犯人は何者?
初投稿から1ヶ月経ちました。
これからも頑張って投稿していきます。
「それで? まさか助けに行くつもりか?」
取り敢えず一応聞いてみた。
「当然だろ! 国の象徴が大変な目に遭っているってときに、じっとなんてしてらんねぇだろ!」
なるほど、随分と国民に愛されているようだな。その姫様は。
「だが助けるとは言っても、どこへ向かうつもりだ? どこにたてこもっているのかわかってるのか?」
「それは……」
「それならこの話はおしまいね。早くお昼食べましょ」
エリーが突然話をおわらしてしまった。
人質がどこにいるのかわからない以上救出もなにもあったもんじゃないが。
「そもそもこの国の姫……ミリア姫だったか? どういう人なんだ?」
「ああ、ミリア・ドルトリンク・クロスフォード四世。幼い頃から魔法に関してずば抜けた才能を開花させていたってことで有名だ。七歳で賢者クラスの魔法を発動させたとか。十歳の時には王宮騎士団の団長を倒したとか、そういう話ならきりがないってレベルだ。もちろんそれだけじゃない。それほどの才能を持ちながら、それに驕らず心優しく、そして何より誰よりも美しいと言われている。彼女の前ではどんな宝石も芸術品も二流品にしか見えなくなってしまうというぜ」
最後の方とか絶対誇張表現入ってるだろ。
「そんなに素晴らしい女性なのか。さぞかしお見合いは多いだろうな」
「世界中の王子たちが婚約を申し込んでいるようだな」
そりゃあすごいな。
「だけど何故かそれら全ての要求を拒否し続けている」
この声は、クラウディア先輩!? なぜ貴方がここに? 落ち着いて学園生活送ってる場合じゃないでしょう。
「こんにちは天蓋君、面白い話をしているわね?」
「クラウディア先輩、てっきりお休みかと思ったのですが……」
「逆よ。私が休まずに平然と学園生活を送ることでそれほど重大な問題なんて発生してないと思わせなければならない。オリヴィエ、貴女もそういう指示を受けたのでしょう?」
オリヴィエは肯定も否定もせず、ただ黙っているだけだった。
「貴方達も徒に騒ぎを起こして、周囲の人達を不安にしないようにしなさい」
「ごもっともです」
「そう、わかればいいのよ。それはそうと、考えてくれたかしら? 入部については」
いや、いくら何でもブレなさすぎでしょあんた。
「以前言ったように興味ないな。私と戦うべき相手は私自身が決める。それに組織に属するなど私には向いていない」
「じゃあ、俺もそれと同じで」
「それはとても残念ね」
その言葉とは裏腹に平然とした態度をしている。
「先輩、一つだけ質問があるんですが」
「なにかしら?」
「先輩なら何か知ってますよね? 誘拐事件について」
確かに、この人なら重要な情報を持っている可能性が高い。
だがより重大な情報を持っているということは、相応の重大な責任を背負っていることと、同義だ。
そう簡単に教えてくれるはずが、いや……俺達に教えてくれるはずがない。
「それについては、答えられない。としか言えないわね」
「そんな!」
「ゲイル、冷静になれよ。俺達一般生徒が聞いて良いことじゃないことぐらいわかりきってるだろ」
ゲイルは納得してはいないだろうが、取り敢えず引き下がった。
「それにしても、アンフェアじゃない?」
「アンフェア? なにがです?」
クラウディア先輩が話し始める。
「貴方達は、オリヴィエと天蓋君は、私が困っているのに、人員不足で悩んでるのを知っているのに、意地悪するじゃない。それなのに私に頼み事だなんて、そんなのって凄くズルいと思うのよ」
そう言いながら、先輩は俺に後ろから抱きついてきた。
先輩の吐息が背中に当たる。そしていろいろと柔らかいものが俺の体に触れる。
「あ、あの、えええええっと、これは」
俺はできる限り冷静沈着に先輩に話し掛ける。
「んー、そこの椅子に座ってくれない? それなら貴方のことを見下ろすことができそうだわ」
「あ、あの! その、そんなに強く抱きついていたら、天蓋さんにご迷惑が掛かると思いますので、その、そろそろ離れたほうがよろしいと思います」
さくらが即座に先輩を説得し始める。今までにないくらい真剣な目をしている。
「でも、迷惑とも邪魔とも言ってこないわね?」
「そ、それは……先輩だから、強く言えなくて……」
「それっておかしくないかしら? 私からの勧誘を完全拒否し続けているのに。本当に迷惑ならちゃんと言ってくるはずよ。だから迷惑じゃないのよ。これは迷惑じゃない」
「離れてください! 離れてください!」
さくら……。
いや、別に迷惑ではないし、何だったらいわれるがままに椅子に座ろうかなとか思ってたけど、やっぱり言いなりは良くないよな。
とは言え、言葉で離れるよう言うと、恐らく、だが非常に高い確率でどもると思われる。
それを自身で把握できるのだから、なんて冷静で的確な判断力なんだ! と自分に賞賛を贈りたいところだ。
俺は何も語らずに先輩と離れる。
「あら残念。それじゃあ話を戻しましょう。貴方達は知りたいことがある。そして私はそれを知っている『かも』しれない。私は今困っている。そして貴方達は私の悩みを解消ことができる。そういうシチュエーションよね?」
一応、そういうことになる。
「それじゃあ、この二人を差し出せば手掛かりを教えてくれるんだな!?」
少しは言い方ってものを考えろよ! 差し出すってなんだ差し出すって!
「そんなことは約束できないわね。何故って、私が本当に貴方達の知りたがっている情報を持っているかどうかなんて私自身にもわからないもの。私は貴方達がどこまで知っているか把握できていない」
「それじゃああんたが一方的に得をするだけじゃないか!? やることが汚すぎるぜ!」
いや、少なくともオリヴィエより情報を多く持っているはずだ。政府の中枢を知るはずの大臣の娘なのだからな。
もし、何も知らされていないのだとしたら、もし本当にそうなのだとしたら、それは逆にそれほど重大な情報であるということだ。『大臣の娘』程度には伝えてはならないほどの、重大で抜き差しならない状態を意味する。
そんな状態で俺たちに出来ることなど何もありはしない。むしろ何もせずに専門家に任せた方がよほど安全だ。
そういう意味では、確認すべきなのだろう。この人が他人に教えても良いぐらいなのか、あるいはこの人ですら知らされないほどの状況なのか。
俺が剣術部に入部するという面倒な話になるが。
「フフ、わかったわ。教えてあげる」
「本当か!?」
「ええ、あんまり私の誘いを断るからちょっと意地悪しただけよ。ああ、お礼なんていらないわよ? 剣術部に入部してだなんて、言わないわ」
その情に訴えかける言い方やめてもらえません?
俺そういうの滅茶苦茶気にするんですよね。
「それで姫はどこに!?」
「王宮よ」
「お、王宮!?」
「厳密には王宮の敷地内にたてこもっているのよ。とんでもない不祥事ね? ああ、別にオフレコじゃないから教えても大丈夫よ。ただし事件が解決したら全権力を行使してでも事実を隠蔽するだろうから、正義感の名の下に新聞に事実を記載するときは、ちゃんと遺書を遺しておくのよ?」
それってつまり、オフレコどころか『知っているから』という理由で消される可能性があるってことですよね?
「それから一応、もう片方の姫の居場所も教えておくわね。彼女は今ノートン伯爵邸にいるわ」
「伯爵邸? なぜそんなところに?」
「推論でしかないから答えられないわ。まあ、いろいろと思うところはあるけど」
「それでミリア姫を攫った犯人の目的は何なんです? 要求は?」
「わからないわ」
先輩はゲイルの質問に即答した。わからないと。
「わからないって」
「要求もなにもないのよ。現状もたてこもっているとは言ってたけど、周囲の反応はむしろ閉じ込めたって印象を受けたわ」
閉じ込めた? どういうことだ?
「そもそも誘拐犯とは何者なんです? 護衛がいる中実行したわけですよね?」
「聞いた話では悪魔崇拝の異教徒達だといわれているわ」
カルト集団のテロかよ……。これは面倒なことになるな。
「そんな連中がなんで姫様を!? 身の代金要求もないなら何故!?」
「何も心当たりがないんですか?」
ゲイルもウィルも相当不安なようだな。
「残念ながら。ただ……」
「何かあるんですか!?」
「宰相と陛下の話を盗み聞……風の噂で聞いたことだけど、だから早く婚姻を結ぶべきだったとかなんとか言ってたわ……言ってたらしいわ」
「それはいったい」
「見当もつかないわね」
婚姻すべき? 待てよ、確かお見合いを積極的にやってたんだよな? そこまでして急ぎたかった理由……まさか。
「まさか、黒ミサなんてやるつもりじゃないんですか?」
「黒ミサ? 確か異教徒達が行う儀式のことよね?」
「羊だか鶏だかを殺してって……。……え?」
まず最初にウィルの顔色が青ざめる。それにあわせて他も気付きはじめる。
「そうだ。そういう儀式には定番の生贄がある。所謂、純真で神聖な乙女というやつだな」
「そんな……それじゃあ早く解決しないと!!」
全員が浮き足立っている。クラウディア先輩も表情は崩していないが、動揺していることが見て取れる。
「いや、儀式には厳格な手順が必ず存在する。そういうものを遵守してはじめて神秘性が得られるんだからな。恐らく閉じ込めたという表現は正しい。要するに儀式をさせなければいいわけだ」
「そんな悠長なこと!!」
「俺たちに何が出来ると言うんだ。下手なことをして事態が悪化するかもしれないんだぞ? それより、そろそろ午後の授業が始まるぞ」
それだけ言って俺は教室へ戻る。
何も食べてないが。




