第二十五話
二十五話目です。
そして焼き上げたクッキーを全て平らげたカミルは、さっき料理を完食したとき同様にとても満足そうな表情を浮かべていた。
「んっふ~……満足じゃぁ~。」
ポンポンと満腹になった自分のお腹を撫でながらカミルは言った。
「後は、妾は五龍集会の時間まで寝るが……ミノルはどうするのじゃ?」
「……そうだな。この城に書庫みたいなところって無いか?できればそこでこの世界の言葉について色々と調べたいんだが。」
「そういうことなら着いて参れ。妾が案内してやろう。」
ひょいとコカトリスの雛を持ち上げたカミルは、厨房を出ていった。私もその後に続く。
城の中の広い廊下を歩いている最中、カミルが話しかけてくる。
「にしても、今思えば不思議なものじゃな。異世界の者と普通に会話ができるということは。」
「それに関しては同意見だ。文字は違うのに言葉は通じるからな。」
いったいどういう仕組みなんだろうか……。考えてもわかることではなさそうだが、カミルの言うとおり不思議なものだ。
そんなことを話しながら歩いていると……。
「ほれ、ここじゃ。」
カミルが足を止め、指差した先には大きな木製の扉があった。
「この中には様々な種類の本が置かれておる。それこそ人の国の本もあれば、この国の本もある。その他にも何冊か獣人族や精霊達に関する本も置いてあるのじゃ。」
「カミルが集めたのか?」
「まぁ、妾が集めたものも少しある。じゃが大半は昔ここを使っておった奴が残した遺物よ。」
私の問いかけにそう答えると、カミルはその大きな木製の扉をゆっくりと開けた。
開いた扉から中を覗くと、そこには大きな本棚がいくつも並んでいる。そして地面には無造作に積み重ねられた何冊もの本も置いてあった。
「とんでもなく広いな。」
「そうじゃろ?故に暇潰しには良い場所なのじゃ。ま、妾はこの中の本は全て読み尽くしてしまったから、しばらく訪れてはおらんかったがな。」
「この中のを全部読んだのか!?」
おいおい……いったい何日……いや、何年かければこの大量の本を全部読めるっていうんだ?
あっけにとられる私にカミルは何事もないかのように言った。
「そうじゃ~。お主が来るまでは本当に毎日が暇でのぉ~……時間の許す限りここにある本を読み漁っておった。じゃからここにある本の内容は全て記憶しておるぞ?」
記憶力も半端ではなかった。普通二、三冊本を読んだら最初に読んだ本の内容が薄くなってもおかしくないはずだが……。
それじゃあ試しに……。
「じゃあこの本の内容は覚えてるか?」
おもむろに本棚から一冊の本を抜き取り、題名らしきものだけをカミルに見せた。
すると……。
「もちろんじゃ!!その本はの…………。」
それからカミルは、私が手に取った本の内容をこと細かく私の前で話してみせた。
ハッキリ言えば驚愕……この一言しか口にできないほど、私はカミルの凄さに驚いていた。
「くっふっふ~、どうじゃ?……っとまぁミノルはまだ文字が読めんから合っておるかはわからぬか。」
「いや、そんなにスラスラと話しているところを見るに間違いなく合ってるんだろうなって感じがするよ。」
もし、覚えていなかったらこんなにスラスラと言葉は出てこないだろうし……な。
「さて……っと、それじゃあカミルにお願いがあるんだが、この中で言葉を覚えるのに適した本を見繕ってほしいんだが……。」
「全ての言語を覚えるつもりかの?」
「もちろんだ。」
この際全て覚えていた方がいいだろう。その方がこれから楽だからな。
「わかったのじゃ、ちと待っておれ。」
「頼むよ。」
そして、カミルが本を持ってきてくれるまでの間……私はこの書庫の中を軽く見て回ることにした。
「……にしても広い。本棚も大きいし、端から端までびっしりと本が並んでる。」
本棚にはまったくと言っていいほど隙間はない。おそらく本棚に入りきらなかった本が床に無造作に積み重ねられているのだろう。
そして辺りを眺めながら歩いていたその時だった。
「いだっ!?」
上から何かが落ちてきて私の頭頂部に勢い良く当たったのだ。
「いっつつつ……本が落っこちてきたのか?……!!この本は……。」
ヒリヒリとする頭を手で撫でながら落ちてきた本に目を向けると、その本には確かに日本語で『異世界アルフィニア』と書いてあった。
「異世界……アルフィニア?それに、これは間違いなく日本語……だよな。」
その本を開いて中身を見ようとしたとき……
「おっ?ミノル、ここにおったか。」
「ん、あ、あぁ……ちょっと見て回ってたんだ。そうだ、カミル……この本って」
「む!?何じゃその本は、見たことがない本じゃ。それに……この文字は何じゃ?見たことがない文字じゃ。」
カミルは私の持っている本をまじまじと見てそう呟いた。
「まさか……ミノル!!お主はこの文字が読めるのか!?」
「読めるっていうか……まぁこの文字は私が普段使っている文字なんだよ。」
「なんと!?ということは……これは異世界の書物なのかのっ!?」
「……どうだろうな。」
この本が私のいた地球からこちらに紛れ込んだ書物かは、残念だがわからない。私があっちで読み漁っていたのは主に料理系の類いの本ばっかりだったからな。
「まぁ、これも読んでみるよ。」
「後で内容を聞かせてほしいのじゃ!!それか妾にこの文字を教えてほしいのじゃ!!」
「そうだな、多分話を聞くよりも実際に読んだ方が面白いだろうから、後で簡単に教えてあげるよ。」
「おぉ!!楽しみじゃ~。……おっと忘れるところじゃった。ほれ、これが妾が厳選した本じゃ。」
何冊かカミルは私に本を手渡してくれた。
「これを読めば少しは言語の理解が深まるじゃろう。」
「ありがとう助かるよ。」
「問題ない、それでは妾は先に一眠りさせてもらうのじゃ~。ではの~。」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ。」
くあぁぁ~……と大きなあくびをしながらカミルは書庫を後にした。
さて、しばらく読書と洒落込むとするか。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~