第33話 嵐の前に
「アルスの兄貴、マジでいいんですか?」
B級冒険者アナグラム。
俺より渋くて格好良くて、いい声している男だ。
その横には忍びの乙葉がいる。
「アルス、私は手加減しないぞ。――それは、知っているだろう」
黒髪の黒目、さらにいえば黒装束が似合っている。
二人はそれぞれドナーさんの武器を持っている。
アナグラムの剣は魔法をも斬ることができる代物だ。
先端だけに限るが、攻撃や防御魔法をも切り裂くことができる。
乙葉は短剣だ。小回りが利くし、何より彼女の特性に合っているだろう。
俺たちは村の開けた場所に距離を空けて立っていた。
魔力も回復したので、少し身体を動かそうと言うわけだ。
また、武器の品質を確かめる必要もある。
それに適してるのは、結界や防御魔法が得意な俺というわけだ。
リリにも頼んだのだが「理由もなくアルス様に攻撃はできません」とニッコリ返された。エレナは、無意味に戦うことはしたくないと。
よって、二人にお願いしたのである。
乙葉とは約束通り手合わせも兼ねている。アナグラムと一緒で気に食わなそうだったものの、八咫烏をこれ見よがしに見せびらかしたら乗ってきた。
二人は強い。
アナグラムは戦闘の勘がいいというか、度胸がある。乙葉はとにかく素早い。俺が見たところ、二人が連携すると相当なものだろう。
また、ドナーさんの武器は魔法使いにとって天敵とも言える。
だからこそ、だが。
ルフ騎士団長は必ずパレット村へ来るだろう。
魔力が回復したところで、本番前の予行演習というわけだ。
「いつでも来ていいぞ。――俺の首を落とすつもりで、何でもやってくれ。そのほうが、練習になるからなー」
俺は背伸びしながら呟くように声を上げた。
冒険者ってのは誇り高い生き物だ。
アナグラムは俺のことを尊敬してくれてはいるだろうが、ここで気合が入らない男じゃない。
乙葉なんてそれこそ頭に血が上って大変なことに――。
「誰が――練習相手だ!!!!!」
と、想像通り、いや想像以上に乙葉が興奮していた。
まっすぐに駆けてきて、短剣を構えている。
「――防御魔法」
まずは初期魔法からだ。
目の前に盾のように設置する。物理障壁も担っているので、攻撃で破壊するか、避けるしかない。
だが当然、乙葉は短剣の先端を押し当てると、魔法を切り裂いた。
かかった時間は一秒にも満たない。
うん、やっぱこれ相当高値で売れるな。
「アルス、殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
ただその前に、俺は生きておかないと。
「――と、いつまでも私が思っているわけないだろう」
しかしそこで、乙葉は短剣をクナイのように投げてきた。
唯一の武器を投げ捨てるだと?
防御魔法は貫通してしまう上に、勢いも凄まじい。
俺は、地面に防御魔法を設置して高く飛びあがった。
「よお、アルスの兄貴ぃ!」
しかしそこで待っていたのはアナグラムだった。
俺と前に戦ったとき、俺はアナグラムを空に飛ばした。
そのことを覚えていたのだろう。
あの時の恨み、というわけか。
前なら防御魔法で防いだ。
でも、今はドナーさんの武器を持っている。
魔法では防げないだろう。
「と、思うだろ?」
しかし俺は防御魔法を展開した。
アナグラムが剣で斬りこみを入れると、ズブズブと魔法が切れていく。
しかし、その速度が緩やかに遅くなっていった。
「――ハッ、アルスの兄貴はバケモンすぎますよ」
「そうかな?」
俺はアナグラムの腹部を殴打する。
空中で体勢を崩したアナグラムが地面に落ち、俺はそのまま着地。
その隙を見て、乙葉がクナイを投げてきた。
「……化け物め」
しかしあらかじめ防御魔法で防ぐ。
それは、ただのクナイだもんな。
「すげー、今の見たか!? 防御魔法五重だぞ!? 初めて見たぜ!」
「やべえ、さすがS級冒険者だ。たぎるぜえ!」
アナグラムの仲間が嬉しそうに声を上げる。
透明で限りなく見えにくいはずだったが、あの一瞬でわかるとはさすがだな。
乙葉の攻撃で魔法を切り裂くにも多少の時間があるとわかった。
よって、隙を見せてあえてアナグラムに斬らせたのだ。
例えるなら魔法斬らせて骨を断つ! いや、そこまではしてないけど。
「ぐぬぬぬ……アルスぅ……!」
乙葉が地団太を踏みながら悔しそうにする。
だが俺は驚いていた。いい攻撃だったし、何より予想外の連携だった。
以前の彼女は感情に身を任せて攻撃を仕掛けてきていた。
だから単調だったが、今のは俺だって読み切れなかったのだ。
ただ、その場で対応できたに過ぎない。
案外早くに八咫烏を奪われるかもな。
……死にたくないけど。
パチパチパチ、と拍手が聞こえてくる。
それはリリだった。にっこり笑って、乙葉に「よく頑張りました」と言っている。
悪気はないだろうが、それ、怒らせるだけですよ。
「アルスさん! 怪我してませんか!?」
そこでエレナが走ってきた。
相変わらず心配屋さんだな。厄災の魔女ってつけたやつ、名づけのセンスを疑うぜ。
「大丈夫だよ。でも、ちょっとだけ驚いたかな」
「もうこんな無茶はやめてください……」
「はいはい」
「『はい』は一回でいいです」
「はい」
段々、お母さんみたいになってきてないか?
そしてそのとき、俺が遠くに設置していた結界魔法の上を、大勢が通ったとわかった。
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