第二十七話
二十七話目ですね。今回はカミル視点です。
「………ん……んん~!!くはぁ~……そろそろか。」
ベッドからゆっくりと体を起こし、大きなあくびをしながらカミルは窓の外を見つめた。
外は既に暗くなり始め、空には星がキラキラと輝いている。うっすらと見える月の位置的にもそろそろ五龍集会の時が迫っているのが見てとれる。
「ミノルはまだ書庫におるかの~。」
未だに本を読み漁っているのであれば一言声をかけてからここを飛び立とうと思い、カミルは部屋を出て書庫へと向かった。
そして書庫へと繋がる大きな木製の扉をゆっくりと開き、中へと入ると……。
「……お?もしや寝ておるのか?」
奥に置いてある机にミノルが突っ伏している。そしてミノルからは微かに寝息も聞こえた。
「寝ておるのならわざわざ起こすことはあるまい。このまま行くか。」
クルリと踵を返し、書庫を後にしようとした時……ふと、カミルの歩みが止まる。
「…………今夜は少し冷えるな。」
チラリと後ろを振り返ると、安らかに眠るミノルの姿がある。それを見て一つ頷いたカミルは一度自室へと引き返した。そして再び、寝息をたてているミノルのもとへと戻る。
「体を壊されては堪らん。」
再びミノルの元へと戻ってきたカミルは、先程まで自分が使っていた毛布を彼に覆い被せた。
「これでよし……さて、改めて行くとするかの。」
書庫を後にし、中庭へと出たカミルは変身を解き本来の姿へと戻る。そして大きく羽ばたき、淡く星が輝く空へと舞い上がった。
しばらく飛んでいると、カミルは遠くで聞き覚えのある耳障りな音をその耳で捉えた。
「ヴェルも今向かっておるところか。相変わらずあやつの飛行音はうるさくて敵わん。」
そうカミルがぼやいていると……
「うるさくて悪かったわね~。」
いつの間にかカミルの隣を飛行していたヴェルは、悪態をつかれたことに不機嫌そうな表情を浮かべた。
「お?いつからそこに居った?」
「あんたが私の存在に気付いたときには隣にいたわよ。まっ、世界最速の翼を持つ私だもの?捉えられなくて当然よねっ。」
ふふん、と盛大に威張りながらヴェルはカミルに向かって言った。
「相変わらずお主の自己陶酔的な発言は、嫌に腹が立つのぉ~……その薄っぺらな翼膜を燃やし尽くしてやろうか?どうせ滅多に外に出ないのじゃ、失くなっても変わりあるまい?」
「上等よ~!!やれるもんならやってみなさいよ!!私を捉えられたらの話だけどね~っ。」
うんざりするカミルの隣で、空中に多数の残像を残しながらヴェルは挑発する仕草を見せる。
彼女の挑発によって、額に青筋を浮かべたカミルはおもむろにヴェルの残像に向かって手を伸ばした。すると次の瞬間には、その手の中にすっぽりとヴェルの頭が収まっていた。
「……さ~て、なにやら先程はやれるものならやってみろと言っておったな?」
にんまりと悪い笑みを浮かべたカミルは、口から軽く炎を吹いてみせた。それを見たヴェルは一気に震え上がる。
「ぴっ!?い、いやいや!!じょ、冗談よ冗談~あははは…………ホント調子に乗ってすみませんでした。」
全身から冷や汗をだらだらと流しながらヴェルは平謝りする。最後の謝罪の言葉を聞いたカミルはパッと手を離す。
「はぁ~……助かったぁ~。今回はホントに燃やされちゃうかと思ったわ。」
「ふん、よく言うのじゃ。毎度毎度わざと自分から捕まりに来るくせに……。」
カミルはヴェルの本気のスピードを知っている。そして彼女が本気を出せば到底捕まえることが不可能なことも……。
そしてさらには彼女がなぜ、自分から捕まりに来るのかも知った上でそう言った。
「だって本気で燃やされる~……って感じるとゾクゾクしちゃうんだもの。そりゃあ、やめられなくなるわよ~。」
両手を頬に当て、くねくねと体を捻らせながら恥じらいもなくヴェルは言った。
「…………」
カミルはそれを汚物でも見るような目で眺めている。しかし、その目線は逆効果で……。
「そ、そのまるで汚いものを見るような嗜虐的な目線も……ゾクッて来るわぁ~。」
恍惚とした表情を浮かべ、ふるふると体を震わせるヴェル。そんな彼女にカミルはため息を隠せなかった。
「はぁ~……とんだ変態じゃの。……にしても、この前妾の前に現れたときは珍しく仕掛けて来なかったな?」
「当たり前でしょ~?いくらカミルの眷属とはいえ、他の奴にこんな痴態を見られるなんて…………いや、案外悪くないわね。」
「いや、どう考えても良くないじゃろうが!!……ったく、どうしてこんなにお主は変な方向に進んでしまったのじゃ。」
開き直ったヴェルにカミルは呆れ、頭を抱えながらツッコミを入れる。
「何百年と命の危機を味わってないと~ほら……ねっ?ちょっとぐらい危機っていうのを味わいたくなるものなのよ~。」
「妾は御免じゃな。最近ようやく楽しみというものを見つけてのぉ~。命の危機なんぞお断りじゃ。」
「それってアレでしょ~?絶対この前抱えてた魔族のことでしょ?」
「さぁの~なんじゃろな~?……っとほれ、もう見えてきたのじゃ~。」
しらを切るカミルと、問い詰めるヴェルの前にいつも五龍集会で集まる場所が見えてきた。
「ちぇ~っ……もう着いちゃった。」
「他の奴らはもう来ておるようじゃな。妾達もさっさと合流するぞ。」
「はいは~い。」
カミルとヴェルは他の三龍達が集まっているであろう件の場所へと急降下していった。
次回までカミル視点続きます。それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~