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白衣の暗殺者

   ――Another Vision――


「ヴェルナ・レイニカイネン様。探しておりました。お会いできて光栄であります」


 真っ白なローブに身を包んだ男がヴェルナの前に立つと、そう告げると共に一礼をくれた。


「お主等、何者じゃ?」


 強く睨み返すと共に問い返す。けれど、その問に明確な答えなど返してくれる訳もなく


「我々はあるべきものを、あるべき者たちの元へと取り返すために動いている者です」


 そう曖昧な返事が返ってきた。


「あるべきものを、あるべき者たちの元へ……それは、この地をメルカナスの民たちへと返すと言いたいのか?」


「さすが、賢者様。察しが良い。その通りです」


 問い返すと、ローブの男は二カっと口元を笑わせ、大仰しく誉め返した。


「それに、協力せよと?」


「その通りです。この地を守るメルカナスの民達の英雄であり、かつての繁栄の象徴。あなた様が立ち上がってくだされば、この地はきっと彼らの手に戻るでしょう。いかがですか?」


 フードを被り目元を隠したままの不気味な笑みを浮かべ、男は尋ねてくる。


 それに、ヴェルナは――


「無理じゃな」


 一言、否定を返した。


「それは……なぜですか?」


「妾はこのアリアストを築いた賢者の末裔でもある。なら、妾には、今のこの国を守る義務がある。お主等の企てなどに、乗る訳がなかろう」


「意思の強い御方だ。ですが、本当にそれが賢者様のあるべき望みですか?」


「何が言いたい?」


「もし、初代賢者様が今の世に生きておられ、この地を目にしたらきっと御嘆きになるでしょう。あのお方は、愛国心に満ちた方でした。そのような御方が、今のこの地を見たらどう思われるか。

 かつての栄華はどこにもなく、まるで、他国の属国であるかの様な惨状。きっと、御嘆きになり、そして怒りを覚え、我等の様に立ち上がってくれるでしょう。それでもあなた様は、今のこの国を守る事が賢者のやるべき行いだというのでしょうか?」


 すっと手を伸ばし、強く感情を乗せ、男は語った。


 男の話には、確かに一理あるかもしれない。かつてのメルカナスで生き、その栄華を支え、謳歌した人間が、今このアリアストを見れば、確かに怒りを覚え、嘆くかもしれない。


 かつてのヴェルナなら、強く悩まされた言葉かもしれない。けれど、今のヴェルナにとっては、それはただの妄言にしか過ぎなかった。


「確かにそうかもしれぬな。お主等の言う通り、初代賢者がそのような人物であるのなら、妾にはその意思を継ぐ必要があるのかもしれぬ」


「では――」


「じゃが、残念じゃ、奴はお主等の言うような愛国心や正義感にあふれた人間ではない。で、あるなら、妾は二代目賢者の意思を継ぎ、お主等は排除せねばならぬ」


 バッと敵意を見せつけるかのように、長杖を構える。


「それよりお主等、妾の前で、賢者の名を騙り、勝手に意思の代弁をした。それがどういう意味を持つのか、理解しておるな?」


 最大限の敵意を見せ、睨みつける。


 それに男は小さく息を付いた。


「残念です。あなたの死は、きっと多くのメルカナスの民が嘆く事になるでしょう。そのことは避けたかった……」


 ローブの男が両手を広げると、どこからか取り出したのか、それぞれの手にダガーが収まる。そして、それはほかのローブの者達も同様で、皆武器を構え始める。


 交渉決裂。合意が成されないのなら、始末する。それが、奴らの流儀なのだろう。


「5対2か……」


 数的不利な状況。それも相手はゴブリンなどの単純な相手ではない。殺しに特化した危険な相手だ。それを相手にこの数の差は非常に大きい。


「どうするんだ?」


 苛立ち交じりで、イーダが尋ねてくる。


「お主、手はあるか?」


「あるわけないだろ。乱戦は得意分野じゃない。そういうあんたは?」


「残念じゃが手詰まりじゃ」


「チッ。前みたいに魔術で吹き飛ばせないのかよ」


「あれは、あの手の手合いには効果が薄い。それはお主が一番よく知っておるじゃろうて」


「じゃあ、前みたいに自由を奪う技は?」


「あれは、出来て一人までじゃ、この状況ではほとんど意味はない」


 また舌打ちが返ってくる。相変わらず人を苛立たせる返事の仕方だ。


 圧倒的不利な状況。それを打開するために、高速で思考をめぐらす。はやり考えても安全な勝ち筋など見えてこない。


 魔術師であるヴェルナを警戒してか、暗殺者達はじりじりとゆっくり近づいてくる。


 悩んでいる時間は、あまりない。


 なら、仕方ない。


「博打を打つのは趣味ではないが……この状況なら仕方あるまい」


「何か手があるのか?」


「60秒。60秒ほど時間を稼いでくれ。そうすれば、活路が見いだせるやもしれぬ」


 カツンと長杖の先を床面に付け、構える。


「何を――」


「説明している暇などない。60秒、妾を守れ」


 ギロリとイーダを睨みつけ、返答を黙らせる。それにイーダは舌打ちを返した。


「何もなかったら、ただじゃ置かないからな」


「安心しろ。失敗したときは、二人そろってお陀仏じゃ」


「シャレにならね事言うんじゃねぇよ」


 強く返答を返しながらイーダがダガーを引き抜き構える。とりあえずは言う事を聞いてくれるようだ。


 問題はここから。突き立て長杖を垂直に立て、精神を集中させ、辺りへと感覚を伸ばす。そして、大気のマナを編み込み術式を形作り始める。不安定で、おぼろげな術式。本来ならもっと鍛錬を積み、確実にしてから扱うものだが、今はまだそこまでの完成度はないが仕方がない。失敗の可能性があるが、今はこれに頼るしかない。


 ヴェルナのその魔術への集中を見て暗殺者達が駆け出す。


「さて、しっかりと守ってくれよ」

お付き合いいただきありがとうございます。


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