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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド1「人の業の刻まれた世界で」

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10/33

010:考え方が蛮族

 入弦たちは順調に西に進み続けていた。村長から得た紹介状のおかげもあって、近隣の村でも好意的に対応することができていた。


 さすがに先日寄った村の時のように、すぐに食料や燃料を恵んでもらうような幸運には恵まれなかったものの、一宿の寝床程度は得ることができ、体をしっかり休めてから再び旅をすることができていた。


 ちょっとした力仕事もしたおかげで、多少の食料も恵んでもらい、再び西へ、西へと進んでいく。


「いやいや、なかなか順調だな。この調子ならあとちょっとでつくんじゃないか?」


「どうだろ。この間寄った村の人の話だと、この辺りから山道になるって話だろ?文字通り山賊の住処なんじゃないのか?それに、バイクでどこまで行けるか。場合によっちゃ、迂回したほうがいいかもしれないし」


 この世界の山道がどの程度なのかわかっていないため、入弦としてはこのままバイクの旅ができるかどうかも定かではなかった。


 しっかりとした地図があればよかったのだがと、入弦はため息をつく。いくら核戦争の後の世界だとはいえ、もう少しそのあたりの情報をしっかりしてくれればよかったものをと、バイクを操りながら視線の先に見える山を見て目を細める。


「確かに結構高そうな山だな……でもさ、あれ結構連なってるぜ?迂回するとかなり回り道になっちゃうだろ」


「そこなんだよなぁ……周りに村とかがある保証もないし……それなら頑張って登るか……バイクがもってくれればいいけど」


「人が行き来する程度の道があれば何とかなるだろ。最悪持って登ればよくね?」


 急こう配を無理やり進むことはできなくとも、この筋骨隆々な肉体を最大限利用して動けば何とかなると吉野は判断しているようだった。


 確かにこの体であればバイクくらい持ち上げることはできそうだが、それでも持って山を登るとなれば大変な重労働だ。


「この山を越えればまた別の村があるらしいから、そこを頑張っていくしかないな。早いところ都にも行きたいし」


「そうだな。さっさと社会的地位ってやつを得たいぜ」


「本当にな。俺ら現段階じゃただの無職だしな」


 このご時世、職を持っている人間が一体どれだけいるのだろうかと思いながらも入弦たちはバイクを走らせ続ける。


 山に入ると、徐々に傾斜がつき始め、道も岩などが多くなってきていた。


 相変わらず緑などは一切ない荒廃した山だ。その山の形から現在位置を把握することもできない。というか入弦が知っている世界とは地形からして違うのだから当然と言えば当然かもしれないが。


 都について仕事を始め、そこから社会的地位を確保する。そうすれば何かしら問題があっても何とかなる可能性が高い。


 これだけ筋力などの身体的能力に恵まれているのだ。死なないために人間関係的な外堀を埋めておいて損はないだろう。


 立ち寄った村々に対して好意的に接しているのもある意味そういった側面が大きい。敵を作らないように立ち回っていると言っていいだろう。


 入弦たちが山々を進んでいる中で、かなり反り立つ崖なども存在していた。自然にあのような形になったとは考えにくい。


 恐らくは何かしらの人為的な攻撃などによってあのような形になったのだろうと考えていた。


 それこそ核爆弾などがあげられるが、今の入弦たちには想像もできない。そんな中ふと疑問を抱く。


『アカさん、聞こえるか?』


『なんだ?』


『この世界って核戦争が終わった後の世界なんだろ?放射能とか大丈夫なの?』


 気になっていたのは放射能汚染の点だった。この世界においてどの場所に核が落とされたのかまでは不明だし、どの程度その核戦争から時間が経過しているのかもわからない。


 だが放射能という人体どころか生物そのものに対して悪影響を及ぼしかねない存在がどの程度この世界に影響を及ぼしているのか知っておいて損はない。


『大丈夫という言葉がどう解釈されるものかわからないが、少なくともその世界は放射能の影響を大きく受けているぞ。というかすでにお前たちも影響を受けている。正確にはお前たちの親、さらにその親といった前の世代からだが』


『そうなの?でも俺らの体は……まぁ普通ではないかもしれないけど』


 無駄に筋骨隆々な体が普通かと言われれば首をかしげてしまうところだ。だがアカの言い分が正しいとするならば、入弦たちの親、祖父の世代などからすでに放射能の影響は少なからず受けていることになる。


『だからお前の友人の頭もピンク色になっているのだろう。今までの村々にもそれなりに変な髪の色のものがいただろうに』


 そう言われて、入弦はすぐ横を進む吉野の頭部を見る。そこには風になびくピンク色のモヒカンが存在している。


 あれは地毛だったのかと、かなりの衝撃を受けながらもとりあえず今はその問題を置いておくことにした。


 この世界で自分が死なないようにする。少なくとも放射能で死ぬという可能性は限りなく少なくなったのだ。そこは喜ぶべきなのかもわからない。


 もっとも、放射能が存在しているということ自体は変わらないため、そのあたりは喜んでいいのかは微妙なところだが。


 入弦たちが進んでいる中、山の頂上付近で急に天候が悪化していた。


 と言っても、雨や雷といった天候の悪さではない。単純に風が恐ろしく強く、岩肌を削らんばかりの勢いで当たりに竜巻などが巻き起こっているのだ。


 入弦たちは近くにあった岩の隙間にできた洞窟で、竜巻が過ぎるのを待つことにしていた。


「山の天気は変わりやすいってどっかで聞いたことあるけど、まさかこんなに急に竜巻とはなぁ……洞窟があって助かったぜ」


「本当にな。風は防げるし、この後雨が降っても何とかなる。今日はここで休憩だな。幸い、このまま進めばバイクのまま山を越えられそうだし」


 ところどころ急勾配なところはあっても、人が通っている形跡のある山であったため比較的登ることはできていた。


 時折手で押したりしながらバイクでここまで登ってきたため、このまま山を下る際も同様に進めるだろうと入弦は判断していた。


 洞窟の外では竜巻が砂塵を振りまき、岩さえも持ち上げて辺りに被害をまき散らしている。


 この状態では、バイクで進むどころか、歩いてこの場を去ることもできないだろう。


「あとどれくらいかね?燃料はまだまだ平気だけど」


「あといくつか村を経由すればって言ってたけどな。とはいえ先は長いぜ」


 入弦がこの世界に降りてきて、もう何日も経過している。自分が死ぬという未来は今のところその原因すらつかめていない。


 もともといた世界では交通事故という、いつ起きても不思議ではないようなものだったが、この世界で、この肉体を得ている入弦を死に追いやれる何かがあるとすれば自然災害や病気などくらいしか思いつかない。


 もしそうだったらどうしようもない。もしこの場で地震が起きてこの洞窟が崩れるようなことがあれば、それこそ何もできずに死ぬことになるだろう。


 そのため、入弦たちは洞窟の入り口に近い部分で待機している。死ぬ可能性を少しでも下げるための対処だが、どれほど役に立つのかはわかったものではない。


「なぁキョーちゃん、都についたらさ、どんな仕事するよ」


「どんなって言ってもなぁ……そもそも何があるのかわからないだろ?俺らはそれなりに力はあるし、警備の仕事とかでもいいのかなって思うけど……あればの話だけどな」


「警備かぁ……都を守るって感じか……なんかもっとこう……都会!って感じの仕事がしてえよ」


「なんだその具体性皆無な感じ。お前の言う『都会!』って感じって、具体的にはどんなのだよ」


「いや、わからないけどさ……俺も何があるのかわかってないし」


 この世界における都会というのがどの程度のものなのか入弦もわかっていない。だがバイク等の近代道具があるのだ。戦争を経た都会がどのような発展を遂げていても不思議はない。


 機械が満載なのか、それとも今まで通ってきた村と同じ程度の、ただ規模が違う程度のものなのか、それすら定かではないのだ。


 ただ一つ言えることは、人が集まるところには総じて仕事もあるということだ。それこそ警備の仕事などは間違いなくあるはず。


「もしできる仕事がなんもなかったら、二人でなんでも屋でもやるか?どんな仕事も請け負いますって感じの」


「雑用ばっかり押し付けられそうじゃん。なんか都会っぽくねえって」


「都会さを求めるな。仕事にありつけるだけありがたいと思わないと。他に行く当てだってないんだからさ」


「確かに。仕事をするのも楽じゃないんだな」


 楽な仕事などこの世にはない。たいてい仕事というのはつらく苦しいものだ。この世界においてはその傾向は顕著だろう。


 入弦は食事を簡単に作り、できたそれを吉野に渡していた。


「キョーちゃんなんかは料理もできるしよ、そっちの道でも行けるんじゃねえの?なんていうんだっけ?料理長的な?」


「こんな料理で仕事になるかよ。俺のは最低限食えるだけのもの。客に出せるようなレベルにもなってないっての。それに、都にそれだけの余裕があるかもわからないしな」


「どういうことだ?」


「今までの村と大差なかったらってこと。実際都の噂はあっても、都から出てきた人間なんていなかっただろ?」


「確かに。でもそれは都がすごいところだから出たくないとかそういうんじゃねえの?」


「それならいいんだけどな。山を越えたら行商の人間捕まえて都の情報を集めたいところだな。詳しい位置とかもわかるかもしれないし」


「襲うのか?」


「違う。恩を売ったりして情報を聞く。もしかしたら道案内役にもなるかもしれないしな」


「なるほど。護衛しながら道案内させて恩も売れるってわけだ。さすがキョーちゃん、頭が回るぜ」


「お前は考えをもう少し柔らかくしろ。都に行ってもそのままだと苦労するぞ」


「その時はキョーちゃんに何とかしてもらうって。俺は頭使うのはどうも苦手だからな。相手ぶちのめして奪ったほうが早いじゃん」


 頼りになる存在でもあるのだが、この世界の吉野はどうにも頭が弱いというか、簡単に物事を片づけようとする節がある。


 基本的な考え方などに吉野らしさが出ているため気にはしていないが、これが社会に溶け込めるのかという疑問もある。


 楽観的かつお調子者という部分で言えば、案外入弦よりもあっさり都の人間とも馴染めるのかもしれないと考えながら、入弦たちはその日夜を明かした。


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