宣戦布告
「降伏……という表現は好むところではないけど。もっと穏便に試合を終わらせる方法もあったはずだ。と思えてならないんだよ」
「そりゃあ後から考えれば手段はありましたよ。真っ先にオリヴィエが奥の手を使っておけばもっとスマートな終わりになったはずですからね。予選一回戦で奥の手を使っておけば……ね」
皮肉を込めて早く奥の手を使っておけば良かったと答えた。
「だが実際にその魔法を使ってしまっただろう。しかしこればっかりは結果論になってしまうからこれはやむを得ないかな。でもゼノバ選手を倒した後はどうだい? 穏便に試合を終わらせられたんじゃないかな?」
「彼女が諦めたと?」
その自覚は確かにある。俺から距離を置いた以上戦意は萎えていたはずだからな。しかし。
「少なくともあの瞬間、戦意を失っていた瞬間があったはずだ。しかし君はあろう事かフィリパ選手を挑発してしまった。そして結果として彼女に深い傷を負わせてしまった」
しかし、スタンレイが、あの女が何もせずに諦めるなんて、そんなことをするはずがない。ほんの束の間の組み手だったが、彼女から文字通りの捨て身の攻撃を受けたのだから、それだけははっきりとわかる。
「深い傷……農作業もしたことのない貴方ならそう思えるかも知れませんが、俺は彼女に大した傷は負わせていません。いや、負わせられなかったが正しい表現でしょうね」
「それは」
「結局のところ俺は彼女の心をへし折れていない。と言うことです。当然そんなことでは降参させるなんて世迷い言もいいところですよ」
「どうあっても不可能だったと?」
まだ食いついてくるのか? 無傷での決着などありえない。あの戦いぶりを見ておきながらまだわからないというのか。
「勿論方法なんていくらでもありましたよ。例えば彼女の裂傷に指を突っ込んで血管をえぐり出すとか。まあそれぐらいやれば十中八九勝者は逆転していたでしょうがね」
故にそんな事出来る訳がない。それにやったとしても無為に終わった可能性の方が高い。
本来戦場で華々しく活躍するであろうお前ら二人が、聞いただけで沈痛な表情を浮かべるような行為だ、審判たちが黙認するはずがない。
「……もう止めにしませんか王子」
「フォルジュ君?」
「こいつらに何を諭したところで理解できるはずがないのです。この二人に優雅さなんて持ち合わせているはずがないのは先程の試合を見れば明らかでしょう。これ以上あなた様が無為に言葉を紡ぐことが私には耐えられません」
随分な言い分だな。俺はともかく公爵家に対して雅がわからないと言いやがった。
「まるで私たちに落ち度があったような言い回しだな。無理もないか、お優しい男だからな王子様は。女性と勝負するときはいつも勝ちを譲る懐の深い王子様、常に女性には紳士的な王子様、敵を倒した後は敵のために涙を流す心優しき王子様……冗談ではない。優しいだとか思慮深いだとか、聞こえはいいが要するに女や弱者に暴力を振るったという汚点を残したくないだけだろう?」
「そんなことは」
「現実問題として麗しの王子様が殺さなかった女は、いや男もか……全員ほかの誰かが殺しているんだぞ?」
それは当然だろう。わざわざ手を汚すと色々とうるさい奴らがいるからな……殺したくても殺せないやつだっていたんじゃないのか? いや、わかった上で言ってるのか。
「やはり王子の優しさなど欠片も理解できないとは。所詮は成り上がり者、といったところですね」
「それは無礼が過ぎるよ。彼女に謝るんだ」
「かまわん。ヴィンクラー家は代々軍閥の家系……他国の者からの畏怖、別称、羨望、……これ以上の勲章などあるはずがない。敵の死を糧に育ち、害なすものを間引き、そして大輪の薔薇を咲かせる。それがヴィンクラーの歴史だ」
「血塗られた一族が……!」
まさに一触即発の空気だな。相手選手との試合外での問題は可能な限り避けたいのだが、一族ぐるみでの因縁については口を挟むことはできそうにないな。
「喧嘩はそこまでだよ。次の試合に出る選手が近づいているみたいだ、僕達は退散することにしよう」
「女性には優しくしろ。それだけを言いにここまで来たんですか?」
「その通り、もし君が女性を傷つけながら勝ち進むというなら、この聖剣に誓ってその考えを改めさせよう」
「お二人が無敗でいてくれるならそれも叶うでしょうが、他の選手たちを見くびりすぎでは?」
いくら強いといっても俺たちと当たるまで無敗でいなければこの大会では戦えないからな。
「……これほど特定の誰かとの決闘を願ったことは一度もないよ。君たちの健勝を心から願うことにしよう」
それだけ言うと、まさに言いたい放題だったが言い終わるとどこかへと消えていった。
「さっさと控え室に戻るぞ」
「ああ」
俺たちも控え室に戻ると、第二試合に出場するチームと鉢合わせした。この試合で勝ち上がったほうが俺たちと戦うことになる訳だからな……どう挨拶したものか。二分の一で敵になる……やはり何も言わないほうが良いな。
「……! 失礼」
「……こちらこそ」
できる限り目を合わせないように歩いていたらぶつかりそうになってしまった。お互いに軽く会釈するとそのまま何も無かったかのように進んで行った。
このまま控え室へとたどり着いた。
「よ! おめでとう」
「ありがとう。どうだった俺たちのデュエルは?」
「うん! すっごくかっこ良かったよ!」
「まあ、相当な悪人面だったがな。もう少しどうにかならなかったのか? もう手遅れだが」
手遅れって、そんな簡単に選手の印象って決まるのか。
「おめでとう天蓋君。君たちなら大丈夫だと思っていたよ」
「ありがとうございます上杉先輩」
「次の君たちの相手はどっちが勝ちあがっても一回戦の相手よりは実力の低いチームだから安心して他のチームを応援できるよ」
流石に隙を生じさせぬ二段構えというわけにはいかなかったか。
まあ、次の俺たちの出番まで時間もあるから他の試合でも観戦するか。




