそうなんだけどさ」


 入弦はこの松谷という男が自分を殺しに来ているものだという確信があった。だからこそ一切の油断なく仕留める必要があった。


 少なくとも吉野との実力はほぼ拮抗していた。相手が正常な判断能力があり、吉野の油断があれば、そして一対一であれば結果はわからなかった。


 吉野はさすがに拳と拳での決着を予想していただけに、まさかバイクで轢くとは思っていなかったらしい。さらに言えば、そのまま一方的に倒すという行為に若干引いているようだった。


 もちろん入弦の言い分も理解できるためにそれ以上は言わなかったが、二人で倒した松谷を見て少し気の毒そうにしている。


「こいつどうする?止め刺すか?今度こそ」


「そうだな。だけどその前に確認だな。お前以外に生き残った奴はいるのか?」


「……いない……!だから……!俺が……!お前たちを……!」


 この男を除けば、この世界で自分の命を脅かすものはいなくなるということだろうか。入弦は少しだけ安堵しながら、ため息をつく。


 正直この世界の自分は復讐されても仕方がないことをしているのだろうなと思いながら、それでも入弦は死にたくない。


 少なくとも死の運命を変える為に、この男に犠牲になってもらうことはある意味仕方がないと入弦は割り切っていた。


 割り切らなければ自分が死ぬだけなのだ。そんなのはごめんだと入弦はもはやあきらめの境地に立っている。


「他に仲間は?俺らを追ってきてるのはお前だけか?」


「……そうだ……!お前たちを止められるのは……!俺、だけだった……!」


 そう言って、松谷は必死に吉野の足を掴む。最早それくらいしかできないのだろうかと、哀れに思いながらも、目の前にいる松谷はまだあきらめている様子はなかった。


「俺にも苦戦するような奴が、キョーちゃんと一緒にいる状態で勝てると思ってたのか?それでよく挑んだな」


「……俺が……お前たちに敵わないことは、わかっていたさ……俺が、何の策もなしに、挑むと思ったか……!」


 その言葉に、まだ何か仕込んでいるのではないかと入弦が考えた瞬間、最も近くにいた吉野がそれに気づく。


 松谷の片方の手が、ゆっくりとだが確実に、懐に伸びていたのだ。何かをしている。それが何なのかはわからなかったが、吉野は松谷に片方の足を掴まれていて動けなかった。


「キョーちゃん!」


「うぐぇっ!」


 とっさのことだった。吉野は入弦を思いきり蹴ると、その体を遠くに弾き飛ばした。


「お前も、道連れだ!」


 松谷が叫んだ瞬間、その体のどこかにあった何かが弾ける。


 そして轟音と爆炎が松谷の体を中心に巻き起こった。


 周辺に砂塵と衝撃波をまき散らしながら、入弦は吉野が蹴り飛ばしたおかげもあて大した怪我は負っていなかった。


「おい、吉野、吉野!」


 入弦が叫んだ瞬間、目の前に広がる爆炎が、その動きを止めた。体も動くことができず、そして音も、何も聞こえなくなっていた。


 何が起きたのか、入弦はこの現象を知っていた。


 時間が止まっている、あの時のように、死の淵の、あの少女にあった時のように。


 そして、その時と同じように、赤い髪の少女が目の前にいつの間にか表れていた。


「よくやったな。ひとまず、この世界のお前の死の運命は回避できたようだぞ?」


 アカがそう告げると、入弦はいつの間にか動けるようになっていた。いや、正確には筋肉質な自分自身の体から、精神だけが抜け出していたというべきか。


 元の世界の、元の自分の体だ。


「ものすごく後味悪いんだけど……吉野が死んじゃったじゃん……」


「いや、どうやらこの世界においてはお前たち二人が死ぬ運命だったようだな。そういう意味では二人が一人になっただけの話だ」


「どういうことだ?」


 先程の一連の動きから何となく察しはついている。松谷と対峙するこの動きがある種必然だったというのであれば、松谷のあの自爆も含めて入弦たちは殺されることになる。


「まず、お前の友人が油断してやられる。とはいえあの男はそれなりに手傷を負った。そこでお前を巻き込んで自爆……どうやらそれがこの世界の筋書きのようだな」


「……なるほど……でも、この先俺は死なないのか?」


「ひとまず、確定で死を届ける者は退けた。あとは何とかするだろう。幸い、世界にも若干影響があった」


 影響があったということは、所謂死の近似値は多少変動したというところだろうか。


 自分の元の世界で、どうにかして生き残ることができるのだろうかと、入弦は期待していた。


「じゃあ、元の世界に戻っても、何とか生き残れるのか?」


「それは無理だ。まだ足りん。あと……少なくとも二つは世界を変えなければならん。ここはまだ一つ目だ。個人的には、実験が上手くいきそうでホクホクだがな」


 まだあと二つ、異なる世界の中で自分を救わなければいけない。


 入弦はため息をついてしまうが、少なくとも希望は見えてきた。いくつも救わなければいけないのであれば気が遠くなったが、あと二つ。あと二つの世界で自分を救えばいいのだと、ある意味気が楽にもなっている。


「では、次の世界に行くぞ。心の準備はよいか?」


「……吉野、お前の死は忘れない……!俺は絶対生き残って見せるからな!アカさん、頼む!」


「よろしい。ではいくぞ、次なる世界へ」


 アカがそういうと緩やかに思考がまどろんでいく。意識がぬるま湯に溶けていくような感覚、心地よい浮遊感に包まれながら、入弦はゆっくりと、異なる世界にまた行くことになるこの感覚に沈んでいた。


 再び、入弦は光を見ていた。異なる世界への導きの光だ。入弦はその光に誘われるまま、その方向へと引っ張られていく。


 次なる世界へ。再び、その世界の自分自身を救うべく。


 崩壊した世界を超えて、次なる世界へ。


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