死体の処理は?
「はふぅ~」
クレアが大きく息を吐く。
しばらくじっとしていて気持ちが落ち着いてきたのか、いつも通りの表情に戻った。
「いけるかい?」
「はい、ご迷惑かけました」
ヴィンスが手を差し出すと、クレアはそれを取りようやく立ち上がる。
「さて……どうしようか……」
クレアが立ち上がるのを見届けると、ヴィンスは一度ゴブリン達の死体へと目を向けると、その後、俺達の方へと目を向けた来た。
「えっと……これを……あれ、するんですか……?」
クレアもヴィンスと同様にゴブリン達の死体に目を向けると、ひどく困ったような表情を浮かべた。
死体処理。まあ、慣れないと戸惑うよな……。
一度、イーダへと目を向けてみる。
イーダもクレア同様に嫌そうな表情をしていた。
「まあ、やらないわけにはいかないし、さっさと終わらせちゃおうか……」
「そ、そうですね……」
覚悟を決めたのかヴィンスは、腰に差したナイフを引き抜くと、転がっているゴブリン達の死体の傍へと歩み寄った。
そしてそれから、手にしたナイフをその動かなくなったゴブリンの身体に突き立て、ゆっくりと引き裂いた。ぐ、グロイ――って、おい!
「な、なにやってるんだ……?」
唐突始まったグロシーンに、俺はつい口を挟んでしまった。
「何って、見ての通り捌いているんだよ」
「さ、捌く? なんで、そんな事を……?」
「え?」
「うん?」
数秒の沈黙。
あれ、またズレたこと言ったか?
「もしかして、君は魔石の事を知らないのか?」
「魔石? 魔晶石の事か?」
魔晶石。魔術を用いる際にエネルギーとして扱うマナ。それを圧縮・結晶化させた物が魔晶石だ。
この魔晶石は今の世の中に広く使われ魔導機械のエネルギー源として使われるもので、この鉱石は地下迷宮からしか入手できないため希少価値が高い。
冒険者の多くが地下迷宮へと潜るのは、この希少な鉱石を手に入れる為であり、これが冒険者にとっての大きな収入源となっている。
いるのだが……。
「それで、なんでゴブリンを捌くことになるんだ……」
「? やはり知らないのかい?」
「え? 知らないって?」
?? もしかして、俺の知らない大発見が、ここ100年の内にあったのか?!
「魔石は地下迷宮内のモンスターの体内に存在するんだよ。知らなかったのかい?」
「モンスターの体内……?」
うん? うんん?
「あ、ああ、あああ、そういう事ね」
一瞬、理解が追い付かなかったが、ようやく理解できた。そういう事か……。
「そういうことだよ。気が乗らないだろうが、手伝ってくれ」
そう告げるとヴィンス、再び作業を開始した。
「待ってくれ。理解はできた。だが、一つ勘違いがある」
「勘違い?」
「ああ。魔晶石が地下迷宮内のモンスターの体内に存在するっていうのは間違いない。間違いないが、それは地下迷宮固有のモンスターからであって、そこに住み着いただけのゴブリンなんかの体内には存在しない。だから、そのゴブリンを捌く意味はない」
「…………」
再びの沈黙。
「え、そうなの?」
「ああ。あと、魔晶石を体内に持つモンスターは召喚獣だから、倒したとき魔晶石だけを残して、消滅する。だから、それも捌く意味はない」
3人とも初耳だといった表情を返してきた。
こいつ等無知すぎだろ! まあ、冒険者以外には知らなれてない話だし、駆け出しが知らないのは無理もないか……。
「そうだったんですか……」
既に解体を始めていて、少し返り血を浴びていたクレアが、安心したような、納得できないような、何とも言えない表情でうなだれた。
「じゃあ、ゴブリン達戦ったことは無意味って事か?」
「無意味ってことはないが……自衛の為以外で戦う意味はほとんどないかな」
「チッ」
大きな舌打ちが返ってきた。まあ、そういう反応をしますよね……。
冒険者の収入源は、基本的に魔晶石しかない。それ以外のモンスターを討伐した所で、討伐報酬などは出ない。
危険を冒してまで戦った相手から、何も手に入らなかったのならイラ立つのも理解できた。
「けど、まあ、完全に何もないってこともないかな」
立ち上がり、ゴブリンの死体へと近付く。そして、動かないゴブリンの懐を探ると、目的の物を見つけた。
「ほれ」
「これは……」
見つけたそれを、傍にいたイーダに投げる。イーダは慌ててそれを受け取る。
赤い淡い光を放つ小さな鉱石。赤結晶と呼ばれる魔晶石だ。
「魔晶石?」
「ああ。どこから拾ってくるのかは知らないが、ゴブリン達が集めてたりするんだよ。だから、完全に何もないってことはないかな。ただ、必ず持っているわけじゃないし、数も少なく、サイズも小さい。大した額にはならないけどな」
「なるほど」
「余裕があるときは無視していいけど、駆け出しなら、集めておいた方がいいかも」
ため息が一つ周りから零れた。
死体解体なんてグロテスクなことをしなくてよかったが、それでも死体あさりなって事、あんまり望まないよね。
「あのユリさん、質問いいですか?」
「なに?」
「ゴブリン達の死体って……このまま放置しちゃっていいですか?」
「え? ああ、問題ないよ」
「そうなんですか?」
「地下迷宮にも腐肉喰らいって魔獣いるから、放置してればそいつらが食べて処理してくれる。ただ、この腐肉喰らいって魔獣は結構危険だから、死体のそばにいるのはあまりよくないかな」
「へぇ~」
「だから、やることやって、早くこの場から離れた方がいいと思う」
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