反撃開始
「残りの時間はあとどれくらいだ?」
「約十分程度だな」
「それは随分と時間がかかっているな。俺も攻撃に参加するか?」
「その必要はない。貴様はドラゴンどもと戯れていろ」
戯れていろとは言ってくるな。
「残り五分を切ったら俺も攻撃に参加する。わかったな」
「そんな余裕があと五分も続けばね!」
「……? スピードとパワーが更に上がったな。それに攻撃方法も段々見境がなくなってきた……」
先程まで緩やかだった攻撃も激しくなり、より積極的に近距離での攻撃を繰り出してくる。
「こ、これは大迫力の攻撃です! 鋭い牙に爪での攻撃! そして尻尾の叩きつけ! その一撃一撃が地面をえぐり空を切る! 距離を取ろうともこのフィールドではいかんせん狭すぎる! これではまるで猛獣のいる檻の中に紛れ込んだ小動物のような光景だー!」
「だが両者ともに上手く戦っているな。オリヴィエは攻撃を受ける直前に爆発を当てて威力を殺している。あれだけ勢いを殺す事が出来れば動きの緩急だけで攻撃をかわすことも可能だろう」
「そして天蓋選手は攻撃を受けながらもその桁外れの体力で受け止め、投げ飛ばすなどで反撃していますね」
「にわかには信じがたい光景ですね。召喚獣と真っ向から立ち向かうだなんて常識で考えたらまずありえません。仮に正面から受け止めるという行動に出たとしてもそれは、逆転の策があるなどの何らかの理由があるものです。しかし彼は攻撃を受け止めても投げ飛ばしたり蹴ったりするだけでドラゴンに十分なダメージを与えているように見えません」
「あの二人は属性が炎で被っていますからね。レッドドラゴン相手には有効打が少ないのでしょう。その場合勝ち筋としては召喚獣は無視して術者を倒すのがセオリーですが、そこは相手が上手く身を守っています」
確かにかなり正確にオリヴィエの魔法を捌いている。そういえば面識があるような口振りだったが、やはり対戦経験があるのか? ここまで対策出来ているのもそのためか。もっともオリヴィエの方も手の内は隠しているから単にチャンスをうかがっているだけなのだろう。とはいえ時間が押しているようなら俺も攻撃に参加するつもりだ。確かに衣装に使われている染料が爆薬になっているのは恐らく誰も予想していないだろうし、それを利用すればいくらでも不意を打てるだろう。しかしアレは使用後のオリヴィエの見た目が倫理的に非常によろしくないからな……出来ればあの技は阻止したい。
そういえば俺の衣装も黒だから爆薬になっているのか? 恐らく同じ染料だろうからそういうことになるが。……そうなると俺の衣装も吹き飛ぶのか……それは嫌だな。
「そこだ!」
「……噛みつかれたか」
矢を放った瞬間を狙われた。俺の右腕をしっかりとくわえ込み離そうとしない。手のひらから生暖かく、ベトベした、それでいてくすぐったい感触が伝わってくる。多分舌で俺の手を舐め回しているのだろう。さらに吐息も感じ取れる。手のひらが涎で濡れて湿っているせいか涼しく感じる。
「ハハハハ! 残念だったねぇ!? 今まで頑張って戦ってたのにねぇ!? さあ! その腕を食いちぎっちゃえ!」
「それやったら残虐行為に抵触しないか?」
「バカだなあ! この状況になっても降伏しないんだから悪いのはそっちだろ!」
そういうことに……なるのか? だとしたら自発的に攻撃を受けて相手に反則を押し付ける戦術がとれなくなる。いやそれ以前にこの大会、残虐行為禁止を銘打っておきながら一度もそれで試合を終了されていない。単にみんなが行儀よく戦っているものと思っていたが、やはり不自然だな。まさか名目上の話で実質意味のないルールなのか?
「審判! このまま俺の腕が食いちぎられたとしたら彼に反則はとられますか?」
「いや! 明らかに重傷を負う攻撃を目の当たりにしなおかつ降参する猶予期間が充分にあり、その上であえて降参しないで攻撃を受けた場合は反則にならない」
「なるほど、わかりました」
「そうそう! だからさっさと負けをみとなって」
なるほどな。そうなると……こっちとしても相当攻撃の幅が増えるな。
「よもやドラゴンに捕まるとはな。とうとう貴様も年貢の納め時か?」
「学生が税金払うわけないだろ。お前は俺のことより自分の心配をしろ」
「安心しろもう少しすれば勝てる。だから安心してギブアップするといい」
「今度そうするよ」
「あーもう、イライラするなぁ! 早くギブアップするのかしないのかはっきりしてよ!」
相手から降参の催促がされたが、そんなものをするつもりはない。しかしこれだけ待ってもらって不意打ちでドラゴンを倒すのも公平性に欠けるな。
「審判! 一応確認のために聞いておきますが、まさか召喚獣に対しても残虐行為を行ったら反則だなんてバカなルールはありませんよね?」
「基本的には参加選手に対してのルールだから問題はない」
「大変参考になりました。ありがとうございます」
それなら多少やりすぎても大丈夫か。
「今の質問、どういう意味かな? まさかそこから逃げ出すつもり?」
「今のところはまだ戦闘続行の意志を見せるところだな」
「そっかぁ……それじゃあ、その右腕もーらい!」
噛みつきに力が込められてくる。ドラゴンの表情も険しくなり、目も血走っている。
「……とは言え、所詮は人に飼い慣らされている獣ということか?」
「……え? バカな……バカな! ドラゴンが本気で噛みついているんだぞ!? 何故血が一滴も流れない!?」
それは単に俺の皮膚を貫いていないからだな。




