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始まり、元凶、何も無い日常

「…は、…わっ…か?」

近くで聞こえてくる声で男が一人目を覚ます。

どうやら座っていたまま寝ていたらしく、どうして座ったまま寝ているのかそのあたりの記憶がない。

寝ぼけ眼を擦ろうと右手を動かすが、何かに引っ掛かっているようで動かない。

なら左をと力を入れるが同じく引っ掛かる。

変に体が攣ったのかと、とりあえず伸びをするために立ち上がる。

が、椅子に縛り付けられたように立つことができない。

一瞬シートベルトでも締めているのかと思ったが、車のシートにしては座り心地が硬い。

ここまで考えて男は異変に気づく。

寝ぼけていた頭は急激に冴え、周りの状態と、自身の置かれている状況を理解する。

男は拘束されていた。

両手両足は椅子に縛り付けられており、椅子そのものに重りがついており動かすこともできない。

「あれ、起きた?もしもーし」

男は顔を上げる。

そんな男を、全身真っ黒で顔面を紙袋で覆った不審者が覗き込むように見ていた。

座っているのもあるのだろうがこの不審者はかなり大きい。

男はこの異常な状況に恐怖を覚え、叫び声をあげそうになるが喉の奥に押しやり、深呼吸をし落ち着く。

「おはようございます」

男は不審者に対して言う。

「意外と冷静ですね、おはようございます。オサムラさん」

男、オサムラは自分の名前をよばれたことに驚くと同時に、計画的犯行であったことを悟る。

「私のことを知っているようですが、何か用事があるならアポを取ってからにしていただいてもよろしいでしょうか。最近忙しいもので」

「ええ、ええ。存じておりますとも。ですからこのような形で、少々強引ですがお時間頂きました。単刀直入に聞きますが、ササハラ製薬との共同開発の件。何を作っているのかお聞きしても?」

その言葉にオサムラは目線をほんの少し動かす程度ではあったが動揺を見せる。

「ササハラ製薬?さんですか、申し訳ありませんが存じ上げない会社名ですね。その製薬会社さんとウチが共同開発ですか?確かにウチは研究所ではありますが、鉱物や地層などの研究を行っている所です。直に製薬会社さんとの関わりは一切ないですよ」

オサムラは落ち着いた様子で口元には少し笑みを浮かべながら不審者に言う。

「うん。まぁね、普通ならそう言うよね。いや、僕もわかってますよ。でも、ほら。形式的にって言うか。上から聞き出せる情報は聞くようにって言われてるからさ」

先ほどまでの丁寧な様子とは打って変わり、砕けた様子で話し出す。

オサムラは周りの様子を見る。

地面に置かれたライトが唯一の光源であるが、部屋の全体を照らすことができている。

椅子のすぐ後ろは壁であり、壁紙のないコンクリートが剥き出しにされている。

広さはだいたい6畳ほどであろうか、天井には様々な管が剥き出しになっており、工事中の何らかの建物だと想像できる。

オサムラと不審者以外はおらず出口の扉は不審者の後ろにある。

その扉が開かれる。

扉から現れたのはもう一人の不審者であった。

黒ずくめなのは同じだが、元々いた不審者よりも身長はかなり低く、顔には何もつけていないため顔が見える。

女性だ。

こちらを見る目はフードで見えないが目から下の骨格が女性のそれであった。

「先生、こっちはもう終わりましたが」

女性の声はこんな状況でも落ち着くような、言ってしまえば場違いな優等生めいた声であった。

「こっちも今終わらせる所、見てく?」

先生と呼ばれた不審者は懐から黒い物体を取り出すとこちらを見る。

「ではこちらで」

女性は扉に少し寄りかかり、こちらを見る。

不審者はその黒い物体をオサムラの頭へ突きつける。

その黒い物質は拳銃であった。

それを認識した途端、オサムラの体が熱くなる。

対照的に額に突きつけられた拳銃により頭は冷やされる。

「何の、悪い冗談なのかなこれは」

不審者は心底不思議な様子で首を傾げる。

「冗談?冗談ってのはそうだね…打たれたくなかったら両手を上げろ!なんて、縛られてるやないかーい!てな感じのことでしょ」

「先生、面白くないです」

その言葉に不審者は突きつけていた拳銃をおろしため息をつく。

「あーもういいや、やりまーす」

もう一度拳銃をオサムラに突きつける。

「ちょっと待て、私を殺す理由が君たちに」

とオサムラは早口で捲し立てるが被せるように不審者が言う。

「強い奴ってどんな奴だと思う?」

その言葉にオサムラは困惑する。

オサムラが扉の女性を見ると笑っているようだった。

不審者を見るとオサムラの返事を待っているようだった。

「強い奴か、私の考えになるが強さには様々あって」

乾いた音が狭い部屋に響く。

オサムラの頭が力無く傾き、そしてそれは動かなくなる。

辺りには火薬の匂いが溢れるが、それは直ぐに血肉の生臭さでかき消される。

不審者は拳銃を懐にしまい、落ちた薬莢を拾い上げ眺めながらオサムラだった物を一瞥し言う。

「答えはシンプルに、ですよ」

薬莢を扉にもたれかかっていた女性に手渡す。

「行こっか」

女性は頷くと扉から離れる。

不審者は扉をくぐり部屋を出る。

先ほどの部屋とは違い壁がなかった。

柱がいくつも立っているだけで、夕日が入り込んでいることもあり、かなり明るい。

建設中、ではなく解体中の大型とまではいかないがそこそこに高いビルの中である。

「んー、開放感!」

不審者は大きく伸びをする。

遅れて出てきた女性がその様子を見て言う。

「その紙袋外してから言ってもらってもいいですか。羅師さん」

ラシ、と呼ばれたその不審者は思い出したかのように紙袋を外す。

固まった髪をほぐすように頭を振り、黒い髪を雑に手でほぐす。

紙袋のせいで見えなかったその黒目を女性に向け、もう一度大きく伸びをする。

「んー、開放感!」

その様子を見た女性はため息を漏らす。

「樺ちゃんもそのフード外したら?」

ハナと呼ばれた女性はフードに手をかけるがはずす様子は無い。

「いいです。早く報告して迎え寄越してもらいましょう」

「そうしようか」

羅師は携帯を取り出すと操作を始める。

クソジジイ、と表示された連絡先に電話をかけるとワンコールで相手が出る。

「終わったか」

電話口から初老の男性が手短に要件を告げてくる。

その男性の様子に羅師はため息をしながら答える。

「終わりでーす。さっさと迎え寄越してくださーい。それと、終わったかだけじゃなくてもっと…切れてら」

まぁいいやと携帯をしまい羅師は樺の方を見る。

「今日の晩御飯何にする?」

そう言うと羅師は足早に階段の方へ向かう。

樺もそれの後を追う。

「牛肉の気分」




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