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COLON:SERIES - 異世界への扉と導かれし者達  作者: 暦史書管理機構
シグレの異端争議典
19/39

4-1:太陽が呼んでいる

「2七金打。つまり、能力でシードの心を読んだと」

『ああ、そういうことだ。混乱させると勝負に水を刺すと考えて伏せていたが、始めのうちに気がついていた。紙片を掠めとる機会を伺っているぞ。同金、ああ3八の方である』

「シードは仲間だ。ニコライのことを疑うわけではないが、何かしらの事情かあるのか、勘違いだ。同銀成」

『同金。疑うのも構わない。老婆心というのも節介がすぎるからな』

「ありがたく、聞いておくだけにしておく。まぁ、あいつのことだから大丈夫だろう。2八銀打」

『……参った。まぁ、ヨミヒトならそう言うと分かっていたがな』


 話も将棋も終わり、電話を切る。あのメモ以上の情報はなく、ほとんど遊びに付き合わされただけだった。

 ロスヴィータやノア辺りに相談しようかと思ったが、なんだかんだといって情に熱いやつばかりなので、一切気にかけないか、直接シードに話し掛けにいくかしそうである。

 どちらにせよ、こういう状況ではあまり相談出来ない奴らだ。


「どうしたものか」


 溜息を吐き出して、やることもないので久しぶりに大学に行くことに決める。赤木からの連絡も増えてきたことだし、そろそろ心配をかけすぎてしまっているから謝った方がいいか。

 なんだかんだといっても、彼女の元気な姿は癒される。怪我は完治していないけれど元気にはなっているので、姿をみせた方が安心するだろう。

 庇ったことを気に病んでいるだろうから、傷跡が見えないように厚着をした方がいいか。適当に傷が見えないように服を選び、身体の調子を確かめる。

 痛みはするが問題はない。最近は運動不足だったので、そろそろロスヴィータに頼んで稽古を付けてもらった方がいいかもしれない。

 ……いや、流石に練習でサブマシンガンを打たれ続けたら死ぬな。

 鞄を背負い、赤木に大学に行くとメールだけしてから外に出る。

 機嫌取りにコンビニで甘い物でも買おうと思った時に丁度行列が見えて、その先を辿れば有名な洋菓子店が出張販売をしているところだった。

 急いでいるわけでもないから、都合がいいかと思い行列に並ぶ。


「あれ、ヨミヒト?」


 女性客が多く気まずく思っていると、後ろから見知った声が聞こえて振り返る。


「……リリィか」

「あなた、スイーツとか食べるのね」

「いや、友人に買っていこうかと思ってな」


 少し後ろだが、間に人がいるので話を終えて、列が進むのを待つ。特に人気があるらしいプリンを二つ買い、無言で行くのもおかしいかと思い待っていると、リリィはしょげた様子でトボトボと歩いてきた。


「……売り切れたみたい」

「……ああ、なるほど」


 リリィにプリンを手渡すと、彼女は首を横に振る。


「いい、貴方が食べる分でしょ?」

「別に食べたかったわけでもないからな」

「……あの赤木って子のため?」


 少し棘のある言い方が気になったけれど、元々好かれていないのでこういうものだろう。

 その通りで否定する必要もないため頷けば、リリィは不満そうに表情を歪める。


「わざわざ並んでまでなんて、よほど大切なのね。まぁ、命懸けで守れるぐらいだものね」

「これぐらい大した手間でもないからな。心配をさせたこともあるからその詫びも含めてだ。どうせ俺はそんなに好きでもないからな」

「……いや、でも……」


 リリィの視線が俺と手元のプリンを行ったり来たりしてから、プリンを見ないようにしながら俺に渡そうとして、俺の後ろからヒョイと現れた人影がその手を押し返す。


「ヨミヨミ、お久しぶり。えと、それと……あの時の子?」


 振り返ると落ち着く笑顔を浮かべた赤木がいて、なんとなく普段という感覚が蘇ってくる。


「赤木、色々と立て込んでいて、来れなくて悪かったな」

「ううん、ヨミヨミが無事で何よりでございまするよ。……その、怪我は……大丈夫?」

「ああ、今からでもフルマラソン出来るぐらいには問題ないな」


 軽く腕を回しながら言うと、赤木は安心したように息を吐く。


「……よかったぁ」

「……ヨミヒト、寝る時に背中痛いって言ってたよね」

「えっ!? 治ってないの?」

「リリィ、余計なことは言うな。……大学に行くか」


 リリィにプリンを渡したまま、俺の体を心配そうに見る赤木から逃げるように歩き出すと、すぐに呼び止められる。


「あ、臨時休講だったよ。だからヨミヨミを迎えに来たんだけど……。本当に身体大丈夫なの? ちょっと見せて……」

「問題あったら病院から出れないだろ。二週間前には出れているぐらいだから問題ない」

「なら、よかった。ごめんね、僕のせいで。えっと……ヨミヨミがいなかった時の講義のノート取ってるから」

「助かる。菓子も買っているからゼミ室にでも行くか」


 二人で歩き出そうとすると、突然後ろから襟を掴まれて首が締まる。振り返ると、不機嫌そうなリリィがプリンを無理矢理俺に押し付ける。


「いらないから、二人で食べればっ!」

「何を怒っているんだ……」


 憤慨して帰ろうとするリリィに赤木が「あ、待って……」と声をかけて、恥ずかしそうに俯きながら引き止めた。


「その、リリィちゃんだよね? あの時のお礼もしたいから……一緒にこない? お茶もあるから」

「……お邪魔じゃないの? 恋人の間にいるなんて真っ平よ」

「ぼ、僕はヨミヨミの恋人じゃないよ」


 赤木は恥ずかしそうに首を振る。俺は二人のよそよそしい様子を見て溜息を吐き出す。


「仲悪いのか? 俺が寝ていた間に喧嘩でもしたのか?」


 二人は同時に否定して、その後で二人して俺をじと目で睨む。


「……ヨミヨミは、またこんな可愛い子を引っ掛けて」

「大学で二人きりになろうとしたり、本当に最低ね」


 どうして俺が責められる状況になっているのだろうか。

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