事件現場へ移動
またしても一日空けてしまいました。
ですのでもう一回投稿します。
これからもがんばります。
「もちろん借りは必ずお返しします。それから当然のことながら、誘拐事件についての情報提供に関しても、別途でお礼をさせていただきます」
俺の言葉を聞いたメイドは面食らった表情で声を荒げる。
「クラウディア様!? まさか彼らがここまでたどり着けたのは、あなた様がお教えになられたからですか!?」
「ええ、そうよ」
先輩は事も無げに答えていた。
「ご自身が何をなさったのかわかっておいでですか!? このような異国の者にこの国の一大事を教えてしまうだなんて!」
全く持ってその通りです。普通だったら絶対教えたりなんかしませんよね。
「その一大事を秘密裏に解決して、事実を隠してしまえるように彼に情報を流したのよ?」
「そんな、このようなどこの誰とも知れないような者に、何故そこまでの信頼を寄せられるのです」
「それは単純に彼の実力がどう過小評価しても、今あの屋敷で棒立ちしている役立たずより優秀だといえるからよ」
それはずいぶんと俺のことを高く買っておいでですね。
「ほ、本当にそれほどの実力が」
「ええ、彼の真の実力は私にもわからないけれど、ことこの事件に関しては役に立ってくれると思うわよ?」
まあ、確かに相手側が人質に一切危害を加えないと分かり切っている以上、重要な事は全員を生け捕りにすることだ。それならば俺の得意分野だ。と言うより、はっきり言って本職だからな。
「わからない!? 実力を把握出来ていないのですか!?」
「だって仕方ないじゃない。片手間で私のことを千日手にまで追い込んでしまったのだから。でも、それなら何かしら役にたつと思わない?」
先輩の言葉に驚きを隠せないといった表情をしながら、メイドは答えた。
「そ、それは本当のことですか? にわかには信じられませんが、それならば実力のほどは信用できますが」
「あら、貴女もしかして私の言葉が信用できないと、私が自分の敗北をでっち上げたと思うのね?」
「い、いえ! そのようなことは」
先輩の言葉に対して相当うろたえているように見える。
「そう? なら問題はないわね。そういうわけだから貴方は向こうの屋敷に……、ああ、そうね。貴方一人だけで屋敷に向かっても、また同じことを繰り返すだけよね。じゃあ私も一緒について行きましょう。私としてもこの事案は迅速に収めたいもの」
あー、確かに俺だけだと話がこじれるだろうな。
「有り難いお話です」
「それじゃあ早く移動しましょう」
よし、さっさと移動するか。
◆◆◆◆◆
「なんでだよ! なんで俺を救出チームに入れてくれねぇんだ!」
予想通り問題を起こしているな。
「ミリア姫救出は、彼ら王宮騎士団と政府ギルド、グローリアスとの合同チームが行います。ですので貴方に出来ることはなにもありません」
ゲイルを説得している女は、異端審問官というやつか?
年齢は、予想以上に若いな。恐らく未成年じゃないのか?
白を基調としたローブとベールを身に着けたブロンドの女性であり、スリットの深いスカートを履いている。
黒色のローブではないことを考えると、俺の知ってる唯一神教ではないということになるが。だかまあ、似たようなものだろうな。
聖職者に対してこんなことを考えるのはかなりアレだが、上半身の露出はほとんどないと言える上に、ゆったりとしたローブを着ているにもかかわらず胸のラインははっきりとわかるのだから驚きである。
そして、スリットの深いスカートからは白い肌の太ももが露わになっている。こうしてみると肌を隠したいのか見せたいのか全くわからないな。
ああいう格好はいくらなんでも卑怯すぎるだろ。上半身にわざと大き目の服を着て下はミニスカートとかホットパンツとかを履いてあたかも下半身は何も着てないように見せるファッションと同じことだろ? 絶対二度見するに決まってるじゃないか。
「どうかしたのかしら?」
「いえ、何でもありません。彼女は異端審問官ですよね?」
「ええ、そうね。まあ、融通は利く方だからよほどの事がない限りは問題にならないと思うわよ。そうでなければここまで寄越さないわよ」
「なるほど、それなら穏便に済みそうですね」
そういえば王宮と教会の関係とかよくわからんな。できる限り関係がこじれないように行動すべきか? だとしたらそもそも挨拶しないほうがいいのか?
「どうします? もしかしてあの屋敷って裏口とかあります?」
「あるけれど、向こうが救出作戦を実行するみたいね。下手に動いて鉢合わせしたら変な誤解されるかもしれないわよ?」
それは面倒だな。要するにミリア姫が救出されれば良いわけだから、とりあえず待機しておくか。
「それなら待ちましょう。彼らプロを信じた方が可能性は高いでしょうからね」
「そう、ずいぶん落ち着いているのね」
「正直な話、この屋敷から逃げ出した瞬間を生け捕りにするのが一番楽ですからね。逆に言うならここから逃げ出そうとした瞬間からは一切躊躇無しに行動を開始しますよ」
「よくわかったわ。それじゃあまずは挨拶を済ませましょう? 私が紹介するから安心してちょうだい」
それなら大丈夫か。俺たち二人はゲイルのいる所へ向かった。
近くで見ると周囲の地面が荒れ果てているように見える。恐らくここで一騒動あったな。状況から鑑みるとやらかしたのはゲイルだな。
「また、ロレット学園の生徒ですか? それも貴女の知り合いですか、クラウディア」
この二人知り合いなのか。
「ええ、久しぶりねクレア。救出作戦の方はどうかしら? 責任者はどなた?」
「騎士団長が指揮をとっています」
「そう、汚名返上に燃えているのね。功を焦らなければいいのだけれど」
「問題はないと思いますが。ところで彼は? 先ほどの方と同じように暴れまわられると困るのですが」
灰色の瞳が俺の顔を見つめる。
「彼は私の後輩の素良天蓋君よ。今回の事件について何か役に立つと思うわ。それから彼女は異端審問官のクレア・ハインリヒ。多分教会のお偉いさん達が他の連中じゃミリア姫に危害が及ぶと思って、チャペル学園の生徒を選んだのでしょうね」
先輩の言葉に周囲がざわつく。俺のことにせよ教会の遣わした使者のことにせよここまではっきりと言ってしまったのだから最早笑うしかない。
「生徒? 卒業生ではないのですか?」
とりあえず気になった表現について聞いてみた。
「ええ、生徒よ。チャペル学園って結構多いのよね、仕事と学生掛け持ちしている人が」
それは、驚いたな。学生がそんな事をしているとは、世も末だな。
「人質救出だなんて、デリケートな事を任せられるのかしら」
「彼らの作戦が成功すればいいのでしょう? それにもし失敗したらもう大変よ。誰も自分から助け出そうだなんて思わなくなる。私としては陛下に早く仕事をしてもらいたいのよ」
仕事してもらいたいって、この人国王に対して何てこと考えているんだ。
「仕事してないんですか? じゃあ公務とかどうなっているんですか? そもそもいまどこにいるんですか?」
「宰相や大臣たちが頑張って代行しているわ。それから陛下なら向こうにいるわよ。衛兵に囲まれてよく見えないけれど」
あの白いテントのことか? 確かに豪華な装備を身につけた兵士たちがたくさんいる。
「それで、大臣たちだけで何とかなるものなんですかね?」
「あら、この国の大臣はとても優秀なのよ? 私を見れば一目瞭然でしょう?」
「そうですね」
ああ、確かに貴女の親なら国王の許可なんて確認せずに事後承諾でいろいろやりそうですね。
「あら、犯人側から何か動きがあるわね」
先輩が何か気づいたようだ。それと同時に周囲にいた人たちがしきりに動き始める。




