15
玲華が、この屋敷の中で自由に行動できる区域は限られている。
降嫁したとはいえ「皇女」という身分を持つ正妃に対する警備上の理由もあるのだろうが、同時に内部を探られることを警戒されていると考えて間違いないだろう。
(まだまだ私は余所者、ということね……)
少し寂しく感じるが、それが紛れもない現実なのだろう。
しかし生活区域については、決して玲華に不自由がないよう十分に設定されており、不足はない。ただし、華やかな場所はどこにいても好奇の目に晒されるため、心休まる場所が少ないのが難点だ。
そのため、
(もう少し、静かな場所はないのかしら)
というのが、目下の玲華の悩みであった。
しかしながら、正妃という立場にある以上、人目につくのは仕方のないことであり、自室以外の場所で静かに過ごすという望みについては、半ば諦めていた。
そんな中。
玲華は「ある場所」を見つけ出したのである。
それは玲華に許された行動区域の中でも、特に端の方にあった。
その奥は行き止まりと説明を受けていたため、足を踏み入れる機会がなかったのだが、気分転換に歩いている際に、不意に見つけた場所だった。
(ここは……)
厳重な囲いはあるものの、いわゆる「庭」であった。
天井には屋根がなく、空が広がっているためのびやかな開放感がある。玲華が入ることを許された美しく整えられた正規の庭ほどではないが、十分な広さもあった。
ただし、草は生え放題で「庭」というよりは「荒れ地」と表現した方がしっくりくる有様だが。
そこは現在、人の出入りの少ない場所であり、また長く人の手も入っていないのだろう。
ただ、かつては整えられていたのではないかと思われる面影が残っている。たとえば中央にしつらえられた東屋は品の良い意匠で、少し修繕すれば十分に使えるだろう。白い円形の卓と椅子も設置されており、ゆっくりとお茶でもできそうだ。
そんなことを考えながら、玲華がそこに足を踏み入れると、
「お妃様が、このような場所へ何の御用で」
としわがれた声に呼び止められ、びくりと足を止めた。声のした方に目を向けると、大きな庭石に腰を掛けた男が、不審げな眼差しでこちらを窺っていた。白い髭をたくわえた初老の男性である。
彼は、億劫げに腰を上げて立ち上がる。背中が少し曲がっているように見えた。
そのまま、ゆっくりとした足取りで玲華に近付くと、辺りを見回しながら、こう言った。
「見てのとおり、荒れ果てた庭じゃ。お妃様のような高貴な女性には縁のない場所じゃろうて」
やや皮肉げな口調は、いわゆる「高貴」な人々への反発心が見え隠れする。
……残念ながら、その皮肉が通じるほど、玲華は「高貴」であることに慣れていないのだが。
「貴方は?」
玲華がそう尋ねると、彼は少しばかり鼻白んだ様子で、
「しがない元庭師じゃ」
と答えた。
つまり、彼はかつて、この庭の庭師だったが、何らかの理由でその任を解かれたということか。
そして彼の態度から、庭師としての任を解いた人間が、彼の言うところの「高貴な女性」であったことは想像に難くなかった。




