開会式
「一応聞いておくが……ハンドメイドか?」
「ああ、デザインを決定したあと生地を揃えるのに時間がかかってしまったがなんとか当日までに間に合った」
ハンドメイドかよ……なんでこう手の込んだことをするんだ。こんなことなら採寸は断固拒否すべきだったな。
「お兄様、まさかとは思いますが、本気で着るつもりではありませんよね?」
「そ、そうですよ。着慣れていない服を着たら動きづらいですし……」
「それなら大丈夫だ。できる限り動きやすいように生地を厳選したからな。その上繊維に特殊な薬品や魔力も混ぜてあるから見た目以上に高い強度も併せ持っている。ここの制服のような安物を着るよりは遥かに信頼できるだろう」
本格的に手の込んだ衣装だな……ますます断りづらい雰囲気になってしまった。
そもそもここの制服は安物でもないし。
「安物って、一着いくらすると思ってるんだ」
そうだそうだ、もっと言ってやってくださいよ先輩。
「少なくとも私が用意した衣装に比べれば安物と呼ぶしかあるまい。逆にこの衣装一着で何人の教員の月収をまかなえると思ってる?」
これそんなにするの!? こいつマジで馬鹿なんじゃねーのか!?
「そ、そんなに金をかけたのか……金持ちのやることはわからん」
「というかそんな金どこから」
「公爵令嬢だからな、それぐらいの金は右から左だろうよ」
だとしてももっと他に金の使い道はあるだろうに。
「おい、登録は済ませてきたからそろそろ開会式の時間だぞいい加減集まれ」
おっともうそんな時間か。言われるがままに順番に整列した。
「あの、クラウディア部長はどこにいるんですか?」
まだあの人がここに来ていない。去年は参加しなかったらしいが今年も見送るのか?
「おそらく会場のどこかにはいると思うぞ。それにあの方はそもそもこの大会に出るつもりは毛頭ない。なにせ苦い記憶があるからな」
「障壁をぶち抜いて反則でしたか?」
「その通りだ。その時の験担ぎかジンクスかはわからないが、本人曰く世界平和のためにも控え室には一歩も入らないだそうだ」
それと世界平和の因果関係はなんなんだ。
「まあそんなことはどうでもいいだろう。今年こそはあの女なしで優勝すれば良いんだからな。そういう訳だからお前たちも安心して敗退して良いぞ」
「だれですこの人?」
「射撃部部長のエドモンドだ。風紀委員長派の連中だからな、そのせいでうちら剣術部を目の敵にしている」
内輪もめか、いろいろと確執がある学園だな。
「まああんな早撃ち野郎の言うことなんか気にするなって」
「おい、誰が早撃ち野郎だ」
「あんた以外誰がいるんですか先輩。せっかくだから本番前に一発ヤッちゃってくださいよー」
さっそくつかみ合いの喧嘩が始まろうとしていた。しかしそれも他の先輩方が止めに入ることで事なきを得た。
「落ち着け! 失格になっても良いのか!?」
「そうやってお前らが止めることを計算に入れて挑発してんだよ! 後輩にこれ以上舐められて黙っていられるわけないだろ!」
「それは誤解ですよ先輩。俺だって序列というものは重んじますよ、ちゃんと敬意を払うべき人はわきまえてまーす」
開会式直前によくここまで味方を煽れるものだ。学年が違うんだからそもそも戦うことなんてないはずだが……というよりこんな舌戦をしているから優勝を逃すんじゃないのか? なんで味方同士で足を引っ張り合っているんだ?
「さっさと歩け! 入場の時間だぞ!」
とうとうこの時がきたか。会場へと足を運ぶ。
この会場の動員数は聞いていないが一目見ただけで相当なものだということがわかる。そもそも王都にある世界大会の会場で国が運営しているのだからその規模はおのずと導き出せるというものだ。その会場が人で埋め尽くされている。田舎から来た奴なら間違いなく人酔いをするほどだろう。周りを見ていると生半可な選手はこの空気で完全に萎縮してしまっている。それはこっちでも例外ではない。すでに一年生の一人がすでに目の焦点があっていない状況だ。
こんな状態ではなるほど、確かに一波乱も二波乱もあるだろう。俗に言う甲子園の魔物、いや甲子園は無いか。とにかくそういう人智を越えた何かが潜んでいそうな所だ。
選手入場も終わり、ついに開会式の宣言がなされる。




