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第1話 群雄たちの幕開け

ヴァルタニア戦記のセルフリメイクです。

前のものよりも長く深いものとなっています。

ヴァリアラント帝国。それは、かつてこの大陸を数世紀に渡って統治した強大な国家の一つである。

後世の歴史家たちからはこの時代こそ多くの文化が生まれたとも言われ、歴史上から見ても極めて重要な時代であったとも言われている。

しかし、そんな輝かしい時代においても崩壊への序曲は既に奏でられ始めていたことは疑われようもなかった。

人の命に限りがあるように、永遠に続く国家というものは歴史上存在しないのである。

長きに渡る統治の中でその国の実態は徐々にゆっくりと、腐敗の一途を辿っていた。

王宮内部では文官たちが、己の野心や欲望を思うがままに解き放ち陰湿な内部対立が後を絶たなかった。

もちろん、そんな時代において名君が生まれるはずもなく無力な周りに身をたのむような暗君が続出していた。

外においては、戦いすらなく体を宴会の祝杯やご馳走で肥えた体を揺らす武将たちもいた。

そのようなものたちが上にいる時点でヴァリアラントの運命は決まっていた。滅びへと向かう沈みゆく船を人々はヴァリアラントに重ねていた。

国民たちは、この状況を打破するために考えを回していたが、今の数世紀も続いたヴァリアラントを終わらせる恐怖も持っていた。

そして、時は流れてヴァリアラント歴(v.c)325年。

既に乱世に近い状況下にあったものの、各地方で反乱軍が多く登場し始めていた。

そして、その反乱軍を収めるために王朝は義勇兵を募り始めていた。

その中には後にこの乱世を凌いでいく若き英傑たちが多く存在していた。

この物語はそんな、乱世に生き乱世において己の理想を追い求めていった英傑たちの戦いの記録である。


若き青年、ベイル•アステッドは崖にいた。

その崖の向こうには地平線の彼方にまで見える大海原が広がっていた。

そのあまりにも大きな海を眺めていると、こころなしかベイルの心は透き通るような感触がしていた。

今日もまた、働くためにここまでの港町に足を訪れていた。


「何もこんな所まで来なくて、良かったんだぞ?」


そう言いながらベイルの後頭部を軽く青年が近づいていた。

ベイルはその後頭部を優しく撫でながら笑っていた。


「いや、一度海を一眼見てみたいなと思ったからな…ついでさ、ついで」


「ったくさ、それじゃ俺はお前の好奇心に乗せられちまったって感じか?」


「全く、そう言うほらは吹くなよ。俺について行けば仕事につきやすいと思った魂胆なんだろ、な、アリアス?」


ベイルはそう笑いながらそう尋ねていた。

アリアスは、それを聞くとまぁなと軽く呟いてベイルの隣に座っていた。


「全く、ここまで綺麗だと今の時代の汚さが余計嫌に感じちまう…そう思わないか?」


アリアスのその言葉は、ベイルにとっても納得がいく見解だった。

一種の現実逃避とも言えるその言動に対して、ベイルは深く考えを巡らしていた。

天下が乱れる中で、自身がこの天下を握りたいと。

そのような考えが常に頭に残っていたが、この夢どころか幻想にまで近いものに対して、自分でさえも馬鹿げた話であると思わざるを得なかった。

すると、遠くの方から声が聞こえた。


「どうやら、仕事みたいだな」


アリアスはそうすると、立ち上がっていた。


「いっちょ、やってやりますか!」


アリアスはそう大声を上げるとともに下の方へ駆け出していた。

ベイルはその光景を見ながら笑みを浮かべていた。


「全く能天気な奴だ…」


ベイルはそう皮肉を漏らしたが、すぐに立ち上がりアリアスの元へと駆けていった。



いいか、お前たち…これは略奪ではない。この腐敗したヴァリアラント帝国を救うために行うのだ。

暗がりの森の中で、男たちはそう呟いていた。半ば自らを錯覚させるかの如く感じていた。

男たちの表情にはまるっきり、正気と言うものが伺えなかった。そして、男たちの額には鉢巻が巻かれていた。大部分は白だが、額の部分には赤い丸がくっきりと表されていた。

すると、馬頭にいた男が手を挙げた。


「我らの崇高なる目的のために…進め!」


その瞬間、数十騎にも及ぶ騎馬が一目散に港町へと駆け抜け始めていた。



その瞬間は突然だった。突然、地震が鳴り響いたのかと思うほどの轟音があたり一体に鳴り響いた。

咄嗟にベイルは耳を塞いでしまっていた。

すると、咄嗟にアリアスが自身に覆い被さっていた。

その場所を踏みつけるように騎馬が通り過ぎていった。


「アリアス…これはいったい?」


ベイルはそう呟くしかなかった。

アリアスもまた、この光景に対して中々呆然としていたが、しばらくして口を開いていた。


「赤日隊さ…最近何かと話題だろ?」


アリアスの一言で、ベイルは思い出していた。

昨年、大陸辺境区に位置するヴァルデラントにおいて、地域ゲリラたちの武装蜂起が勃発した。

当然、ヴァリアラント軍が王戦に応じたが、信じられないことが起きていた。地域ゲリラにしか過ぎない部隊が、国家の軍隊を打ち破ってしまったのである。


"ヴァリアラント軍、敗走!”


この事実は一瞬にして、国土全体を駆け巡っていた。そして、それに呼応するかのように各地で反乱が相次いでいた。

それを牛耳っていたのが、赤日隊と呼ばれる集団であった。


「だが…どうする…?」


ここにいても被害を喰らうだけだ。逃げたほうがいいんじゃないのか?

アリアスの思いは痛いほどにベイルに伝わっていた。


「いや、あそこにはまだ人がいる。赤日隊が何をするかは分からないが…助けたい」


ベイルはそう呟いていた。

アリアスはその想いを汲み取ったのかは分からなかったが、颯爽と崖をかけて行った。

ベイルもその後を追っていた。


ベイルらは驚愕していた。先日までは煌びやかな印象さえ持っていた港町が、今となっては瓦解し見るも無惨な姿になっていた。

家屋は燃やされ、人々から物資を根こそぎ奪っていた。

ベイルは、その状態の最中の片隅でうずくまる女性を発見した。

ベイルはすぐさま駆け寄り、体を起こしていた。

しかし、それは遺体だった。

口から首にかけてを一刀両断された、生々しいものだった。


「酷ぇ…」


アリアスもやっとの思い出そう呟くことしか思いつかなかった。

本当に目の前の出来事が現実なのかどうかでさえも疑い始めていた。


「噂では反旗軍と聞いていたが…これはただの野党じゃないか!むしろ、タチの悪い…」


ベイルもそう弱々しく呟くしかなかった。

ヴァリアラント打倒の旗印であったのにも関わらず、ここまで腐敗するとは想定外であった。


「とにかくだ、ここから逃げたほうがいい。ここにいてもただ、殺されるだけだ」


アリアスの進言は、ベイルも痛いほど理解していた。

しかし、このまま黙って見逃すというのがベイルにとっては耐え難いほどの苦痛に感じられていた。


「もっと、僕に力があったなら…」


天下を制して安心な世の中を作っていられるのに。

ベイルはそんな思いを口に出すことはなく、略奪を尽くす赤日隊を背景に逃げ出していた。



ヴァリアラントの首都であるアリアバーナにある、王宮「セントラル」において、文官たちは声を潜めて話し合っていた。

我々の想定以上に赤日隊は脅威になりかねん。

その答えがほぼ全員の頭の中に導かれていた。

その中、そんな文官たちのことを見てため息を漏らす者がいた。

名をフリント•フォーレ。後に乱世の旗将とも呼ばれる男である。

しかし、今はまだ地方騎士軍の分隊長に過ぎなかった。


「なにやら、面白いことでもあったようですね」


フリントはその柔らかな声に対して振り向いた。


「ケリィ、お前も悪態をつくのが上手くなったな」


「誰のせいでしょうか?」


二人の視線は混ざり合って笑い合っていた。

フリントはかつては栄華を極め、名だたる役職にもついていたが今では没落したフォーレ家の嫡男であり、ケリィに関しては町医者の息子であった。

本来ならば混ざり合うこともなかった二人だったが、ケリィの父が医者であったために、体の弱かったフォーレの父をよく見てくれていた。その時に二人は出会い、段々と親睦を深めていった。


フォーレは思う。既に世界は乱世に突入している。

それを一刻も早く終わらせなければ、混乱と不安が世の中を包み隠していくことになるだろう。

しかし、フォーレはそれと共に乱世だからこそ武勲を立てて歴史に名を残したいと言う思いもあった。

そして、その願いは叶ったのか叶わなかったのか。

翌週、ヴァリアラントは国土全土にわたって号令をかけた。


~赤い日隊と名乗る国賊により、世は乱れ天命は既に瓦解したと思う人々が多いかもしれぬ。

しかし、この国土の中に一人でも国賊を討ってくれる者を募りたく思う~


すなわち、義勇軍の募集であった。

V.c歴235年。腐り始めた乱世はこの機会を機に大きく変わり始めていくのであった。

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