救出作戦計画中
「えーと、……どうやら失敗したみたいですね。全員捕らえられてしまったようです。何故こんなにも早くこちらの動きがばれたのでしょう?」
それは非常に面倒な事になりましたね。救出チームに関してはあいつ等も容赦なく殺しにいきますよ?
「とにかく、最優先で姫様を助け出してその後はその時考えればいいでしょう」
「それだと残された人達が危険ではないでしょうか」
「死ぬ覚悟ぐらいあるでしょう。とはいえ、彼らを見殺しにするわけにもいきませんからね。救出作戦について誰か手伝って貰えると有り難いのですが」
俺の言葉に先輩とゲイルが答えた。
「俺も協力するぜ」
「すでに満身創痍かよ。なにやってんだお前」
「ちょっとゴタゴタがあってな」
まあ、なんとなく想像はつくが。
「私も協力するわよ?」
「……一応確認のために聞いておきますが、姫様を掴んでいる状態で回避魔法使用したらどうなります?」
先輩はキョトンとしている。どうやら俺の質問の意図を理解していないようだ。
「ですから、姫様放り出して自分だけ回避行動とったりなんてことにはならないんですね?」
「え、……んー、……どうかしら?」
俺は大きく溜め息をついた。本人にもどうなるかわからないことでイチかバチかの賭けをするほど馬鹿な話もないだろう。要するにミリア姫を助け出すのに向いている人材がここにはいないということだ。
出来れば避けたかったが救出を後回しにしなければならないか。しかし、これには大きな問題がある。
「姫様を誘拐した犯人グループは本当に魔王復活を目論む異端者なんですね? それなら姫様に危害が及ぶ心配はありませんが」
クレアさんに確認する。もしこれが間違いだとしたら、姫様の身が大変危険なことになる。
「ええ、それは間違いありません。誘拐犯の中に『マナを愛する者達』の幹部がいることが確認されています。それだけに要求もなく逃げ出すチャンスをうかがっているのかその何よりの証拠だと言えるのです。ただの誘拐ならば何か要求があるはず、それがないとなるとその理由は一つ、必要なものはもう手に入ったから」
間違いなく本物の狂信者ということか。というかマナを愛する者達って名前なのかそのオカルト集団。
「え、ちょっと待って。魔王復活って、そんな御伽噺を信じてる連中なの?」
先輩の言葉にクレアさんが声を荒げる。
「御伽噺? あの伝承は事実です。だからこそ魔王アナトリアを倒し封印した勇者様の仲間であった、聖女様が建てた大聖堂が今もあるのです」
「それじゃあ何? 姫様がさらわれたのはこの国の成り立ちにその勇者様の子孫が関わっているから? だから封印を解くのにその血統が必要だとでもいうの?」
そういう話があるのか。
「その通りです先輩。誰が信じるとか事の是非などの問題ではなく、他ならぬ狂信者が必要だと信じてるから絶対に必要な事なんですよ」
すばやく俺が先輩に話しかける。
そう、本当に狂信者ならば魔王復活のための生け贄を手に入れるためなら命だって差し出すだろう。だから奴らの思惑通りにさせるわけにはいかない。なぜなら魔王アナトリアは本当に実在するからだ。
だからこそその復活はできる限り後回ししなければならない。その魔王がどのような方法でこの世界の秩序を乱してくるかわからないからだ。
もっともその封印を解く方法が一つだけとはとても思えないが。
「わかったわ、それで納得しましょう。それでどういう作戦でいくの?」
「犯人を一人一人生け捕りにしていきます。その時はできる限り味方にも気付かれないほうがいい。それを考えると決行は深夜ですね」
「深夜? 今すぐじゃないのか?」
ゲイルが聞いてきた。
「ああ、今からだと他の人質に被害がでる可能性が高い。だから人質が解放されるまでとりあえず待機しておいたほうがいいな。それに夜ならばこちらも動きを隠し易い」
「解放してくれるでしょうか? 人質とはいっても敵ですよ?」
「さっきも言ったように相手の目的は姫様を外部へ運び出すこと、そのためならば自分の命すら投げ出すでしょう。自分の命すらそうなら敵の命なんてもっと軽い」
俺の言葉に周りの人達の顔色が見る見るうちに悪くなっていく。
「妙に真に迫っているな」
「そうか? ……そういえば、誘拐犯達の食事はどうなっているんですか?」
「ミリア様に何か食べてもらおうと全員分出しました。睡眠薬を盛ったようですが通用しなかったみたいです」
そんな真似をしていたのか。偶然とはいえ好都合だな。
「食事の内容は? 温かい料理をここまで運べたとして、睡眠薬を識別するほどに中身を調べているなら冷めたものしか食べていないと思うのですが」
「と、いうよりまともな食事は出せていないわ。あまり手の込んだ料理は逆に何か毒を盛っているんじゃないかと思われてつき返されてしまうようね」
「つまり彼らが食べているのは単純な食事のみか。……屋敷の中に調理できる場所は?」
「それぐらいあるわよ。ちょっと待って、貴方まさか……」
今人質になっているのはこの国のトップクラスの魔術師達、そして犯人達はまともな食事を取れていない。だとしたら……。
「とりあえずある程度人質が解放されるのを待ちましょう。それから次の食事のときは料理ではなく食材を運んでください」
「ずいぶんな命知らずね、貴方」
「彼は一体何を考えているのですか?」
「自分が人質になるつもりよ。食事係りとして内部に堂々と入り込んで、深夜に行動を起こすつもりね」
先輩の言葉に、周囲にいた全員が驚いた表情をしながら俺に注目を集めた。
「あ、貴方正気ですか!? 自分から人質になろうだなんて!」
異端審問官の驚きの声に続いて周りにいた他の人たちも声を上げる。
「そ、それに自分から人質になろうとノコノコやってきた奴なんて怪しまれるに決まってる!」
俺たちの話を聞いていた人たちの中からも意見が飛び出してくる。
「それについてはもう問題はありません。というのも現在捕らえられてしまった方たちは現時点でこの王宮内にいる誰よりも優れた魔術師なんでしょう? それより上の戦力が有り得ない以上、相手は必ず油断します」
「それでも不可能だ」
俺の言葉に即座に反論がかえってきた。
「確かに君の言うとおり相手は油断しているだろう。だがそれは彼らが優れた魔術師だからではなく、貴族の血筋だからだ。そんな彼らを解放して君を人質にする可能性はかなり低い」
「人質もろとも殺す強硬手段がとりやすくなるためですね?」
同じ見殺しにするなら、身分の低い方から見捨てるはずだからな。確かにそうだ、下手に優秀な魔術師を手元に置くことのリスクを考えれば上手く人質解放に動いてくれると思ったが、貴族がいたほうが安全かもな。
「それなら私も一緒に人質になるわ」
先輩からとんでもない言葉が飛び出した。当然のことだがその言葉に一番驚いたのは俺でなく、周りにいた連中だ。
「クラウディア様!?」
「私なら相手も安心すると思うわよ?」
「そんな! あなた様を危険だとわかってる場所へみすみす行かせるなど、騎士として見過ごせるはずがないでしょう!」
へー、この人騎士だったのか。まあ、格好がそれっぽかったからそうなんじゃないかなとは思っていたが。
「騎士と言っても貴方は私の騎士じゃないし、いざとなったら彼が助けてくれるわよ」
全員、特に騎士らしき装備をした人達から一斉に睨まれる。まあ、当然の話だな。彼らの本来の仕事を奪っているわけなんだから。




