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蒼海連撃ー1941南方作戦ー  作者: 仲村千夏


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第八話

 一九四一年十二月十三日。


 夕刻。


 南シナ海。


 空は赤黒く染まり、海面には幾筋もの油煙が流れていた。


 東洋艦隊。


 連続航空攻撃により大損害。


 だが――まだ沈んではいなかった。


 第三艦隊旗艦《天城》。


 艦橋。


「敵艦隊、依然南西方向へ航行中」


 通信参謀が報告する。


「戦艦一隻大破確実、もう一隻も速度低下」


 有馬中将は静かに頷いた。


 第一機動部隊。


 第二機動部隊。


 第三機動部隊。


 陸上攻撃機隊。


 第四艦隊。


 立て続けの連撃。


 東洋艦隊は確実に傷ついている。


 だが、有馬はまだ安心していなかった。


「沈んだ確認が取れるまでは終わりではない」


 低い声。


 その時だった。


「第三機動部隊より入電!」


 通信兵が振り返る。


「敵艦載機らしき編隊捕捉!」


 艦橋の空気が変わる。


「数は!」


「二十から三十!」


 黒瀬参謀長が眉を寄せた。


「まだ航空隊を残していたか……」


 有馬は即座に命じる。


「全艦、防空戦闘用意」


「第三艦隊直掩戦闘機隊を上げろ」


「はっ!」


     ◇


 東洋艦隊。


 空母は存在しない。


 だが、マレー方面基地から発進した英空軍雷撃隊と、残存艦載機が合同で反撃を試みていた。


 英巡洋艦艦橋。


 疲れ切った士官が叫ぶ。


「日本艦隊へ一矢報いる!」


 既に東洋艦隊は崩壊寸前だった。


 通信混乱。


 火災。


 浸水。


 落伍艦。


 だが、このまま一方的に沈むわけにはいかない。


 英軍機隊は低空を飛び続ける。


 その先。


 夕焼けの海に、日本艦隊がいた。


     ◇


 第三艦隊。


 防空警戒。


 新型軽巡《矢矧》レーダー室。


「敵機接近!」


 対空見張員が叫ぶ。


「方位二一〇!」


「高度低!」


 矢矧は第三艦隊防空中枢でもあった。


 高角砲指揮。


 無線統制。


 直掩機誘導。


 新型万能軽巡として設計されたその艦は、まさに艦隊の“神経”だった。


「直掩隊へ誘導!」


「敵編隊左回り!」


 無線が飛ぶ。


 上空では零戦隊が旋回していた。


「見えた!」


 若い搭乗員が叫ぶ。


 低空。


 海面ぎりぎり。


 英雷撃機隊。


「突っ込む!」


 二〇ミリ機銃が火を吹く。


 曳光弾が夕空を裂いた。


 一機。


 また一機。


 英機が炎を引いて海へ落ちる。


 だが敵も止まらない。


「雷撃進入!」


     ◇


 《天城》艦橋。


「敵雷撃機接近!」


 見張員が叫ぶ。


 有馬は双眼鏡を握った。


 海面近く。


 黒い機影が突っ込んでくる。


「面舵!」


 巨大な艦体がゆっくり傾く。


 駆逐艦群が煙幕を展開。


 その間を縫うように英雷撃機が突っ込む。


「撃ち方始め!」


 《天城》両用砲が火を噴く。


 十二・七センチ連装砲。


 対空射撃。


 さらに機銃群。


 曳光弾が海を赤く染める。


 敵機一機が空中分解。


 だが。


「魚雷投下!」


 白い航跡が海を走る。


「回避!」


 《天城》がさらに旋回。


 巨大な魚雷が艦尾後方を通過していく。


 その瞬間。


 後方で爆発。


「《白雪》被雷!」


 駆逐艦だった。


 水柱が上がる。


 艦体が大きく傾く。


「機関停止!」


 艦橋へ緊張が走る。


     ◇


 《白雪》。


 艦内。


 赤い非常灯。


 蒸気。


 浸水。


「隔壁閉鎖急げ!」


 乗員たちが必死に動く。


 だが魚雷は機関部近くへ命中していた。


 浸水は急速。


 若い機関兵が叫ぶ。


「まだ沈まんぞ!」


 誰も逃げなかった。


 第三艦隊駆逐艦群は、ずっと対潜警戒と護衛を続けてきた。


 彼らは艦隊を守る盾だった。


     ◇


 上空。


 零戦隊はなおも敵機を追っていた。


「逃がすな!」


 二〇ミリ機銃。


 高初速弾。


 敵雷撃機が火を吹く。


 しかし。


「後ろ!」


 英戦闘機が飛び込む。


 空戦が始まる。


 夕焼け空に曳光弾が交差した。


     ◇


 《矢矧》艦橋。


「敵機散開!」


「残数少数!」


 防空指揮官が息を吐く。


 第三艦隊防空網は機能していた。


 駆逐艦。


 軽巡。


 戦艦。


 直掩戦闘機。


 それら全てが無線で繋がり、一つの防空陣形となっている。


 旧来の“各艦個別防空”ではない。


 艦隊全体で迎撃する。


 それがこの新艦隊だった。


     ◇


 夜。


 第三艦隊。


 海は暗く静まり返っていた。


 《白雪》は辛うじて航行を維持。


 応急修理が続いている。


 有馬は艦橋外で煙草に火をつけた。


 黒瀬参謀長が隣へ立つ。


「敵も必死ですな」


「ああ」


「だが東洋艦隊はもう長くありません」


 有馬は静かに海を見た。


 遠く。


 まだ炎が見える。


 東洋艦隊。


 今も逃げ続けている。


 だが、その足は確実に鈍っていた。


「司令官」


 通信兵が駆け込む。


「第四艦隊より報告!」


「敵主力、速度さらに低下!」


 有馬はゆっくり振り返った。


「追うぞ」


 低い声。


「今夜も接触を切るな」


 第三艦隊は再び動き始める。


 追跡。


 索敵。


 連携。


 それが、この戦争だった。


 そして南シナ海の夜は、まだ終わらなかった。

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