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一刀のもとに

 一閃。薄い曲刀の刃が空気を引き裂き、バグベアの腕を切り飛ばした。


「あぶねぇ~間に合ったぁ~」


 一度、曲刀で空を振りぬくと、たじろぐバグベアを見据え、息を()いた。


 危ないところだった。


 バグベア。並みの人間が相手にするには少々骨の折れる相手だ。


 単体だけなら3~4人程度の集団で安全に対処できるが、今回は視界が悪く、ほかにゴブリン達も居る。冒険者として駆け出しのPTが相手にするには分が悪すぎる。


「お前……なんで……」


 背後で膝を付いていたイーダが問いかけてくる。


(早まった……かな?)


 俺への指示はPT後方に現れたゴブリン達の足止めだ。此処――PT前方のゴブリン達を相手にする指示は受けていない。


 PTでの連携に置いて、指示を無視した行動は、陣形を崩し大きな損害を生むことになる。だから、少し迷ったのだが……まあ、動いてしまったものはしょうがない。


「お、お前……なんで……」


 ヴィンスも戸惑った声を上げる。


「なんでって聞かれてもなぁ……後ろが片付いたからこっちに来たんだけど……やっぱり駄目だったか?」


「う、後ろ……?」


 ヴィンスが慌てて背後を確認する。


 PTの後方、そこにはすでに動かなくなったゴブリン達の躯がいくつか転がっていた。


「あれを……全部……か?」


「まあ、そうだけど……」


 たかだかゴブリン数体相手だ。さして時間はかからないと思うけど……。


「ウゴオオオオォォ!!」


「危ない!」


 バグベアが咆哮を上げ襲い掛かってきた。


 のんびりと話をしている暇なんて内容だ。指示を待って、なんて思ったけど、そんな余裕もないか。


 剣を構え、踏み込む。


 バグベアの身体は大きい。それ故に間合いも長い。普通に考えれば、俺が相手の間合いに入るより早く、向こうの間合いが届き、先制攻撃を仕掛けられる。だが――


「遅いな」


 間合いを見て、攻撃を仕掛けてくるバグベア。だが、その攻撃では遅すぎる。


 バグベアの攻撃が届く一瞬前に、バグベアとの距離が0となり、その瞬間に剣を走らせる。


 風を切る音。


 剣を振り払い、血を払い飛ばす。


 一刀両断。バグベアの固い外皮に骨格も、下層のゴーレムなどより遥かに柔らかい。まるで薄い紙を切り裂くように、刹那の内に両断する。


 一拍遅れ、ぐらりとバグベアの身体が揺れると、地面へと倒れこみ、二つに切り離された身体が転がる。


「これで終了……かな」


 剣を構えなおし、残ったゴブリン達へと目を向ける。


 さすがに力の差を理解したのか、ゴブリン達は後退り、闇の中へと消えるとそのまま逃げだしていった。




 静寂。


 一拍ほどの間、無音の時が流れる。


 周囲に異物の反応は感じられない。おそらく、敵はすべて退けたはずだ。


 大きく息を付き、剣を鞘へと納め振り返ると


「あれ?」


 戸惑い……だろうか? そんな、表情を向けられた。


「何か……まずい事したか?」


 指示を無視した行動がまずかったのだろうか? けど、それにしては怒りの色などは見えない。


 違うとすると、他にPT行動においてやってはいけないやらかしでもしてしまったのだろうか……慣れない事は難しい。


「いや、まずい事と言うか……とりあえず、助かったよ。あんなものが出てくるとは思わなかった。もう、安全かな」


 ようやく落ち着いてきたのか、ヴィンスが咳払いをして周りを見渡した。


「多分、大丈夫かな。気配は感じられない」


 再び辺りを見回してみる。うん、なにもいない。


「よ、よかった~……」


 安全であることを聞き気が抜けたのか、クレアがへなへなっと座り込む。


「あははは、恥ずかしいな。全然力はいんないや……」


「仕方ないよ。戦闘は初めてだったんだ。動けただけでも十分すごい」


 へたれこむクレアに、ヴィンスがねぎらいの言葉かける。


 冒険者……というか戦う者において、初陣こそが一番難しいといわれる。


 いくら訓練していても、戦闘での恐怖に打ち勝つことができなければ生き残れない。初陣は、容赦なくその篩にかけてくる。その恐怖に打ち勝ち、戦えただけでも称賛されるものだ。


「立てるかい?」


 ヴィンスがへたり込むクレアの元へ歩みよると、そう声をかけた。


「ちょっと、無理そうです。少しこのままでいいですか?」


「そうかい。分かったよ」


 軽く笑顔を浮かべクレアは、ヴィンスへの応対を返していた。あっちは大丈夫そうだ。


 俺は、イーダへと視線を移す。


「大丈夫か?」


 軽くイーダの姿を眺めながら訊ねる。


 一連の戦闘を見た限り、まともな直撃は受けていないようだったが、なにがあるかわからない。念のためだ。


 ギロリ。


 なんか……睨み返されたんだけど……。


「な、なに……?」


「別に」


 そっぽを向かれる。


「あんたには助けられた。礼は言う。それだけだ」


 そして、一人で立ち上がりると、イーダはぶっきら棒にそう返してきた。


「あ、うん、問題なさそうならよかったよ」


 ギロリ。また睨まれる。


 ほんと、なんなんだろう……俺何か悪い事したっけ? ……したな、今朝。あれまだ引きずってるのか?

お付き合いいただきありがとうございます。


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