早速
「先生、気絶者を保健室まで運び終わりました」
結果から言うと、6人の生徒が先生にホアタタタタタタされてしまった。かくいう俺もその被害者だ。
「ご苦労だったな。流石に手際が良いな保険委員」
最初の授業でミスターを運んだのが運の尽きというもので、なんか保険委員に任命されてしまったのだ。
「随分と寂しい教室ですね」
俺が運んだ人数は4人。教室には先生を含めて丁度十人となってしまった。
「まあ、歴史の授業なら教科書を読めばある程度理解できるだろう」
「先生、一つよろしいでしょうか?」
カルラが質問質問した。
「どうした、カルラ」
「はい。これほど人数が少なくなったのに教室全体を使うのも非効率的だと思います。ですので席を移動して全員一塊になるべきかと」
「なるほどな。確かにその通りだ。よし、全員前の席に詰めろ」
「黙って他人の椅子に座っていいんですかね?」
「なんだ天蓋、女子の椅子に座るのは緊張するか?」
「べ、別に、そんな訳ないでしょう!」
先生のいわれるがままに前に詰めた。教卓の前の3×3の席に全員集まった。
「隣だなんて偶然ですねぇ、お兄様」
おまえ、一番角の席なのになんで中央まで下がってるんだ?
あれ? 単純に詰めただけじゃないぞ、これ。微妙に不自然な並びに変化している。
「よし、じゃあ授業を再開するぞ」
授業が再開した。俺目線から言わせれば今始まった。
「お兄様、ここなんですが」
「歴史は苦手だ。ほかの奴に聞け」
席を近づけて俺に話しかけてきた妹を無視して、授業を聴く。
いまいち理解できない。
「おい、カルラ。ここを答えてみろ」
先生からの質問に淀みなく答えるカルラ。
すごいな。むしろ今俺に何を聞こうとしたんだ?
先生への回答をすますと、また俺のことを見つめ続ける。
そんなんだから、先生に目を付けられるんだぞ?
……熱い目線がかなり気になる。物理的に熱い気さえする。
「おいカルラ、授業に集中しろ」
「はい!」
……。いや、俺じゃなく先生を見ろよ。
そして、午前の授業が終わり、俺たちは食堂まで移動した。
案の定食堂は閑散としており、まさに閑古鳥が鳴くといった状態だ。
「よお、今朝の新聞読んだか? 姫様が行方不明らしいな」
ゲイルたちが合流してきた。
「ああ、何でもどっかの誰かが誘拐したらしいぞ」
「誘拐!? マジかよ!? どこでその情報を」
「こいつから聞いた」
オリヴィエのほうを指差す。
「じゃあ、どこに潜伏してるのかもわかってるの? なんか要求してるとか? 政治犯の釈放、身代金とか」
「知らん、そんな事は一族の管轄外だ」
どういう仕事してんだこいつの家族。
「流石にそこまでは情報が降りてこないか」
普通に話し進めるなよ。そんなに有名なのか、有力貴族の仕事なら有名か。
「そもそも新聞にはなんて書いてあるんだ? 人から聞いただけだからよくわからん」
「新聞なら持ってきてるから読む?」
「悪いな」
俺はウィルから新聞を借りて読んでみる。新聞の表紙にデカデカと掲載されているのがわかる。
肝心の内容はどこに……。これか?
「なになに、ボルドフ姫誘拐さる!? とかかかれてるな……これのことか?」
「は? 今誰って?」
「ボルドフ……? 聞いたことがないわね」
「誘拐された日付を読んでみろ、先週だろう? そいつはこの国の姫ではなく、隣国の姫だ。この国で人質にとっているらしいな」
は? 一週間で二人も誘拐されてんの? しかも誘拐犯はこの国に潜伏? 外交とかどうなってんの?
「外交問題にならないのか?」
「私もボルドフとは面識があるが正直な話、あの女が誘拐されたとは到底思えん。おそらく何かの間違いか、あるいはこの国への批判の為の政略だと考えられている」
「なんでそこまで断言できるんだ?」
「あの女が一騎当千の猛者だからだ。もし本当に誘拐されたのが事実だとしたら、もうすでに誘拐犯を血祭りにしたという記事が掲載されてなければならない時期だ。それがないということはつまり、そんな事実はないということだ」
いや、その理屈はおかしいだろ?
「あ! ボルドフってまさかあのボルドフか!?」
「何か知ってるのか、ゲイル」
「あ、ああ。姫御自ら前線に立ち、その全ての戦争に勝利してきたって噂の女だ。見た目はとんでもない化け物だって話だぜ?
たしか身長は二メートル後半、体重400キロオーバー。あの女が吠えると、二キロ離れたグリズリーも泣いて逃げるとかいう逸話まで残っていやがる」
それ、なにかの間違いだろ。何らかの生物を見間違えただけだろ。そんな人間がいてたまるか。
だいだい吠えるとってなんだよ? そいつがグリズリーなんじゃないのか?
「ゲイル、一つだけ良いことをおしえてやろう。そんな人間は存在しない!」
「本当だって! マジで聞いた話じゃ、そんな感じのモンスターなんだって!」
「嘘にしたって盛りすぎだろ」
「いや、あながち間違いではないぞ」
オリヴィエ!? 嘘だろそんなこと!
「本当に二メートル後半だとかいうのか?」
「五年前に会ったときは、二メートル弱だったと記憶している。今ではどこまで成長しているかはわからないが、まあ二メートルは越えていると思う」
信じられん。
「もしそうだとして、なんで誘拐なんだ? いくら何でも嘘っぽ過ぎるだろ。案外本当に誘拐されているんじゃないのか?」
「ではなぜ、脱出すら出来ていない」
「他の誰かを人質にとられている。そいつの安全を確認するまでおとなしく捕まった振りをしているんじゃないのか?」
「あ、あのー、天蓋さん?」
突然さくらが会話に割り込んできた。
「どうした?」
「お姫様が誘拐されたら普通わかるんじゃないでしょうか? 隠し通せるとは思えないのですが」
「最悪行方不明、そうでなくても放浪癖があるってことにすれば誤魔化せる可能性があるからな。その上、ボルドフなる人物は一騎当千なんだろう? だとしたら下手に誘拐されたなんてひた隠しにしたいはずだ。そもそもそんな女なら自分より強いやつに会いに行くとか適当な理由で押し通せるはずだ」
「それはそうと、お前どうするんだよ? もし、万が一姫様救出に貢献したらとんでもない褒美が手にはいるんじゃないか?」
こいつらの頭はみんな同じ構造をしてるのか?
どいつもこいつも同じこと言いやがって。
まあ、出来ることがあるのに放っておくのもあれな話だが。




