228ー大きな分岐点
「とうしゃま、ろうしにしょれを、ちゅたえないとれしゅ」
「ああ、そうだな」
部屋で待機していた騎士に父が目配せをすると、部屋を出て行った。そしてすぐに老師のいる尋問部屋に向かい、老師を呼び出した。
「どうした? なにか分かったのか?」
「老師、フェンが見たところ……」
父がフェンが見た結果を老師に伝える。二人とも苦い顔をしている。まさかこんなことになっているなんて、思いもしないだろう。いくらなんでもあの国が、ここまでしているなんて。
「フェン、それでも解呪で良いのかの?」
老師には見えていないのだろうけど、父の方を見てフェンに聞いた。
「まあ、解呪しか仕方ねーだろうな」
「殿下、フェンはなんて言ってるんじゃ?」
「解呪しか仕方ないだろうと」
「ならワシが解呪しよう。ワシの力くらいで少しずつ解呪していくのが丁度良いくらいじゃないかのぉ?」
「その通りだな。老師くらいが丁度良いと思うぞ。ラウは手を出すなよ」
「え、ふぇん。ろうして?」
「決まってるだろう? ラウの方が能力が高いからだ。やりすぎになってしまうぞ」
「しょうなの?」
俺がフェンと話していると、老師が焦れてきた。まるで駄々っ子みたいなことを言い出したんだ。
「だぁかぁらぁ! ワシにもフェンの話していることを分かるようにしてほしいのじゃッ! ワシだけ仲間外れではないかぁッ!」
仲間外れって、本当に子供じゃないのだから。
「ラウ坊が羨ましいのぉ」
「老師、私が通訳しますよ」
「いぃやぁじゃッ! ワシもフェンと話したいんじゃ!」
それまで知らん顔をしていたミミが急に話し出した。
「しょんなことより、はやくかいじゅしないと、やばいみゃ」
「ん? ミミちゃん、そうなのか?」
「しょうみゃ。ちゅよいしぇんのうに、しぇいしんがたえきれなくなっているみゃ」
「んん?」
だからミミは片言だから、長文は分かり辛い。父に通訳してもらわないと。って、父も何を言ってるんだ? て顔をしているから、分かっていないか。仕方ない、ここは俺が通訳してやろう。
「らから、ちゅよいしぇんのうに、しぇいしんがたえられないんらって」
「んんん?」
しまった、俺も片言だったぁッ!
「アハハハ! ラウとミミは何やってんだ!?」
フェン、笑い事じゃない。分かっているなら通訳してほしい。
「だからミミが言っているのは、強い洗脳に精神が耐えきれなくなっているから早くする方がいいと言っているんだ」
フェンが言ったことを、また父が老師に話す。これってちょっと面倒だよね。
「なんじゃと!? ワシの解呪でいいのだな? するぞ! やっちゃうぞ!」
「フェン、老師が解呪しても本当に良いのか?」
「おう、いいぞ。かる~くだ」
「老師、軽く解呪だそうです」
「よし! かる~くじゃな!」
バタバタと張り切って部屋を出て行った老師は、隣の尋問部屋へ取って返した。そして有無を言わせず男に手のひらを向けて解呪した。俺が見ていても本当に、かる~くだ。それでも男は苦しそうに、身もだえしている。
少し息が荒くなって、胸を手で押さえている。こんな状態になるのか? そんなの見たことがない。
前の時でさえ、いや。前の時は呪いなんてワードは出てこなかった。気付かなかったということか?
『ラウ、そうだ。今回は深紅の髪の女性に気付いたことで、呪いに気付けたんだ。前の時はその大きな分岐点に気付けなかった』
フェンが俺の考えを読んで、それに返事をしてくれた。
フェンが大きな分岐点だと言った深紅の髪の女性の事件に、前の時は気付けなかった。それで俺は思った。
以前精霊女王が、前の時は俺たちが死んでからこの国は崩壊したと話していた。他国に攻められたと。もしかしてそれって、あの国なんじゃないか?
デオレグーノ神王国が、少しずつこの国に呪いを扱える者を潜入させていたからそうなったんじゃないか? 内部から操ろうとしていたのではないか?
『ラウ、それだけじゃない。本当にこの国の要になっている人たちがいなくなったから、脆くなってしまったんだ』
俺の両親や、アコレーシアの父親だ。宰相の任に就き、この国の貴族たちを制していた。
これは一刻も早くあの国に行かないと。
「ラウ、何を考えている?」
「とうしゃま、あのくには、だめれしゅ」
「ああ、あの時深紅の髪の女性に気付けて良かった」
本当、それだよ。よく気付いたよ。あれから、父たちは呪いに注意を払った。不審な亡くなり方をした者がいたら調査していた。
俺が前の時とは違う動きをしているのも大きいだろう。
『ラウ、それが一番だ。今回も呪いに気付いたのはラウだろう?』
ああ、そっか。城にいる時に黒い靄を背負った人を見つけたんだ。それが呪いだった。
そこからまた父たちが注意するようになって、今回のことに繋がった。
俺って、前の時は一体何をしていたんだ? 今考えても仕方ないのだけど。
「みゃみゃ、まらみゃ」
「みみ、なぁに?」
「まらもうしゅこし、かいじゅしとかないと、だめみゃ」
「ミミはよく分かってるじゃないか」
「ふぇんは、うるしゃいみゃ。らってみみは、てんしゃいみゃ」
「アハハハ! そうだったな!」
こんな緊迫した場面なのに、ミミが話すと一気に空気が緩む。フェンなんて笑ってるし。これがまた天然なんだから、困ったものだ。いや、ある意味これも天才だよな。




