第3話 大人ヤンキー
「なんだよ、お前」
男がこっちを向いて言う。
二階へ上がり、音が聞こえた部屋へ行った。
ドアを開けると男二人が倒れている。
一人は意識があるようで、もう一人は眠っているのだろうか。
「ここはどこだ」
意識がある方の男が聞いてきた。
「知りません。
僕たちも今気がついたばかりで。」
「僕たち?」
もう一人女の子が下にいるのを伝える。
男は見るからに不良のような見た目だったが、明らかに年上の大人だった。
第一印は「怖い」だった。
もう一人寝ている方は幼い見た目だった。
言わば童顔だ。女子にイケメンだとチヤホヤされそうな見た目をしている。
「こちらの方はお知り合いですか?」
「あ?こいつか?
知らねえよ。」
この人たちも面識がないらしい、もしくは覚えていないのか。
それを言うなら僕たちはもしかしたら全員面識あるのかもしれない。
ただ覚えていないだけなのか…
「とりあえず、下で話しませんか」
僕たちは一階へ降りた。
階段を降りるとももさんが物陰から覗いているのがわかる。
彼女に事情を説明して、三人でリビングに腰掛けた。
「俺は赤岩っていうんだ。
赤岩ひろし、よろしくな。」
赤岩さん…
見た目通り、強そうな名前だ。
あまりこういう人とは関わりたくない。
「赤岩さん。
私が白木ももでこちらがゆうま君です。」
「どうも」
赤岩さんがこちらを睨んでいる。
僕も反射的に睨み返してしまった。
「なんだよ、言いたいことあるのかよ」
「あ、いえ。」
僕は焦った。なんで睨み返したんだろう。
顔が怖いので直視できなくなった。
「赤岩さんは記憶あるんですか?
僕たち、何も思い出せなくて…」
「記憶?」
赤岩さんが不思議そうにこちらを見る。
「お前ら記憶喪失なのか?
二人揃って。」
赤岩さんは軽く笑った。
もしも偶然二人とも記憶を失ったのなら、確かに出来過ぎている。
「赤岩さんは記憶があるんですか!」
「ああ、昨日は仕事を終えて帰って寝た。
起きたらここにいたわけだ。」
なぜこの人は記憶があって僕らには無いのか。
もう一人の少年も記憶があるのだろうか。
ここから出るヒントを知ってるかもしれない。
「どうして僕たちここに閉じ込められているんでしょう。何か心当たりありませんか?」
赤岩さんがまた僕を睨む。
「俺が何かしたからここに閉じ込められてるって言いたいのかよ、ああ?」
もうダメだ。この人は怖すぎる。
ここでももさんが入ってきてくれた。
「そういう意味じゃないんです。
私たち何もわからなくて、
なんでもいいから情報が欲しいんです。
なんでもいいので思い出せませんか?」
やはり彼女は天使だ。
見ろ、あのヤンキーも彼女の前では凄むことさえ出来ない。
「まあ、そうだよな。」
赤岩さんが一歩下がった。
このヤンキーは謝ることもできないのか。
僕のことを怖がらせておいて悪いと思わないのか。
赤岩さんから話を聞くが、特に怪しいことは無かった。
この人はフリーターで、月13万円で一人暮らしをしているらしい。
いつものように仕事から帰り、いつものように布団に入って眠ったという。
「私たち、ただ監禁されてるわけじゃないみたいなんです。」
ももさんが言う。
「どうなってんだよ…」
赤岩さんがイラついてるのがわかる。
僕は赤岩さんが今にキレ出すんじゃないかと怯えていた。
しかし、ももさんの前である。
男らしく振る舞わなければいけない。
「僕たちで力を合わせま…」
気付いたら赤岩さんが椅子を窓に投げつけていた。
しかし窓はびくともしない。
「どうなってんだよ!
これで割れないガラスなんてあるのかよ!」
赤岩さんが怒り狂っている。
ガラスを割る経験は人一倍ありそうなこの人が言うのなら間違い無いだろう。
この窓ガラスは普通じゃない。
防弾の可能性もあるが、だとしても普通じゃない。
「ハア、ハア、」
赤岩さんの荒い息が聞こえる。
ももさんが黙ってリビングから立ち去った。
僕と赤岩さん二人だけになってしまった。
気まずい空気が漂う。
先に口を開いたのは赤岩さんだった。
「情けねえよな。
お前らみたいなガキが冷静なのに、俺が取り乱してちゃ…」
この人は落ち着けば自分を客観的に見れる。
そう思えるだけまだ良かった。
「別に冷静じゃないですよ。
ただ、どうすればいいかわからなすぎて…」
「俺じゃなくって、もっと頼れる大人が一緒だったらな」
その通り。
とは流石に言えなかった。
でも僕とももさんじゃ何もわからない。
大人がいるとわかって安心した反面、この人で大丈夫かと不安を抱いたのは事実。
しかし、いつ出れるかわからない。
敵対視されないよう細心の注意を払わなければ。
「僕、ももさんとこ行ってきます。」
ももさんは僕たちが起きた部屋にいた。
座りこんで、その背中からは悲壮感が漂っている。
彼女も僕と同じ気持ちなのだろうか?
「大丈夫?」
「あ、ゆうま君」
彼女が僕に気づいた。
「…」
何も気の利いたことは言ってあげられないが、せめて側にいてあげようと思った。
「あの赤岩さん…私、苦手かもしれない。」
無理もない。彼女は僕と歳も変わらない女の子なのだから。
あんな怖そうな男が暴れてるのを見てしまったら怖気づいてしまう。
でもももさん、僕がいるよ。
僕はももさんを男らしく励まさなくてはいけない。
これは下心とかそういうものじゃない。
彼女のためなんだ。
僕がしっかりしなくてはいけない。
「ももさん…」
僕はももさんの瞳を力強く見つめた。
そう、君は一人じゃないんだ。
この絶望的な状況で僕がももさんの光にならなければいけない。
だから僕は一番のキメ顔でこう言った。
「僕も怖いよ」




