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女子高校生の日常

「樺さん!聞きました?」

高校の制服を着た女性が興奮した様子で樺に話しかける。

「どうかしましたか?佐藤さん」

少し微笑みながら落ち着いた様子で返事をした樺も同じ制服を着ている。

少し前に帰りのHRが終わったの教室には少し傾いた日の光が入っていた。

「何でも校門のそばに一台ベンツが止まっているようなのですけれど」

佐藤は窓の外、校門の方を見ながら答える。

「この学校においてベンツなんて別に珍しく無いでしょう?あなたも見慣れているはずですけれど」

樺は不思議な様子で答える。

「そこじゃないんです!そのベンツのそばにとんでもないイケメンが立っているようなのです!」

興奮冷め止まぬ様子で佐藤は捲し立てる。

「はぁ、そうですか」

学校には様々な人がいる。

その分様々な情報が流れている。

興味も湧かないようなくだらない話から政治家の親を持つ生徒の噂話など様々である。

樺はそのほとんどを聴くためにこの学校での立場を作ってきた。

煌めくような金髪に吸い込まれるような蒼い目と白い肌、樺は自他共に認める美女である。

その外見を利用し、何枚も外面を被ることで一年次が始まって直ぐには、学校一の美女という地位を確立していた。

その地位を確立するにおいて、それなりに確執はあったが、少なくとも普通では無い樺には大した障壁でもなかった。

その時の影響もあってか一部の生徒、主にニ、三年の一部の女子からは敵意が込められた視線を送られることも多い。

ただ、それもほとんど無くなってきている。

先月行われた最初の中間試験で失点なし、文句なしの学年首位を取り、それだけではなく、体力テストでは男子生徒に匹敵するレベルの運動能力を見せた。

後者は昔から行なっている鍛錬の成果であるが、前者は樺の才能である。

この二つの出来事により樺の評価は学校一の美女から眉目秀麗、文武両道の才女となり、敵視していた生徒もその行為自体が馬鹿馬鹿しいと思うようになっていった。

そんな彼女のそばで現在、理想の男性像について真剣な面持ちで語る佐藤は、良い意味で空気を読まない、樺がわりと信頼を寄せている人物である。

「あ!樺さん、あれですよあれ!」

佐藤が窓の外を指差す。

下校時刻からしばらく経ったからだろうか、ほとんど生徒が見られない校門に、黒いスーツを着た男性が校舎側を見ていた。

その男性は遠目から見てもわかる綺麗な金髪をしており、時折携帯を確認しながら昇降口の方を見ている様子だった。

「誰かを待っているのでは無いですか?」

樺のがそう言うと、佐藤はいまだ興奮冷めやまぬ声で言う。

「まぁ!やはりそう思いますか!彼の方の格好から察するに運転手ではなさそうですし、年齢も二十代前半ほどのようですし他校の生徒ということはないとすると誰かのお兄様とかかしら!あぁ!お近づきになりたいわ!そうは思いません?樺さん」

「えぇそうね、そう思うわー」

半ば気だるそうに樺は答える。

その時、机の上に置かれていた携帯端末が振動する。

画面を見ると一件の通知が来ていた。

通知には送り人の名前と短い文が表示されていた。

樺はそれを見ると苛立った様に一瞬顔を歪めたが、誰にも見られない様、直ぐに微笑む。

「佐藤さん、私迎えが来た様ですのでここで失礼しますね」

そう言うと携帯を鞄にしまい席を立つ。

「あら?そうですの?では私も部活の方に向かうとしましょうかね。ではなくまた明日!」

笑顔で言う佐藤に対し樺も笑顔で返す。

「ええ、また明日。部活、頑張ってくださいね」

樺は足早に教室を後にする。

佐藤はそれを見届けると自分の席に戻り荷物を持つ。

最後に正門の方を見るが先ほどの男はもういなかった。

「あら?車もない様ですし、待ち人が来たのかしら?あぁ!決定的な瞬間を見逃してしまいましたわ〜!」


樺は階段を降りると昇降口に向かう。

上履きを脱ぎ、靴を手に取るが履き替えずそのまま裏口へと繋がる階段下の勝手口へ向かう。

勝手口を開け外に出る。

部室棟と旧校舎を越え、裏口が見えてくる。

正門とは違い教職員の車が多く停められている裏口付近に、この場には似合わない一台の黒いベンツが停められていた。

先程まで正門付近に停められていたその車の運転席にいる男はこちらに気がついたのだろう、車内から手を振ってきている。

手を振り返すことはなく、詰め寄るように車まで歩き助手席の扉を開ける。

「来るなら事前に連絡を入れていただけますか?先生」

樺に先生と呼ばれた男性はニコニコと笑いながら答える。

「ごめんね〜、何しろこっちも急だったからさ。許してよ、後この姿の時はユウヤか、お兄ちゃん♡以外は認めないぞ」

身振り手振りを織り交ぜながら陽気に話す男を冷ややかな目で見つめながら樺は車内へ乗り込む。

「黙れ、石邏時羅師」

かなり小さな声で呟いたが、その男性、羅師にはしっかりと届いていたらしい。

「はいそれ禁句〜、先生よりもマジでダメなやつだから次行ったら次回の訓練量三倍ね」

怒り半分冗談半分な声で言う。

樺はそれを半分聞き流しながらシートベルトを締める。

「それで、急に来たんですから何か用事があるんでしょう?」

樺が質問をする。

その質問に対して羅師は少し困ったように返す。

「いやーそうなんだけどね、用事あるのは僕じゃないんだよね。ジジイがさ大事な話があるから今日中に店に来いって、詳細は何も聞かされてないんだよ」

「…ふーん」

窓の外を流れていく雲やビルを眺めながら樺は気を緩める。

そんな樺の様子を察してか、羅師はそこから話すことはなく運転を続けていた。

しばらく車を走らせるとあるマンションの地下駐車場に車が停まった。

「それじゃ一旦着替えてからタクシーで向かおうか」

羅師はそう言うとシートベルトを外し車外へ出る。

「ふぁ」

樺は小さくあくびをすると荷物を手に取り、羅師を追いかけるように車外へ出る。

樺を待っていたのだろう羅師の隣まで歩く。

羅師と一緒にエレベーターのある方に向かう。

「そういえば昨日は初仕事だった訳だけど、どうだった?とは言っても、もう拘束済みだったし。トドメ刺すだけの簡単なお仕事だったけどね」

羅師が昨日の事について樺に聞く。

「そうですね、別になんとも思いませんでしたよ?本当に簡単な仕事でしたし、訓練の成果は別に見せられませんでしたね」

淡々と樺は答える。

その様子を見て羅師はさらに問う。

「初めて人を殺した感想は?」

パッと樺は羅師の顔を見る。

樺の身長では羅師を見上げる形になる。

樺を見降ろす羅師の目は普段のおちゃらけた、何処かふざけた目ではなく、真剣な眼差しで見ている。

樺は考える。

考えている間にエレベーターホールに着く。

他には誰もおらず、羅師がエレベーターのボタンを押す。

ポーンと音が鳴りエレベーターが開く。

中に人はおらず二人は乗り込む。

扉が閉まり最上階へ上がり出したタイミングで樺は口を開く。

「別に何も」

その声は恐ろしく冷めていた。

だが羅師が気にした様子はない。

「そう、ならいい」

エレベーターは途中で止まる事なく目的地まで二人を運ぶ。

最上階には一部屋しかなく、表札には白戸と書かれている。

羅師が扉の横にある電子ロックにキーをかざし、扉そのものについている物理ロックも開ける。

「準備は5分でできる?」

羅師が樺に聞く。

「せめて15分」

樺はそう言うと自分の部屋に入る。

「手、洗いなよー」


蛇口から流れる水が排水溝に流れていく様を見つめる。

「はぁー」

深くため息をつく。

ふと鏡を見ると顎に水滴が垂れた優しげな顔をした自分が写っていた。

偽物であれど綺麗な金髪、青緑の目。

日常を生きるためとはいえ、いつ見てもおかしいものだ、と笑いが漏れる。

男は鏡に向かって自問自答を行う。

「俺は石邏時羅師、俺は石邏時羅師、俺は…」

羅師は何度も鏡に問い続ける。

何度も何度も、飽きる事なく続ける。

2分ほどそれが続く。

急に電源が切れたようにまだ水が流れ続けている排水溝を見る。

そしてまた、急に電源がついたように顔を跳ね上げる。

鏡にはニコニコと笑う男が映る。

「僕の名前は白戸ユウヤ。樺の、保護者」

羅師もといユウヤは気合いを入れるように頬を両手で叩く。

「よし!」

「よし!じゃないですよ何してんですか」

いつの間にか洗面所の扉が開いており樺がそこにいた。

「いつからいたの!?」

羅師は本気で驚いたように聞く。

「僕の名前はから、なんで急に自己紹介なんてしているんですか。きもいですよ」

君の悪いものでも見たような目で樺は羅師を見る。

「きもいなんて、そんな酷いこと言う子に育てた覚えはありません!」

はぁーと、呆れたように樺がさらに答える。

「そうな風に育てたんですよあなたが」

もう一度樺は深々とため息をつく。

「そんなことはどうでもいいんです。もう準備できましたよ。さっさと行きましょう」

見ると樺は目立つ学生服から地味な黒パーカーとジーンズになっていた。

服装が地味な分その端正な顔がより目立っている。

「それじゃ行こうか」

その答えに樺はコクリと頷くと、フードを深く被り顔を隠した。

その様子を見て羅師は小さく笑う。

「それじゃせっかくの顔が見えなくなっちゃうじゃん」

樺はフードの奥から諦めたような声で言う。

「私の顔って目立つので」

そう言うとさっさと玄関へ向かう。

あまりにも自分の顔に自信のある答えに苦笑しながら樺を追う。

エレベーターホールにはすでにエレベーターが来ており樺はもう乗っていた。

エレベーター内では樺が閉じるボタンを連打しており、それに気がついた羅師は小走りでエレベーターに乗り込む。

舌打ちが聞こえた気がするが聞かなかった事にする。

一階に着き、エントランスを出ると呼んでおいたタクシーが丁度着いたところであった。

タクシーに近づく。

「白戸で予約したものです」

そう言うと後部座席の扉が開く。

「レディーファースト」

後ろにいた樺を先に入らせ、羅師は後に入る。

運転手に行き先を伝えるために住所の書かれた紙を渡す。

「この住所の喫茶英領の前までお願いします」


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