魔法世界の自衛隊
「優等生・・・か。」
先ほどの進路相談の際、そう褒められ国立大学も余裕だと言われた。
実際、模試や中間試験などでは上位どころかどれも5位に入るくらいの好成績で、出席や態度も良好である。特に競争率が高い首都圏の高校でここまで成績が良好で、国公立も余裕な数少ない優等生に仲間入りできたのは、信じられないことだ。そのせいか、イマイチ実感が出ない状況である。
「良かったじゃん!あたしのおかげじぁない、文篤!」
使い魔のイヴィンが自慢げに言う。
「・・・なわけねーじゃん。模試だもん、模試。実技魔術だったら相当有利だけど・・・。」
たしかに、使い魔がいれば有利だが、筆記試験ではあまり役に立たない。インチキができないこともないが、魔術が浸透しており、十分に想定できると言うことで試験会場には魔力監視センサーが取り付けられていた。
「だーかーらー・・・。この国にはあれでしょ?宿り魔がいるだけで国家資格同然の優遇が受けられるって制度があるんじゃなかったけ?」
イヴィンは数年前にいきなり契約といっていきなりキスしてきたやつだ。
確かに家族みんな喜んでいたけど・・・。
いきなりこれはなかったな・・・。
「いや、でもやっぱそういうのを使うのはあんま好きじゃないからな・・・。」
「ふーん・・・。」
イヴィンは、なにか考えたように腕組みすると、にやっと笑った。
「・・・。なにか企んでるな?」
「?」
イヴィンは宿り魔らしく、大人びたような美しい容姿に露出度の高いボンテージと、学校内では明らかに場違いな格好しているが、ときよりおっさんくさい態度をとったり、遠州弁に近い喋り方をしている。
そして悪巧みか何かしているときは必然的に分かりやすい。
「岸間くーん!」
げ、絵紆!?
文武両道に優れた上、男子の大半が好意を寄せるとされる美人・・・と言われるほど完璧に近い彼女ですが・・・。
「ごめん!体操服忘れたから、借りるね!!」
うえー・・・やっぱり。
道具をよく忘れる事だ。容赦なく俺からモノを借りていく。
しかし、こうも不自然な展開。やっぱり・・・。
「イヴィン・・・、白状しなさい。魔力でこの展開に持ち込んだのですね?」
文篤はイヴィンに迫った。
「うふふーなんの・・・。」
「サバトの香水。」
「私がやりました。」
悪魔なら誰もが好む香水。
昔の魔女が全身に塗って悪魔を呼んだマジックアイテムである。
香水の入った小さな瓶を見せびらかす。
なんでわかったのかしら?聞かれたので、過去の女性に対するドロドロした記憶を思い出した。
「第一に展開があまりにも急すぎることだな。
急に来て急にやられる。だいたい君の仕業ってわかるよ。」
と答えた。
確かに理不尽っは急に訪れるもの。しかし、わかりやすい急なのだ。
そして、彼女の魔術による理不尽に到来は、文篤の潔癖をついたものだがとんであるのも決定的な証拠。
「俺が潔癖症なのは知ってるからだろ?」
「まあね。」
追い詰められても、イヴィンはまだ余裕のすぶりを見せていた。
「でも、なんで嫌なのさ?男はみんなこういうの好きなんだろう・」
「お前・・・、男子の全員が全員そんなヤツじゃないだろ。・・・!」
文篤は授業のチャイムを聞き、すぐさま教室へ駆け込んだ。
このあと、先ほどのことが気が気で仕方なかった。
「やっぱりね・・・。」
授業直後、ごめん・・・と制服姿の絵紆が謝ってきた。
そして、帰ってきたのはぐっしょりになった体操服だった。
絵紆が汗っかきなのを知っていたので、嫌な予感がしたが、的中してしまった・・・。
「どうしよ・・・。使いたくないな。」
相手が絵紆とはいえ、他人の汗など嫌で仕方がなかった。
多分特殊な性癖の方なら喜ぶと思われるが。
次なんだよなー・・・体育。
「よかったじゃーん♪レアアイテム・・・。」
ゴッ!
その時、文篤の拳がイヴィンめがけて飛んできた。
「何がレア・・・よかったんだ!?いいかげんにしろ!!」
「・・・・。ぐす・・・ぐすっ。許して・・・。」
イヴィンは、泣きながらこっちを見る。
文篤はため息をつきながら、教室に戻った。
イヴィンの 嘘泣きは無視だ。
「・・・ち。引っかからんな・・・。」
無論、いつものことである。
「7時間目の体育は寒かった・・・。」
「だからごめんって!」
文篤はジト目で、イヴィンに言う。
彼女は意外とこういうのには弱く、必死に謝ってくる。
いつも渡している魔女の香水をあげないと言い、弱みを握った。
こうやって、飽きるまでいじる。
イヴィンに嫌な意地悪されたら、こうやっていじり返す。
「・・・今も寒いからな。ジュースおごってくんね?あったかいの。」
今日はこれで勘弁してやろう。
イヴィンは、自分の小遣いを使っておしるこを買ってきた。
・・・正直言うと、コンポタのほうが好きだが、特に言わなかったでいいだろう。
「はい、香水。」
「ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
小さな瓶を両手で持つと、頬を擦り付けて喜んだ。
イヴィンにとって、香水はタバコのようなものらしい。
「・・・ところで、何でそんなにこういうのダメなの?」
ああ、言い忘れてた。ちょっと、思い返してみるとだんだんおぞましい光景が脳裏に浮かんできた。
幼稚園の頃は自分が可愛いという理由で、頭がおかしい女子にベロベロと舐められたり、小学生の時は執拗にぺたぺた触られる。高学年になれば、いじめられたり絡まれたり。中学生二年になっても、嫌な意味で好かれた挙句、勘違いで嫉妬した男子達が敵対、四面楚歌状態に。
高校になると、災害で家族を失った女子を陰湿ないじめから助けた結果、ヤンデレ化してストーキングされる。発覚すると、謹慎措置を受けたが、それを機に更にエスカレートした。
小学生時代のことで潔癖症になり、一年前の出来事で完全に女子への拒絶反応が出るようになってしまった
が、藤沢市から練馬に引越した。
転校したときの試験は、とてもめんどくさかったが、拒絶反応も徐々に治まった。
だが、旧友の話によると、彼女はまだ諦めていないらしい。
「・・・とまあ、苦難の道で・・・ってお前もそんときおっただろ!?」
今回の件はこれで良しとして・・・7
最近下校中になにか不穏なものを感じる、気のせいだろうか・・・。
横の道路に自衛隊の車両が通った。
ジープにトラック、戦車までいることから、どこかに巨大生物が出没したのだろう。
「自衛隊・・・。」
この時、文篤はさっきまで感じていた不穏な空気とは違い、なにか引き寄せられるような不思議な気持ちになった。
トラックの中に戦闘服を着た隊員やバトルスーツみたいなものを着ている男女が見えた。
自衛隊の車両群が過ぎ去ったあと、再び不穏な気配を感じた。
「・・・。今日はバスに乗らないか?」
不穏な気配を過敏に察知したので、バスに乗って家の近くまで移動することにした。
バス停に向かって歩こうとした。
その時
―止まれ―
突然声がした。
「げっ!」
イヴィンはビクッとその場で固まった。
「やばいっ!」
天使!?
確か魔と対をなす存在であり、敵対するものである。
「黄昏時だから無理もないな・・・。時たま異世界と繋がることは知ってると思うけど、つながったはつながったで宿り魔を排除しにくるんだよ!あたしを狙って消しに来るぞ!?」
イヴィンは焦った顔をして、文篤を引っ張ってここから離れた。
「あ!バカっ!バス・・・!」
しかし、バスは既に通り過ぎていた。
「みーつーけた!」
パニックを起こしたイヴィンは、誰もいないようなところに連れてきてしまった。
近くから美しい女性のような声がした。
「やっと天界から地上界につながった矢先、あなたたちを発見したわ。
早速処理しないとねー。」
天界・・・。
「あなたはすべての世界を蝕むものである魔界の宿り魔よ。
あなたを排除する!」
天使と名乗る少女は、弓矢を構えた。
すると、イヴィンは手に魔の力を溜め込み、天使に襲い掛かった。
「わっ!」
「堕ちろ!」
天使は弓矢で素早く応戦しようとするが、イヴィンにかなわず、苦戦を強いられていた。
彼女は宿り魔だが、正確には、魔というより堕という規格外の属性を持っていた。
属性に関しては膨大なのでここで述べることはできないが、代表的なものとして 天・月・水・火・地・魔があるが、さらに上をゆく属性があり、聖・万・堕の三つが該当する。
所詮天より下の属性しか持たない天使は、堕の力を操るイヴィンの前に敗退した。
「ぐ・・・あっ!」
文篤はイヴィンが宿った以降、魔術に関しても勉強してきたので、ある程度の知識は持ち合わせていた。
しかし、彼の知識通りなら 堕 は・・・。
「なーんだ、天界の扉が開いたもんだから、てっきり聖クラスの大物が出るかと・・・。」
「大丈夫なのか?」
文篤は知識を起こした。
「堕は他の属性と比べ強力な魔力を秘めるが、同時に相手を堕落させる効果もある。
凶暴化して諸刃の剣になりかねん。と資料にあったぞ?」
それを聞いたイヴィンは大笑いした。
「あははは!ビクビクしなくていいよ。
殺っちまえば堕落は食い止められる・・・。」
天使とは言え、目の前で何かが殺される瞬間を見るのは好きではないが、異世界の者は敵対する限り危険だし、何もこういうことは珍しくもない。
「うぐっ!」
止めを誘うとしたイヴィンの首が掴まれた。
「ぎぎぎぎぎ・・・うぐぐぐぐ・・・。」
馬鹿アアアアアアアア!!
こういう時に!!
背中から触手に近いものが生え、イヴィンの首を絞め始めた直後、本体は激しい痙攣を起こした。
転生・・・?
以前、資料に属性や種族が変異する 転生 というものがあった。
イヴィンの言うとおり、堕落は倒してからすぐに消せば起こらないが、そのまま放置しておくと魔物に形質変化してしまう。
完全にイヴィンの油断が起こした結果だった。
すぅー・・・
「!?」
怪物と化した天使に複数の光弾が命中した。
「排除されるのは・・・」
矢のような武器を持った少女が家の屋根から降りてきた。
「お前だ!!」
少女はそう言うなり、矢を用いて攻撃をした。
光の矢をイヴィンの首を絞めている触手を破壊し、天使に向かって何度も矢を放った。
「が・・・は・・・助かった!」
解放されたイヴィンは、むせながらも立ち上がった。
「危ない危ない、油断したばかりに堕落し・・・。」
「いや、元から堕落していた。」
少女は矢を弓にセットしながら言った。
「なんだって・・・?」
イヴィンは目を丸くしながらっ少女に聞いた。
彼女にとっても意外だったようだ。
「君の堕の魔術で化けの皮が剥がれた。
要するに天界はこんな怪物のだらけの、地獄よりひどい場所へと変貌を遂げている。」
光の矢を放つ。
これも命中した。
「災害の原因も・・・堕落した天界の人々の成れの果ての姿!」
まとめて3発放った。
怪物は奇妙なうめき声を上げながらもがく。
「もう数発撃てば、殺れる。」
だが、怪物は触手を放つ肉会のような姿から、爬虫類を彷彿とさせるような姿になった。
「スタイル・チェンジ!?」
爬虫類のような怪物は目にもとまらぬ速さで、少女を攻撃していった。
「はやっ!」
「文篤!驚いている場合じゃない!!」
イヴィンは文篤の手を引っ張った。
「な!」
「ずらかるぞ!」
その言葉を聞いたとき、文篤にわけもわからない感情が芽生えた。
・・・俺は、人を・・・見捨てるのか?
でも、そうしなければ俺は死ぬ・・・かも。イヴィンの選択は正しい。
だが、ほうっておけば、彼女は・・・。
でも、いや、やっぱり、だが・・・。
色々な異論が・・・葛藤という形になって文篤を混乱させる。
「早く!!」
イヴィンの叫び声が、ある記憶を思い浮かべた。
あの時・・・!自分の身のために、保身のために見捨てた結果が!!
藤沢市の災害の時、ある街角で転んだ少女がいた。
二人組だったと思う。だが、うち一人は溶解液にかかって!!
それを見るほど冷静だったのに・・・保身を重視したためにぃいいい!
怪物にやられ、弱った少女を、あの時の少女に当てはめた。
「まてよ!!」
逃げようとするイヴィンを止めた。
「なんでだよ!こんな時に!!」
その時、文篤は只ならないプレッシャーを放つ。
「何なんだよ!いきなり天使が来てバトル、不注意で堕落したら女の子がいきなり現れて戦い始めるし!!全く状況がつかめねえよ!!」
最初は冷静になれたが、目の前で誰かもわからぬ少女が敵の攻撃の翻弄されていく姿に、眠っていた自然と他愛本能が目覚めていた。
恋ではない。本気で助けたいという本能に駆られていた。
しかし、戦っても勝ち目がない。
思春期真っ只中で情緒が不安定なところがある中、いきなりこのような状況に立たされ、葛藤が起こる。
「くっそぉおおお!!!」
やがて、それが皮肉にも怒りというリアクションをとり、戦うという選択肢に出た。
しかし、コントロールが取れず、無数の魔力がイヴィンに挿入される
イヴィンの魔力が上昇し、暴走しかける。
「チョ・・・ま・・・!入って来る魔力が・・・多過ぎる。」
昇華しきれないイヴィンの体中から、紫色の稲妻が出てくる。
「ま・・・待って、ほんとにやめ・・・。」
抑えきれなくなったイヴィンは、破裂寸前にまでなった。
ぽん
肩を軽く叩く音が聞こえた。
「もう大丈夫だ。あの子は、我々が助けるから。遅くなってすまない。」
叩いたのは戦闘服をまとった男性だった。
「自衛・・・隊?」
文篤は宿り魔への魔力供給をやめ意識が途切れると、男に倒れかかった。
イヴィンも倒れる。
その時、銃弾が怪物に命中した。
怪物はたまの飛んできた方向へ進み始める。
「今だ!負傷者の救出を!救出完了と同時に戦闘態勢!
目標を排除する!!」
男は文篤を介抱しながら、指示を出す。
整列した完全武装の隊員たちは、 64式小銃 を構えた。
中に入っているのは7.76㎜マンチェスター弾。
マンチェスター弾ならではの高威力にくわえ魔力も含まれているので、小規模程度の未確認生命体なら高い効果が期待できる。
「目標接近!!」
隊員が叫ぶ
「撃て!!」
射撃命令とともに、隊員たちは64式小銃の引き金に指を引いた。
凄まじい発砲音が、辺りに響いた。
既に日没を迎えていた18時半頃の事である。
「・・・ここは。」
文篤はどこかもわからぬ部屋のベッドで目覚めた。
しかし、今は起き上がれないので天井と横しか見れない。
「・・・イッチ・二ー・サンシッ!イッチ・ニー・サンシッ!」
左側の窓から銃を持った集団が大声で叫びながら、走っている。
叫ぶではなく、かけ声だった。
「ここって・・・。」
「第一師団司令部、練馬駐屯地よ。」
今時珍しい女口調の白衣を着た女性が、文篤の顔をのぞいた。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
女性は優しく問いかける。
立ち上がろうとしたが、全身に力が入らない。急な脱力に目が回るような感覚に陥り、ベッドの横に落ちかけた。
「ちょ・・・まだ起き上がらないで!抑制失調症候群を起こしたんだから。」
危うくのところで、女性に受け止められた。
「よくせいしっちょう症候群?」
文篤は、ベッドに寝転がれながら聞いた。
「激しい感情の起伏で、いろいろなモノに対する抑制機構が利かなくなっちゃうの。
肉体的、生理的、感情的なものから人の内に秘める魔力とかね。
でも、それはトラウマ以上の何かを見てやっと起こるリスクが 5%以下 になるくらい起こしにくいはずよ。よほどのことがあったのね。」
トラウマ・・・か。
あの時のことを思い出した。
巨大生物の体液で溶かされる人を見た。
誰だかは知らないが、それでも発作的に思い出す。
簡単に顔の輪郭や体の一部が崩れていく光景への拒絶反応、ただ見ていることしかできなったという罪悪感で、時たま錯乱状態に陥ることがあった。
しかし、イヴィンが宿り負のエネルギーを吸収してくれた後は、一気に楽になったが、やはり罪悪感が激しかった。
でも、精神病院には行きたくなかったから、様々な分野で昇華してごまかしていくことで、なんとか精神病診断は免れた。
こうも普通の生活(?)に戻れたのはイヴィンのおかげ・・・
「イヴィンは!!俺の宿り魔どこにいますか!!?」
はっと思いだした文篤は、半身だけで起き上がって女性に問い詰めた。
「お・・・おおお、凄いわねえぇ。こんなにも早く起き上がれるなんて。
それに今は反動で脳の思考回路があいまいになってて考えることすら難しい状況なのに・・・。」
「褒めるより先に教えてください!!」
「あわてないで!あなたの中で眠ってるわ。あなた一日寝たから、あと数時間したら魔方陣描いて呼び出しなさい。そうすれば普通に生活できるわよ。」
よかった・・・。
ほっと溜息をついて、再びベッドに横たわった。
「・・・よほど気になったんだね。」
「・・・はい。」
わずかな気力を使い果たしたのと安心感で、ぐったりした。
「あなた・・・高校生でしょう?
卒業したら、どこ行くの?大学?」
一息ついたところで、女性は聞いてきた。
「・・・まだ決まってないです。」
文篤はぼそっと答えた。
「じゃあ・・・」
女性は文篤の顔を見つめながら言った。
「自衛隊なんか・・・どう?」
「自衛隊・・・ですか。」
再び、走ってきた隊員達が目に入った。
「私は一後方支援連隊、衛生隊所属、平松一等陸曹・・・。
何も自衛隊は戦うだけじゃないわ、私のように衛生科とかまたまた会計科とか・・・戦わない職種だってたくさんあるのよ。」
うーん・・・全くわからん。
でも、聞くとめんどくさいから後でネットでしらべよう。
「考えて・・・おきます。」
女医|(?)には、そう答えた。
自衛隊・・・。
ふと、文篤は、夕方の時に通りかかった自衛隊車両を見た時と同じ感じがした。




