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ラブティ・ベール  作者: ゆか子
6/7

ベールをかけて

トーコはザラメが自分たちが子どものころに行った「ラブティーランド」のことを「覚えていない」と言うことが不満だった。


四時限目が終わり、ザラメとのいつもの昼食中、トーコはザラメに「ラブティーランド」であれに乗った、これを食べたと話すのだが、ザラメは「全然覚えてない」と全くつれない。


そこでトーコは言ったのだ。「〇〇浩司君って知ってる? ハーフでイケメンで、すっごくカッコいいんだよ」と。


ザラメのどこか冷めた声に遮られ、トーコは「ふぇ?」と間抜けな声をもらすことになったが、トーコは続けてこう言おうとしていたのだ。「まるであのとき二人で一緒に見た、パレードの王子様に似ているんだよ」と。


トーコは〇〇浩司が好きだから名前を出したのではなく、ザラメに「ラブティーランド」のことを思い出すきっかけになってくれればと思って〇〇浩司の名前を言ったに過ぎなかったのだ。


トーコはザラメに「ラブティーランド」で自分に言ってくれた「ある言葉」を思い出して欲しかったのだ。

トーコにとってその「ある言葉」は大切な意味を持つ言葉だったから……



******



まだ東の空にある太陽が、今は使われていない旧校舎が落とす影を長く伸ばしている。


ひんやりと湿った影の中、トーコは旧校舎の壁よりに、小さな体をさらに縮こめるようにしてしゃがみ込み、抱えた膝に顔を埋めていた。


ーー何て声をかければいいんだろうーー


トーコが旧校舎の裏にいるのを見つけたものの、ザラメはかけることばが出てこない。


ーー泣いている……?ーー

もう少しザラメがトーコに近づけば、トーコが小さくふるえているのがわかるのだが、ザラメの足は動くことを拒んでいた。


まるで二人が幼いころに行った「ラブティーランド」で橋の上にいたところ、ちょうど滝を落ちてきた絶叫マシンが上げる水しぶきを浴びて重くなったスニーカーを履いてるかのように。



「ラブティーランド」で頭からびしょぬれになってしまったトーコを見て、ザラメは駆け出している。


向かった先は「ラブティーランド」のオフィシャルショップだ。


そこでザラメは子どもの手に抱えるには少し大きめの、「ラブティー」のキャラクターがエンボスで描かれている真っ白なタオルを、持っていたおこづかいを全部使って買ったのだった。

息を切らせてザラメがトーコのもとへ戻ると、トーコは橋の隅にうずくまって、顔を膝に埋めて泣いていた。


ザラメはぬれて重くなったスニーカーをぐしゅっ、ぐしゅっと鳴らしながらトーコの前まで歩くと、幼い両手いっぱいに抱えて持ってきた大きめの真っ白なタオルを広げて、ぬれがらすになっているトーコの頭の上に、そっとかけた。


そして「ある言葉」を言ったのだ。



ザラメはトーコと幼いころ行った「ラブティーランド」での出来事を覚えていた。


制服のポケットから、一枚の白いハンカチを取り出す。


このハンカチは、縁に繊細なレースの刺繍が施され、そのアンティークなデザインが気に入ってザラメが買い求めたものだったのだが、薄めの生地で、広げると以外にも大きく、真っ白で汚れたら目立ちやすいということもあり、普段使いするのをためらっていたものだった。


が、なぜかふと思い立ち、今日はこのハンカチを持っていこうと、部屋のスツールの中を探してみると、長い間仕舞いっぱなしにしていたことでシワが寄っていて、朝慌てて慣れないアイロンをかけてきたのだ。ザラメが今朝、学校に遅れて着いた理由でもある。



ザラメはゆっくりとトーコの前へ進んだ。


ひくっと小さな嗚咽が聞こえ、華奢な体が小刻みにふるえているのがわかる。そこに「ラブティーランド」でずぶぬれになり、橋の隅でうずくまっていた幼い彼女の姿が重なり、ザラメはキュッと胸を締めつけられるような気がした。


ーーまた、傷つけてしまったーー


ザラメは真っ白なハンカチを丁寧に広げて、トーコの頭の上にそっとかけた。


薄く透けて見える、真っ白な生地に、縁に繊細なレースが施されたハンカチは、乙女が祈りを捧げるときに着けるベールのようで……

ーー守ってあげたいーー


ザラメは膝を抱えてうずくまるトーコを見つめながら、言った。


一言、一言、ゆっくり、静かに、力を込めて。幼かったあの日、「あの時」、言った言葉を、もう一度。


「トーコがけっこんできなかったら、ザラメがもらってやる……! だから、泣くな!」


「あの時」は、びしょぬれになって泣き続けるトーコに、どうしたらいいかわからず、ただぶっきらぼうに、半ばやけくそになって放った言葉だったが……



それはトーコにとって、大切にしてきた言葉で……


「ザラメちゃんっ!」


ぱっと、トーコが顔を上げた。


真っ白なハンカチのベールを頭に着けたその顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃで……


でも、きれいで可愛いと、ザラメは思った。


ーー強くなろう……! 大好きなトーコの隣に居るために……! ーー


読んでいただきありがとうございます♪ハッピーエンドの百合物語、いかがでしたか?楽しんでいただけましたらうれしいです♪感想などありましたらお気軽に銅像……♪

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