第2話 若者たち
義勇軍募集!
各地の街で我こそはと、街で燻っていた若い星々が急速に輝きを見せ始めていた。
後世において語らなければならない乱世の始まりはまだ数年の時を待たなければならなかった。
「ベイル!聞いたか?義勇軍を募集するんだってよ」
アリアスが街でベイルにそう語りかけていた。
その隣ではいかにも屈強そうな者たちが、華やかな凱旋と共に街を旅立っていた。
「アリアス…僕には出来ないよ」
「どうしてさ?なぜそんなに悲観的になってどうしたんだよ?」
ベイルはちらっと横の大男を目配せした。
「僕にはあんなふうな力はないし、勉学もやってはいるけど…なんとも言えないだろ?」
「つまり、パッとしないから出ないって話か?」
「そこまで言われるのは流石に癪に触るけど…まとめると、そういうことになるな」
ベイルは苦笑を浮かべていた。
「お前はいいのか、このまま燻っていて?」
アリアスの発言に対して、ベイルは心の底が熱く燃え始める感触を感じていた。
時代は既に乱世に突入しかけている。
その中でこのまま黙って燻っていたかなんてさらさらなかった。自身はまだ21の若者であり、血気盛んなことには変わりなかった。
「しかし…僕には母がいるんだ。たった一人の肉親がいる…それを黙って見過ごすわけにはいかないんだ」
ベイルはそう告げると、アリアスの元を離れて母のいる山奥の家へと歩み始めていた。
ベイルはその道中の最中で胸中の思いと現実に対して苦悩を覚えていた。
世界を変えたくても、母一人の命でさえあやふやや自分に挙兵する資格なんてない。
そんな自己嫌悪が否が応でも脳裏に横切っていた。
しかし、母の前ではそんな顔をすることはなく笑みを作っていた。
「帰ったよ、母さん」
ベイルはそう言って戸を開けていた。
「あら、もう帰ってきたの?」
母は優しくそう答えていた。
「まぁ、案外早く終わったからさ」
ベイルはそう手を動かしながらそう話していた。
「落ち着きがないわね?どうしたの?」
母の的確な言動に対してベイルは、思わず動かしていた手をとめていた。
このままでは何も埒が開かないためにベイルはあったことをそっくりそのまま、話していた。
話が終わると、母は少し考えているそぶりを見せたのちに部屋の奥へと姿を消していた。
そして、しばらくすると丁寧に包装された包みを持ってきていた。
「母さん、それは一体なんだ?」
ベイルが思わずそう尋ねるほかなかった。
すると、母は黙ったままその包装を開き始めていた。すぐに、鮮やかな装飾がなされた剣が一本入っていた。
「こんな剣があったなんて…」
ベイルはそう声を出していた。
「そうよ、元々あなたには見せるつもりはなかった。だけれど、あなたの瞳に映るものを見て気が変わったの」
「僕の瞳を見て?」
ベイルは少し肩を落としてみせたが、母の見せる真剣そのものな表情を見せていたためにベイルは思わず笑みを引っ込めていた。
「あなたは優しい…それは私が一番わかってる。亡くなったお父さんに似てね。だけど、あなたにはお父さんと違うところがあるわ」
「何さ?」
「あなたには、何か成し遂げたいという思いが溢れているの。あなたの瞳にはとくに」
ベイルはそう言い当てられて、思わず目を丸くしていた。全くもってその見解は正しいものであると分かったからであった。
「…そうだよ、僕はこの乱れた世界で名を残してみたいんだ。それと、この世界をお母さんとかが安心して暮らせるような、そういう世の中に変えていきたいとも思っててさ」
ベイルは21年間、うちに秘めていた思いを吐露していた。自分でも徐々に言動に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
「だと思ったわ…だからこそ、あなたは出発しなくちゃならない。この場所から羽ばたいていかないといけないの」
「羽ばたくって言ったってさ、僕には何もないよ。ちょっと、人との関係を作るのが上手いって言うだけで」
ベイルの発言に対して、母は真剣な表情を浮かべていた。
「武力でも知略でもないそれこそが最も手に入れるのが難しいのよ」
母の言動を聞いて、ベイルは何を言ってんだろうと顔に出てしまっていた。
「まぁ、これはあくまで歳をとった私の戯言よ。頑張って働いてきたのに、こんな話に付き合わせちゃって悪いね…さ、はやく食べて寝なさい」
母はそう言って向かいに座り、そのことについて口を開くことはなかった。
ベイル自身も何と言えばいいか分からなかったために、口をつぐんでしまっていた。
夕食を終えて一段落がついたころ、ドンドンととを強く叩く音が聞こえた。
ベイルと母は何事かと思い、急いで戸を開けた。
ふると、そこには怪我を負ったアリアスがその場でうずくまっていた。
「何があったんだ、アリアス!」
ベイルはそう言って友の背中を叩いていた。
すると、呻き声と共にアリアスは目を開いていた。
「ベイル…やられた」
「どうしたんだよ、その傷は…野党かなんかに襲われたか?」
「それならまだよかったよ…現実はそう甘くはないさ」
アリアスは皮肉混じりに苦笑を浮かべていた。
「赤日隊だ…奴らこの街を包囲してる…略奪するつもりだ」
ベイルはそう聞くと血相を変えていた。
まさか、自分たちのすぐ近くで略奪行為が行われているなんて!
ベイルは思わず家を飛び出していた。
「馬鹿!お前が行ったところで、やられるのがオチだ!戻れ!」
アリアスの助言は全くと言って良いほど正しかった。
しかし、ベイルは自身の行動が間違っているとも思わなかった。
何もしないよりかは、まだ己のためになると思ったためであった。
ベイルは一目散に街の方へと降りて行ったが、そこには狂喜乱舞した人々の巣窟と化していた。
逃げ惑う人々、燃やされる建物、略奪の限りを尽くす赤い仮面をつけた…赤日隊のが暴略の限りを尽くしていた。
ベイルは思わず、その光景に目を疑っていた。
そして、ベイルは思わず腰に手を当てた。
ベイルには、人を斬るための剣さえ持っていなかった。
「!」
声にならない叫びがベイルの顔を駆け巡り、表情が自然と強張っていく。
僕はただ、見ているだけなのか!?
な、何もできぬまま…
自分の無力さを噛み締めていた瞬間、目の前で略奪を繰り返していた隊員の額に矢が突き刺さった。
全員が何事かと思い、放たれた方向へ視線を動かした。
数十騎ほどの騎兵たちが、弓を構えていたのだった。
「官軍だ…助かった」
辺りでそのような安堵の声を包みながら聞こえてきていた。
赤日隊もまた、部が悪いと悟ったのかすぐに荷物をその場に置いて逃げ始めていった。
官軍はすぐに騎馬から降りて、その場で怪我人達の治療を始めていた。
「お前、怪我はないか?」
ベイルが辺りを見回していると、突然官軍の一人に声をかけられていた。
「大丈夫です、今回のことは本当にありがとうございました」
ベイルはそう素直に感謝の言葉を述べていた。
「いえ、もっと早く来れていればもっと犠牲者を少なくすることはできたのに…」
その若い男は苦難の顔をしつつ答えていた。
「僭越ですが…お名前は?」
「私はフリント•フォーレ…この地に先月から赴任してきた、この地の騎馬隊長です」
「そうでしたか…僕はベイリアス•アステッド。ベイルって呼ばれてます」
二人はそう視線を交差させて互いの帰路へとついていた。
後に”双龍”と呼ばれる二人の英雄が始めて互いを認知した瞬間であった。
この時ベイル21歳、フォーレ26歳であった。




