お見舞い
「そういえばミーシャ達はどこにいるんだ?」
俺は控え室の奥にある荷物置き場に武器を置いてあたりを見回したが、女性陣はどこに行ってしまったのか? 一人も控え室にいなかった。
「実はお前たちの試合中にミーシャが倒れてな」
「倒れた? 人酔いでも起こしたか?」
「いや、熱中症だ」
熱中症? なんでこの季節に熱中症になんてなるんだ。確かに会場は熱狂していたからそれなりの熱気はあったとは思うが。いや、ミーシャは北国出身だったからこの気温に慣れてなかったのか?
「それでさくら達が付き添ったのか。今どこにいるんだ? 早く見舞いに行ったほうがいいだろう」
「それなら俺もちょうど向かうところだったので一緒に行きますか?」
「上杉先輩がですか?」
「うん、他にも何人かお見舞いに行く都合があるからね」
そういうことならせっかくなので一緒に医務室へ向かうことにした。
「ちょっと待って、天蓋君まさかその格好で行くつもり?」
「その格好って、……あ」
そうだな。見舞いに行くのに死神の格好は非常によろしくないな。
「とりあえず私達はさっさと着替えるぞ」
「そうだな」
オリヴィエの言うとおりに急いで制服に着替えた。
「これで良いな。オリヴィエ! そっちはどうだ?」
「私も終わった。杖の方も渡したからすぐにでも向かえるぞ」
オリヴィエのほうも着替えたようなのですぐに控え室から退出した。
「ミーシャの奴、集中治療室にいるのか!?」
驚きだった。熱中症と聞いていたがまさかそんなところにまで運ばれていたとは。
「そのようだね。何でも非常に危険な状態だったみたいだよ」
「なんでそんなになるまで」
「会場はすごい熱気だったからね。他にも何人か運ばれてきている人がいるみたいだよ」
急いでミーシャのいる病室まで歩いて行った。
病室にはベッドで横になっているミーシャとさくら達が椅子に座っていた。
「お兄様! 申し訳ありません私がついていながら」
「ミーシャの容態はどうなんだ?」
「さっき落ち着いたところです。まさか試合中にこんなことになるなんて」
「大事には至らなかったんだ。今はそれを喜ぼう」
とにかく無事でよかった。今はそれだけしか考えられん。
「一応ここは容態の落ち着いている人だけが運ばれるから試合も観戦できたわ。こんなところで言うのも不謹慎だからそれ以上は何もいえないけど」
「ああ、それで良い」
まあ、病室では静かにするのが大原則だからな。それにこっちだって優勝目的なんだから予選一回目で一々祝福されなくてもいい。
「……それはそうと、奥のベッドで休んでいる人なんだけど」
「奥? 他にも誰か知り合いがいるのか?」
「知り合いなのはむしろ天蓋君達だと思うわよ?」
要領を得ない応え方だったのでとりあえず奥のベッドを確認すると、なんとそこにはさっきまで戦っていたスタンレイの姿があった。
「お前は……! もう起き上がれるのか」
「はい、ここには優秀な医療スタッフが多くいてくれたお陰ですね」
「相方のゼノバはいないのか?」
「サイズの合うベッドが無かったので別の病室に運ばれています」
そうだったのか。まさかこんなところで再開するとはな。
「……そうか」
「どうしたんです? さっきまでの大口はどうなさったんですか? それとも他の女性の前では言えませんか?」
「いや、別に改めて言う必要も無いだけだ。こいつらは全員俺が優勝宣言したことを把握しているからな。まあそれは大概の奴は知っていることだが」
長い沈黙が始まった。長いと言っても実際にはほんの僅かな時間でしかなかったが、俺の体感時間、つまり主観的には相当な時間だった。
「……何故あの時攻撃して来なかったんですか?」
「あの時?」
「私があなたと距離を置いた瞬間です。あの時点で真贋は見極めたはず、その決定的チャンスをみすみす逃した理由ですよ」
……あの時か。確かにゼノバを倒した直後に後ろへ下がった瞬間を狙いすますことも出来たな。
「確かにあの瞬間、どれが本物かは見抜けたが、それよりも前にもう一つの事実もわかっていた」
「もう一つとはなんですか?」
「お前が近距離型の選手だということをだ」
「だから、ですか? そのために私を挑発したのですか? 近接戦闘に持ち込むために」
勿論他にも理由はいくつもあるが……どう説明すればいいのか。とりあえず言いたいことだけでも説明すればいいか。
「確かにチャンスだった。あれを見逃すなどあり得ないことだということも理解している。だが、それ以上にもっと高い次元の戦いが味わえるという確信もあった」
「……」
「言いたいことはわかる。真剣勝負である以上、勝つ手段を選んでも意味のないことだ。油断していた、運がなかったなんて言い訳にはならないし、勝敗にもしもなんてものが介入する余地はない。そんな事は百も承知だ。しかし、強いていうならやはり戦いたかった。この一言だろうな」
「個人の意思を優先させたんですか?」
「俺がそういう男なのは新聞を読めばわかることだ」
再び長い沈黙が続いた。
「……良くわかりました」
「そうか」
納得してくれたなら幸いだ。
「私が剣を棄てた理由については聞かないんですか?」
そう言えばそんな事も言ってたな。
「それについては言いたくないならいわなくても良い。それよりなんであの男と組んでいたのかの方が知りたい。明らかに性格が合わないだろう」
「あれは単にあの両手剣を扱える人物があの人しかいなかったためです」
あのツヴァイハンダーか。なんであれを使うこと前提になっているんだ。
「何故両手剣が出てくる? 本命は杖の方だろう」
「推測だが、恐らく両手剣を宣伝するためだろう。あれを使用するという条件で杖を貸し出したんじゃないのか」
抱き合わせ商法かよ。家宝を何だと思ってんだ公爵家の連中は。
「その通りです。あの杖を持って出場するにはどうしても両手剣を扱える人物が必要でした。私の実力で優勝を狙うにはあの杖を使わなければ……まさか初戦で持ち主に当たるとは思いもしませんでしたが」
「なるほど、その杖一つあれば俺達は倒せるからついでに宣伝も兼ねようというわけか」
「見事に裏目が出たがな」
公爵家の誤算は選手の実力ではなく、舐めプの方だろうな。
「むしろ安心しているかもしれませんね。この大会にはあの二人が参加していますから。あなた達に負けたのは結果的には一番角の立たない敗北だと言えるでしょう」
あの二人というのはあのイケメンコンビのことか。
「そんなに有名なのか? 相当深い因縁があるみたいだったが」
「セルヴァン家とヴィンクラー家はお互いの戦いが原因で没落の危機に瀕した歴史がありますからね」
「もっともセルヴァンはいまだに騎士の家系、それに対して我が家系は貴族となり今では公爵だからな。その差は歴然と言えるだろう」
その争いにあの杖が出てくるわけか。
「まあ今はあいつ等より次の相手だな」
「それなら問題はないかと思いますよ」
「何故そう思う?」
「次のあなた達の相手はどちらが上がって来ても無名の選手ですからね。本戦出場はほぼ確実だと思いますよ」
ナタクといい、こいつといい、次は眼中にないな。
「あ、天蓋君、次の相手が決まったわよ」
「いつの間に試合が始まって終わったんだ」
「三人が話している間に」
「だろうな。誰が勝ち上がったんだ」
「騎士学校の選手が試合中に棄権して、クリスタル女学園が勝ち上がり。会場は大荒れね」
騎士道精神ってやつか。それにしても試合中にわざわざ棄権するとは……何しに出場しに来たんだ? そもそも試合前に棄権すれば良いだけだろう。




