閑話1
それは、千早が玲華の部屋を訪れ、贈り物を届ける前日のことだった。
(うーん……)
千早は、見慣れぬ楽器を手に、首を捻る。
これは、千早の主人が「玲華へ」と預けた品だった。正妃としての無聊を囲う彼女が、少しでも暇を持て余さないようにと選んだ品物らしい。
(気の利いた選択だとは思うけれど)
本人から直接渡せば良いのに、というのが正直な感想だ。
色々と忙しいのは分かるが、その程度の時間は取れるだろうに、と思うのである。
もちろん、玲華は落ち着いた性格で、自分との相性が良く、個人的には大変好ましく思っている相手なので、千早から渡すのはやぶさかではない。が、本人から渡せば、きっと彼女も喜ぶだろうと思ったのである。
(忙しいのは分かるけど)
千早の主にとって、彼女は大切な人だ。
しかし、千早の主は決してそれを悟られないよう苦慮しており、その甲斐あってか、玲華が彼の気持ちに気付く様子は、今のところ全くないように見て取れる。
が、彼の人が彼女にとても心を配っているのは、紛れもない事実だった。
(本当に、身分の高い殿方はどいつもこいつも、面倒だこと)
自分なら、ああいった人種の男たちと付き合いたいとは思わないが、玲華はそれを選べるような立場にはない。
身分の高い女性の生きる道も、また受難の多いものだと、女主人の身の上を思い、そっと溜め息を漏らす千早だった。