試合
「いや、普通に戦えば良いだろう」
「そうか、そろそろ時間だな。移動するぞ」
「そうだな、……そうだ、上杉先輩に頼み事があるんですが」
「俺に? いったい何を?」
不思議そうに俺の顔を眺めながら聞き返してきたので、俺はナタクだけに聞こえるようにそっと耳打ちした。
「実は他の選手たちについて調べておきたいことがありましてね。……について調べおいてもらえませんかね?」
「え? ……について? それぐらいは調べられると思うけど……多分全選手の分は無理だと思うよ?」
「それは構いません。出来る限りのことで良いのでお願いします。……俺で金儲けするんだからそれぐらいは協力してくれるよな?」
一瞬だけナタクに対して素の話し方をしてしまったが、概ね大丈夫だろう。誰にも聞こえないように話しているわけだし。
「え!? ……あ、ああ! そうだね! それぐらいのことはお安い御用さ! ははは」
ナタクは多少引きつった笑顔を見せながら俺の頼みを快く聞き入れてくれた。
「何々? 何を頼んだの?」
「大した事じゃない。ただ煽りとかそういう話のネタになりそうな事は少しでも耳に入れておいた方が相手のミスを誘発できるかもしれないだろう? そのための情報は最後の最後まで集め続けておいた方が最終的に有利に働く可能性がある」
「天蓋……お前ってそういう狡いところあるよな」
狡い? 真剣勝負の直前にそんな安い挑発に容易く乗る方が悪いんだ。むしろ相手の集中力を乱そうとせずに戦うことの方が不気味だろ。
「ま、まあ良いじゃない勝つためなんだから。見た目から考えると滅茶苦茶似合わないけど」
「そんなに似合わないか?」
「完全に相手と対等な条件で真っ向勝負するタイプでしょ。その見た目で作戦いっぱい考えながら戦うって結構ショックでかいわよ?」
その割にはいつも通りの軽い感じで話しているな。しかしまあ、こいつの俺に対する勘は見事に当たっている。確かに俺はデュエルの最中は特に大した戦略も考えずに戦うことが多い。
「ま、そこは人は見かけによらないって事で納得してくれ。それに対等な条件で戦うことは出来ないからな」
「なんでよ?」
「色々事情があるって事だ」
それだけ伝えると控え室から退出し、会場へと向かった。
「ふん、やっと本選が始まるな。待ちくたびれた」
「ああそうだな。昨日はよく眠れたか?」
「無論だ。今更聞くことか?」
「ああそうだな。……オリヴィエ……えーと」
「天蓋。話題が無いなら無理して話をする必要もないだろう」
それもそうだな。俺たちのやるべきことは次の対戦相手を倒すことだ。
「悪いな」
「気にするな。流石の貴様も緊張しているのか?」
「いや、お前が緊張していないか気になっただけだ」
「……今のその言葉、聞かなかったことにしてなおいてやる」
それもそうだな。こいつに対して今の発言は余計なお世話だったな。
「それは助かる。……入場の時間だな」
◆◆◆◆◆
「さあ皆様! 風霊祭も二日目となりました! ここからは予選を勝ち抜いた猛者達が互いにしのぎを削り合う激戦区となります!」
「今日は午前中に一試合、午後に三試合の合計四試合行い、ベスト4までを決める長丁場ですらね。選手としては最も過酷な条件での戦いとなります。いかにして体力や戦略を温存しながら戦うか? という非常に高度な試合運びが必要になります!」
そう、風霊祭の二日目は合計四連戦しなければ準決勝に進出出来ないという極めてハードスケジュールとなっている。
そんな二日目の過酷さを昨日俺達を実況してくれた人達が説明している。
「さて! 二日目の予定を説明し終えたところで、本日Aブロックにきてくださいましたスペシャルゲストの紹介と行きます! 私と同じロレット学園在籍の上杉ナタクさんです!」
「皆様おはようございます。先程紹介にあずかった上杉ナタクです。以後お見知り置きを」
「何と上杉君のご実家は大層な資産家で、この大会でも多額の寄付をなさっていたとのことです! そんな上杉君の連絡先を知りたい方は先着……」
「先輩、そういうのは結構ですので実況に移りましょう」
お前実況なんてするのかよ!? しかも俺が出場するAブロックで実況とはな。
「おーっと実況の上杉君、さっそく先輩の私からのボケをスルーした! これは私の心に大ダメージを与えてしまったか!? 今日の試合が終わる頃にはどれほど距離が縮んでいるか楽しみです!」
「わかったから早く合図を遅れ。ゲートが開かんではないか」
「それでは早速選手達の入場です!」
ゲートが開かれ俺達四人はフィールドへ向かって真っ直ぐ歩いた。
「アンティキティラの生徒はどちらも制服にメガネという何とも落ち着いたたたずまいで入場して来ました。やはりメガネをかけている為か理知的に見えますねー。流石は頭脳派コンビと言ったところでしょうか?」
「それだけを根拠に頭脳派コンビと表現するとは流石は予選で恥をかいた男と言ったところか」
「ははは、噂に違わぬ話しぶりですね。しかし、注目すべきはもう片方のコンビですよ」
ナタクが俺達の方へ注目が集まるように話題を変えてきた。
「確かに! 予選では大変個性的な衣装で戦った彼等ですが、今日の試合では……やはりひと味違う衣装で現れたー! というかあの武器はなんだ!? 天蓋選手、甲羅です! 亀さんの甲羅を背中に背負って登場だー!?」
「あれはティンベーとローチン。清の国とヤマトの国の間あたりにある小さな島国に存在する武術で用いる武器です」
「ですがあれではまるで天蓋選手が亀さんになってしまったかのようです!」
いや、それはいくら何でも言い過ぎだろ。
「というか、素顔見せるのに抵抗なさそうだな……予選では顔どころか肌すら見せない程の露出度の無さだったが」
「まあ、なかなかの男前なんじゃないすか? 勿論俺ほどではないけど」
「面白い冗談だ。……見たところ天蓋は手槍と盾を使用した武術を扱うようだな。ここまで多彩な武器を持ち出してきて後々まで隠し通せるのか?」
「それは問題無いでしょうね。控え室にはまだまだ他の武器がしまってあったので。それに取って置きの武器は温存しています。まあいきなり大鎌を持ち出してきたのは驚きましたが」
こいつ、結構こっちの情報を垂れ流してくるな……いずれバレることだから構わないが。
「取って置きの武器とはいったいなんです!?」
「それはお楽しみに取っておきましょう。勿論どちらが勝つかですが、後輩を信じることにしましょう」
何が信じるだよ、俺が優勝すること前提の賭博しやがって。




