遊園地
ザラメとトーコは幼なじみだ。
同じ幼稚園で仲良くなり、同じ小学校へと入った。
二人は小学校の入学記念に、二人の両親から「ラブティーランド」という遊園地につれていってもらったことがある。
初めて新幹線に乗り、着いた先でのけぞるようにして見上げた、でっかいおもちゃ箱のような「ラブティーランド」にザラメとトーコの胸は高鳴った。目をキラキラ輝かせて、細長くねじったマシュマロのような柱に、焼きたてのクッキーを思わせる壁に囲われた園の入場ゲートをくぐる。
その二人の小さな背中に、二人の両親はにこにこと手を振っている。「さあ、楽しんでらっしゃい」と。
目の前に広がる色とりどりのアトラクションに、ザラメは気持ちがすっかり急かされ、自分たちを見送る手にそれほど気を向けることはなかったが、トーコは少し寂しげに、立ち止まっては後ろをチラリ、チラリと振り返るので、ザラメはたまらずトーコの手を握った。
「ふぇ?」
キョトンとした顔を向けるトーコからザラメはフイっと顔をそらし、前方をちょっと睨むようにして「いくよ!」と少し強めに言った。
「きゃー!」
ゴーッと唸り声を上げて、二人の斜め上をジェットコースターが通る。
あっという間に視線から外れて行ってしまったコースターの背を追うと、ぐるんと鮮やかな宙返りを決めた。その横では空中ブランコの巨大な円盤がくるくるまわり、足を空中へ投げ出した大人や子どもたちの歓声が聞こえてくる。
二人の側にはメリーゴーランド、少し離れたところにコーヒーカップ、奥には観覧車……
ぐるりと周りを見渡すだけでも、その楽しさに目が回りそうだ。
「ザラメちゃん、すごい、すごいよ……!」
ザラメが手をつないでくれているという安心感からか、トーコからは入場ゲートで見せていた不安気な表情は薄まっていた。ほんのり頬を蒸気させて、二人でこの「ラブティーランド」を楽しもうと、「どれにのる?」と聞いてくる。
「……じゃあ、あれ!」
ザラメは斜め上を指差した。
選んだのはもちろん、遊園地の花形とも言えるジェットコースターだ。
「いこう、いこう!」
はしゃぐ二人の右手首にはお揃いのピンク色のリストバンドが見える。これは、「ラブティーランド」でアトラクションを楽しむためのフリーパスになっていて、ピンク色は子ども用だ。
仲良く手をつないでアトラクションの列に並んだ二人に、係りのお姉さんが近づくと、中腰になり二人に目線を合わせて微笑んだ。
「二人はきょうだい?」
質問をされ、戸惑うように後退りしようとするトーコの代わりにザラメが答える。
「うんん、ともだち」
「そぉ、仲、良いのね」
言いながらお姉さんは細めていた目を少し大きめに開いて二人を交互に眺めた。ザラメは何か居心地の悪さを感じながらもじっとする。
「うーんとねぇ……」
お姉さんはいかにも言いたくないことを言わなければいけないというような困った顔と声で告げた。
「きみはだいじょうぶだけれど、おともだちはもうちょっと大きくなってからじゃないと、これに乗るのは無理なの……」
お姉さんはトーコに視線を移して優しく「ごめんね」と言った。
どうやらアトラクションに乗るための身長をトーコが満たしていないということらしい。
「ザラメちゃん、乗ってきていいよ」
眉を八の字にしながらも、控えめな笑みを見せてトーコが言う。
「ゴーッ」っと、アトラクションのマシンが立てる唸り声と「きゃー」っという歓声がザラメを急かすように誘ってくる。が、ザラメはきっぱりと言った。
「いいよ。いっしょに乗れるの探そう。ザラメはトーコが大きくなるまで待つよ」
ゴーカートにコヒーカップにメリーゴーランド、二人は仲良く手をつないで回った。
「わぁー、ねぇ、見て見て、ザラメちゃん!」
トーコが熱い視線を送る先に「ラブティーランド」のキャラクター商品を並べたオフィシャルショップがあった。大きなぬいぐるみから日用でつかえるタオルやコップにお皿が明るいガラス張りの店内に溢れ、購買欲を誘ってくる。
「お土産はあと!」
ショップに名残惜しそうな目を向けるトーコに構わず、ザラメはトーコの手をぐいぐいと引っ張るのだった。
「次は、あれ、あれ乗ろう!」
ザラメが指差す先には観覧車があるが、二人の真上には太陽が昇ってきていた。そこでザラメはつないでいるトーコの手が重くなってきていることに気づく。
「トーコ、疲れた? 休もうか?」
「ふぇ?」
気をつかって言っているのにトーコはとぼけた声を出すのでザラメは少し呆れた顔をするのだった。
それから二人はベンチを見つけ、寛いでいたのだが、何やら人がメーンロード沿いに集まり出しているようで、気づいた二人は、
「何かあるのかも、トーコ、行ってみたい?」
「うん!」
疲れや腹ペコなど、幼い好奇心の前ではかき消えてしまうようだ。トーコの見せる無邪気な笑顔に、ザラメも笑顔を返すのだった。
「パッパラー!」
気持ち良く晴れた青く高い空にトランペットのファンファーレが鳴り響く。メーンロード沿いには人だかりができて、期待と熱気ににぎわっている。
二人はちょろちょろと人の間を抜け、メーンロードを見渡せる場所に進んでいった。
「じゃんじゃんじゃん!」「バシーン! バシーン!」
メーンロードの中央を、心が浮き立つような楽しげな曲を奏でるマーチンぐバンドを先頭に、ふわふわとカラフルな衣装の踊り子たちがリズムに合わせて妖精のように軽やかに舞いながら進む。
「わぁっ!」と大きな歓声と拍手が沿道から沸き上がる。「ラブティーランド」のマスコットキャラクターの「ラブティー」とその仲間たちが愛くるしいしぐさで愛嬌を振りまきながら行進し、フィナーレにはキラキラと太陽の光をまばゆく受けて輝く、細部まで装飾を凝らした華やかな馬車が優雅に駆けて行き、「パン!、パン!」と昼間の花火まで鳴った。
二人が見たのは「ラブティーランド」で一番人気がある「ラブティーパレード」だった。
「トーコ、大人になったら、あのパレードの馬車に乗ってた王子様みたいな人とけっこんしたいなぁ……!」
パレードを見終えたトーコは、ぽーっとした表情でつぶやいた。
「トーコはけっこんできないよ」
「ふぇ?」
ザラメのどこか感情の乗らない冷めた声に、トーコは黒目がちな目をぱちぱちとまばたかせた。
「だって、ブスだから」
事も無げにザラメは言った。
親友の発した言葉に足を止めるトーコ。いつの間にかつないでいた手は離れ、歩き出すザラメ。
と、次の瞬間、トーコは頭からびしょぬれになってしまった。二人がいる橋の下を、滝から落ちてきた絶叫マシンが通過し、「ばっしゃーん!」と弾けるような水音が聞こえたかと思う間もなく、橋の上にいたトーコを水しぶきが襲ったのだった。ザラメは歩き出していたこともあり、水しぶきの端がスニーカーをぬらす程度ですんだのだが。
ザラメはびしょぬれになったトーコを見るなり、ぬれて重くなったスニーカーをぐしゅっ、ぐしゅっと鳴らして走り出した。
どんどん小さくなっていく、親友の後ろ姿に、トーコの視界は滲んでいった……




