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13 日々の生活

 特定の使用人と親しくしてはいけないという割りに、この頃何時もキラの世話をするのはスージーだ。朝から晩までスージーの目が光っている。立ち居振る舞いが雑だと直ぐにチェックが入るようになって仕舞った。

どうやら、公爵夫人に言いつけられているようだ。

「キラ様、バタバタしていますよ。もう少し余裕を持ってゆっくり素早く歩いてください。」

ゆっくりして素早くとは、どういう風にすれば良いのか。兎に角一々指摘されて、何時もピリピリするようになって仕舞った。

「背筋をピンと伸ばして、力が入りすぎです。もっと優雅に。」

ほとほと疲れてしまった。そんな時は礼拝堂に逃げ込む。ここには何故か誰も入ってこないのだ。

その割りには何時も掃除が行き届いていた。誰かが掃除をしているのだろうが、今まで、出会ったことは無かった。朝一番にしかここに来ていないせいもあるだろうが。

 祭壇に向かい手を合わせて、じっと前を向き祈るとも無く無心になっている。

キラはこの無心になっている時間が一番心が落ち着くのだ。

心が静かになってスッキリして立ち上がったとき、師匠が後ろでキラのことを見ていた。

「君は何時もここへ来ていたのか?こんなに朝早くに?」

「はい、僕はここが一番好きです。心が洗われて静かになります。」

「・・そうか。では、もう何も言うまい。すでに出来ていることを強要しても返って良くないだろう。ただ、本当はここの掃除を任せたいと考えていたのだ。今までは私の仕事だった物でな。」

師匠がここの掃除を?賢者がする仕事とは思えないが、何かの意図があるのだろうか。

「掃除なら任せてください。賢者様なのに、掃除をするとは思いませんでした。」

「賢者だとて、神の僕である事には違いないのだ。この礼拝堂は300年も前の神殿にあった物だ。ここは元々神殿だったのだ。寂れていたので私が引き受けて今の姿に改修したのだ。私は実はこの国の跡取りであった。しかし在るとき以前の賢者が私の魔石を見て、賢者になる修行をさせたのだ。跡取りは無理になってな。弟に譲った。私が5歳の時だ。

賢者は、生れたときに持っている魔石が無ければ資格がないと言われておる。君は不満だろうが、肝に銘じて自分の使命を果さなければならない。君には神から与えられた使命がある。それは次の賢者を育てることかも知れんし、国に鉄槌を下すことかもしれん。賢者にはその力がある。いつかはそれが何か分る日が来るだろう。苦しくても、理不尽だと思ってもやり抜いて貰いたい。」

そう言って賢者は礼拝堂から出て行った。

 その日からキラの日課に礼拝堂の掃除が加わった。

掃除と言っても雑巾で拭くようなことは無い。浄化の魔法を掛けるだけだ。魔法を掛けた後は、礼拝堂がキラキラと輝く。その様子を見るのが愉しかった。

浄化した後に跪き無心になる。

キラの精神状態が落ち着き始めた。何事も受け身になり、トゲトゲした部分が無くなった。


「もう、貴方に指導することが無くなりました。このまま精進して立派な紳士になってください。」

そう言って公爵夫人は屋敷を去って行った。

キラは12歳になって、かなり身長も伸び剣術の腕前もそれなりになっていた。

時間が出来たので錬金術をしても大丈夫になった。

「師匠、魔法鞄を作ってみました。これまでのよりも格段に容量が大きく出来ました。見ていただけますか?」

「うむ、これはよく出来ている。商会へ持って行くのか?」

「はい、このやり方を商会へ教えてきたいと考えております。簡単に今までの魔法鞄を変えることが出来ます。この魔方陣を加えるだけで良いのです。」

「ほほう、実に効率的だな。持っている魔法鞄を其の侭利用出来るとは。」

「魔方陣は魔法使いなら誰でも描ける物です。権利を持っておけば商会のもうけになると思うんです。これで少しは恩を返せたと思います。」


 商会長はとても喜んでくれた。

「いやあ、これほど早く結果を出してくれるとは。素晴らしい。早速キラ様にこれの制作をお願いしてもよろしいですか?」

「いえ、この作り方は差し上げますので、他の魔法使いに作らせてください。私の仕事はここまでにしていただけますか。」

「それでは、キラ様の儲けは無くなります。」

「いえ、要りません。これまで僕を助けてくれたお礼です。受取ってください。では、また何かありましたら連絡します。」

キラは商会を出て久し振りに街を散策した。

後ろから走って追いかけてくる者がいた。振り向くとセレスティンだった。

「キラ君、久し振りなのに挨拶も無しか?少しつれないだろ。」

「済みません、忙しいだろうと思っていました。」

「いや、キラ君が来たと聞いて急いできたんだ。ドルトンも心配していたぞ。賢者の修行は順調か?」

「はい、意外に思われるかも知れませんが、結構愉しいです。」

「・・そうか。辛くなったらいつでも帰ってこいよ。でも、なんだかキラ君、大人になったなあ。」

「そうですか?自分では分からないな。」

そんな会話の後で、少し時間が欲しいとセレスティンに言われて近くの食堂に入った。

「王族の中に魔石持ちがいると言う噂が出ている。賢者様から何か聞いていないか?」

「魔石持ち?生まれつきと言う事ですか。聞いたことはないです。」

「そうか。何でも賢者の弟子にさせたいと言っているらしい。王族から賢者が続くというのは喜ばしいことなんだと。」

「では、その内に賢者のところに来るかも知れませんね。」

そうなれば僕は自由になれるかも。若しかしたら術を解いて貰えるかも知れない。キラは途端に勢いづいた。

「キラ君はそれで良いのか?賢者の実子の扱いが変わってしまうかも知れないんだぞ。」

「僕は構いません。本当なら僕は商会の従業員になっていたはずだから。弟子で無くとも良いわけです。」

もう本は総て読んでしまった。ダンジョンだけが心残りだけれど、世界には似たような物が他にもあると師匠は言っていた。そこへ行けるかも知れない。



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