闇からの誘い
――Another Vision①――
エルフ達が構えた拠点の中央辺りに立つ、一際大きな天幕。その中でアラノストとセレグディア、それから数人のエルフの騎士達が、机の上に広げられた地図を囲っていた。
「調査の結果はどうなった?」
アラノストが集まった騎士の一人にそう質問を投げかけた。
「申し訳ありません。奴は――竜は森の奥深くにまで踏み込んでいるらしく、正確な巣の場所まではまだ確認できていません」
「そうか……」
その騎士の報告を聞くと、アラノストは小さく息を付いた。
エルフの森に竜が現れてから今まで、竜がどこに潜んでいるか調査させていた。いくら準備を整えようと、目的の竜の居場所が正確にどこに居るかが分からなければ無駄になるからだ。だが、それなりの時間調査を行ってみたけれど、結局その竜の巣を見つける事が出来ずにいた。
原因は幾つかある。一つは、竜の行動範囲が思いのほか広かったことだ。今までに竜と遭遇した場所からある程度の範囲を絞れてはいるが、それでもすぐにすべてを調査できる範囲ではなかった。
そして、第二に今述べられたように、竜が森の奥深くに踏み込んでしまっている事だ。エルフの森の奥は、エルフ達の故郷妖精界へと繋がっていると言われ、それ故に次元の境界線があいまいで、その場所での魔術探知は困難を極める。故に、すぐには見つけ出せていなかった。
「どうするんだ? 実行を遅らせるか?」
現状報告を聞くと、セレグディアがそう問い返し来る。
「いや、予定通り行う」
「竜の居場所は解っていないのだぞ? どうやって」
「正確な場所を割り出している時間はない。奴の領域に大部隊で踏み込めば、奴は自然とこちらへと出てくる。そこを狙う」
「なるほどな。だが、それだとどの方向から迫られるか分からないぞ」
「その時様に陣形を組みなおす」
「今からか?」
「竜の居場所が分からない以上、やるしかない。できるか?」
アラノストがセレグディアにそう問い返すと、セレグディアはそれに溜め息を返した。
「相変わらず無茶ぶりしてくれる。分かった、出来る限りはやってみよう」
「頼む」
こうして、エルフ達による竜討伐が開始へと動き出したのだった。
――Another Vision②――
夜。作戦実行を目前に控えた夜。エルフ達の拠点では、多くの者が明日の戦いに備え眠りについていた。
そんな静まり返った拠点の一つに天幕の中で眠るエリンディスは、ふと目が覚めた。
なんだか嫌に胸騒ぎを感じだ。
エリンディスは神子である。エルフの主神の力の一部を受け継いだ神の子。そのため、通常のエルフや神官が持つ力よりももっと強い力の多くを持っている。けれど、その中には予知やそれに近い能力などは持ち合わせてはいなかった。それなのに、何かに引かれるかのように、エリンディスは目を覚ました。
何かがある。胸元で疼く嫌な感じが、天幕の外を指し示す。
危険は避けるべきだろう。けど、この危険を避けた先にはなんだかもっと嫌な感じが待っている気がした。だからだろう、エリンディスは意を決し立ち上がると、天幕の外へと出た。
「こんばんは」
チリーン。
外へと出ると鈴の音と共に、一つの声が届いた。まるで、エリンディスが外へ出るのを待っていたかの様に、その気配は天幕のすぐ前に立っていた。
人間の言葉だ。エルフのものではない。つまり、エルフではない誰かだ。
「私を呼んだのはあなたですか?」
問いかける。
胸元で疼いた嫌な予感。それは、目の前に立つ誰かを気配を指していた。
「はい。私はあなたをここへと呼びしました。来ていただき、ありがとうございます」
「なぜ、私を呼んだのですか?」
「それは、あなたに合っていただきたい方がいるからですよ」
「会っていただきたい方? それは……誰ですか?」
問い返すと気配が動いた。すっと手を伸ばしてきた。そう感じ取れた。
「あなたを求め、遠い地よりこの地へとやってきた、とある御方です。さぁ、こちらへ――」
そして、そこでエリンディスの意識は途切れた――――。
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