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OZ-Operation Zero-  作者: Tea
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第20話「残響」

事件の翌朝、神戸の空は薄い灰色だった。

病院の外には報道陣が集まり、道路の一部は規制されていた。夜のうちに運び出された負傷者の情報を求め、家族たちが受付の前で待っている。

建物の中には、消毒液と焦げた匂いが残っていた。

神戸中央総合医療センターへの襲撃は阻止された。患者と職員の避難が進められ、医療機能の一部は停止したものの、病院は完全な崩壊を免れた。警備側にも死者・負傷者が多数出た。

金瀬らいは左肩に重傷を負い、手術を受けた。命に別状はなかったが、医師は以前と同じように腕を使える保証はできないと告げた。


彼女は病室の天井を見つめていた。身体の痛みよりも、浅瀬誠の目が頭から離れない。あの男は最後まで、自分の行為を社会のためだと信じようとしていた。

だが、新田目の死を知ったとき、彼の表情から何かが崩れ落ちた。彼はその瞬間、自分が選んだ道の代償を初めて自分のこととして受け止めたのかもしれない。


「逮捕できていれば……」金瀬は小さくつぶやいた。

しかし、あの時はそんな余裕はなかった。


そばにいた同僚は、返事をしなかった。浅瀬は金瀬に射殺された。事件の記録では、彼はOZ襲撃チーム第2班のリーダーとして扱われることになる。

だが、金瀬の記憶に残ったのは、ただの危険人物という言葉では説明できない迷いだった。


大阪では、一部焼け焦げたOZ大阪本部の捜索が続いていた。建物の一部は崩れ、通信室はほぼ原形を失っていた。新田目の遺体は確認された。

警察関係者が彼の身元を確かめる一方、政府の分析班は押収された機材と記録を調べていた。OZの通信網は破壊され、各地に残る小規模な拠点も次々に摘発されていく。


新庄は現場で報告を受けた。OZ大阪本部にいた要員の一部は地下経路から逃げた可能性が高い。OZ設立者である出達しんの生死は不明。遺体は見つかっていない。


「捜索を続けろ。死んだと決めつけるな」


新庄はそう命じたが、声には疲労がにじんでいた。作戦は成功した。神戸中央総合医療センターへの襲撃を止め、OZ大阪本部を壊滅状態に追い込んだ。

それでも、なぜここまで大きな事件になる前に止められなかったのかという問いは残る。政府はOZを過小評価した。問題の根を見ようとせず、暴力が起きてから対応を急いだ。その遅れは、死者を生き返らせない。


事件から数日後、政府は記者会見を開いた。OZの主要拠点を制圧し、組織の活動能力を大きく損なわせたと発表した。同時に、社会保障制度や高齢者医療の課題について、検討を進めると述べた。

記者たちは、OZの要求を一部受け入れるのかと問いただした。政府は「暴力による要求には屈しない」と答えたが、「問題そのものを無視することもしない」と付け加えた。


世論は割れた。OZはテロリストであり、彼らの行為を正当化してはならないという声が多数を占めた。一方で、なぜ若者の一部が彼らに共感したのか、政府は何を見落としていたのかを問う人もいた。

ネット上には、OZを英雄視する投稿も、犠牲者を侮辱する投稿も現れた。被害者の家族は、社会の議論の材料にされることを望んでいなかった。


ロン・カリジュラは身柄を拘束され、事情聴取を受けた。彼女は流暢に説明できず、質問の意味を何度も確認した。自分が撃った相手、撃たなかった相手、出達に連れられて日本へ来た理由。

彼女の言葉は短く、時に途切れた。彼女はOZの思想をすべて理解していたわけではない。ただ、出達が自分を認めてくれたことを信じていた。その信頼が、彼女をここまで連れてきた。


数週間後、金瀬はリハビリを始めた。左肩は思うように動かず、腕を上げるだけで鋭い痛みが走る。

医師は時間をかければ日常生活には戻れる可能性が高いと説明したが、現場で以前と同じ動きをするのは難しいかもしれない。

金瀬はその説明を黙って聞いた。警察官になったのは、人を守りたかったからだ。その目的は変わらない。けれど、守る方法は1つではないのかもしれない。


夜、病室のテレビで、政府が制度改革の検討会を設置すると報じられた。

高齢者医療、社会保障、政治家の年齢と責任、投票制度。議題は多岐にわたる。

金瀬は画面を見つめた。これがOZの勝利なのか、それとも事件が起きなければ動かなかった政府の遅い反応なのか。答えは出なかった。


誠の死を思い出すたび、金瀬は胸の奥に小さな棘が残るのを感じた。彼の行為を肯定することはできない。けれど、彼が見ていた問題まで否定することもできない。

もし政府がもっと早く向き合っていたなら、あの夜は違う形になったのだろうか。誰にも分からない問いが、事件のあとにも残り続けた。


事件後の調査では、OZが公開していた資料の一部に、統計の切り取りや比較対象の選び方に偏りがあったことも明らかになった。

問題を示す数字そのものがすべて虚偽だったわけではない。だが、複雑な制度を単純な敵と味方に分け、特定の人々を社会の負担として描くことで、暴力を正当化しやすい物語が作られていた。

政府の検証報告はその点を指摘し、同時に、長年の政策対応の遅れも認めた。


金瀬はその報告書を読み、途中で何度も手を止めた。誠が読んだ資料も、こうした数字から始まったのだろう。誤りを見抜けなかったのか。

それとも、問題が本当に存在するからこそ、偏りを知りながら信じようとしたのか。

本人にそれを聞くことはできない。彼の選択を1つの原因に還元することは、彼が生きた時間をもう1度数字にしてしまうように思えた。


報告書の最後には、被害者や遺族への支援を継続すること、医療現場の安全対策を見直すこと、社会保障に関する情報を分かりやすく公開することが記されていた。

金瀬はページを閉じた。結論は地味で、すぐに社会を変えるものではない。それでも、誰かを敵にして終わるよりは、ずっと難しく、必要な仕事に思えた。

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