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いつもの市バスは、異世界行き  作者: チーム エボンヌ
第四章 ノイラ編

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第95話 2人だけの時間

 都市の光が少しずつ暗くなっていく。

 リドがこちらを見た。桃矢と麗華の疲れきった顔に気づいたのだろう。

 《今日はもう休むといい》

 光の線が走り、2人の横にベッドの様なもの生じた。さらに、ベッドを囲むように白いドーム状の構造物があっという間に出来ていく。

 桃矢はベッド触ってみた。素材は分からないが、これも見た目に反して柔らかく、ほんのりとした暖かさも感じられた。

 ベッドに腰を下ろす。桃矢はそこでようやく、自分がどれほど疲れきっていたかに気がついた。体中が重い。

 ベッドと簡易ドームを作り終えたリドは、「また明日来る」といって去って行った。


 麗華もベッドの端に腰を下ろした。

「なんだか、夢の中にいるみたい」

 ほんの少し前まで、2人は見たこともない光景に、ただ目を丸くしていた。

 思い描くだけで、何もないところから物が生まれる。

 声を使わず、思考だけで語り合う。

 太陽もないのに、自ら光を生み出して、こんなにも美しい都市を築いている。

 どれも地球の常識では、信じられないことばかりだった。


「すごかったね」

 麗華の声には、まだ、あの驚きの余韻が残っていた。

「見た目は違っても、本質はポヨンヌ達と同じだった」

「うん」

 桃矢もうなずいた。

 だが、頭の中では他の事を考えていた。

 リドたちノイラがあの冷たい声が言う恐ろしいけだものだとしたら、武田はあの好奇心旺盛で優しいノイラ達を絶滅させるために動いていたことになる。

 もしあの時、武田がリングに入っていたら、今頃…

 そう考えると、桃矢の背筋が寒くなった。

 あれからどうなったんだろう。

 陽翔、山崎、山田さん。それと武田と田崎。

 みんな無事だろうか。武田はあの後どうなった。

 考えれば考えるほど、不安と焦りが大きくなる。

 それでも、桃矢は不安と疑問に押しつぶされそうな中、いつの間にかベッドで眠りについていた。


 その光景を隣で見ていた麗華は、桃矢の元に歩み寄り、そっと桃矢の頭に手をあてた。

 桃矢の寝顔を見ながら、今日の出来事を思い出していた。

 あの時、桃矢が武田を突き飛ばしてバランスを崩し、リングの方に倒れそうになったのを見た時、考えるよりも先に体が動いていた。

 桃矢くんを失いたくない。死ぬときは一緒だ。

 でも、2人は死ななかった。リングの先は、この光り輝く都市だった。


 ここから戻れるかどうかもまだ分からない。

 見た目は怖そうでも、実はやさしそうなノイラ。

 でもまだここに来たばかりで、全てを見たわけじゃない。

 本当は不安でいっぱいだった。

 でも、あなたといられるなら。

 私は平気。

 桃矢にはまだ伝えられないこの気持ちを胸に抱えたまま、麗華も眠りについた。


 どれだけ眠っただろう。

 気がつくとドームの壁がほんのりと明るくなっていた。

 隣を見ると麗華はまだ眠っていた。

 桃矢は昨日のことを思い出していた。

 武田を突き飛ばした反動でリングの中に飛び込んでしまった自分。

 自分を助けようとしてリングに飛び込んでしまった麗華。

 じわじわと、事の重みが胸に染み込んでくる。

 もう、戻れないのだとしたら。あの見慣れた空の下へ。あの村へも。

 そして、遠い、遠い地球へも。

「……ごめん」

 気づけば、桃矢はそう口にしていた。

「俺が、武田さんを突き飛ばして。その反動で、こんなことに。川嶋さんまで、巻き込んじゃった」


「巻き込まれた、なんて。思ってないよ」

「え!……起きてたの」

「うん」

「桃矢くんのせいじゃないよ。桃矢くんを1人で行かせたくなかっただけ」

 麗華は起き上がると、桃矢の目を正面から見た。

「自分の意思で飛び込んだ。後悔なんてしてないよ」

 その声には、迷いのかけらもなかった。

 桃矢は何か言おうとして、うまく言葉にならなかった。

 ただ、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

 すぐ隣にこの人がいてくれる。このことが、どれほど心強いか。


「ありがとう」

 桃矢はようやく声を絞り出した。

「川嶋さんがいてくれて、本当に良かった」

 麗華は少しだけ驚いたように桃矢を見た。

「……こっちのせりふだよ、それ」

 麗華の言葉に桃矢は内心驚いたが、恥ずかしさを隠すため下を向いてしまった。

 しばらく2人の間に沈黙が拡がった。


 桃矢は麗華の言葉を思い出していた。

 桃矢くんを1人で行かせたくなかった。

 こんな時なのに、桃矢の胸は高まっていた。

 桃矢はこの胸の高まりを誤魔化すため、これからの事を整理する事にした。


「川嶋さん。朝になればリドが来ると思います。その前に、これからの事を一緒に考えましょう」

「うん」

「先ず、残された問題は2つ。武田の事と3人のウイルスの事」

「武田があれからどうなったかは分からない。でも陽翔たちと和解したとは思えない」

「そうだだね。武田くんはまだあの冷たい声に操られていたから、前の時みたいに一旦、引いたんかじゃないかな」

「俺もそう思う。あの声が簡単に諦めるとは思えない。また、武田をここへ送り込もうとするはず」

「でも…今の私たちに出来ることは… ウイルスの事もそう」

「ウイルスの事については、実は俺、昨日寝る前に思いついたことがあるんだ」

 麗華が期待を込めた顔で桃矢を見た。

「以前、あの優しい声が言ったことを思い出したんだ。『ウイルスも、地の底の者たちも、武田を縛るものも。全てこの星の理の内にある。この星の理を知る者たちを頼りなさい』」

「つまり、この星の理を知る者たちというのは、ポヨンヌやエボンヌのことだと思っていたけど、昨日、俺らはノイラという種族を知った。これだけの都市を築いて、しかも思考でものを作り出せる種族。ノイラなら解決策を持ってるんじゃないかって」

「確かにそうね。そうすると私たちがやるべきことは1つ。ノイラ達の信頼を得ることね」

 2人はうなずき合った。


 ようやく一筋の光が見えた気がした。

 2人はその小さな希望を手に、ドーム状の建物から外に出た。

 外はほのかな光に包まれていた。でも、昨日、ここに来たときの明るさとは少し違う。昨日はアカを感じさせるようなオレンジ色の光が主流だったが、今は淡い水色やレモン色の柔らかな光に包まれていた。

「時間によって都市の色も変わるんだ」

 麗華がつぶやいた。

 桃矢はこの目覚めの時間を演出するような光を見ながらこれから始まる1日に思い馳せた。

 既に何人ものノイラが通りを行き交っている。

 その時、こちらに近づいてくる小柄のノイラに気づいた。

 リドだった。

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