無職、無職になる
世の中には、選ばれた人間と選ばれなかった人間が居る。
そして俺は、ずっと“選ばれた”人間だと思っていた。
でもそれは逆だった。
《――「君、クビね」――》
憧れの職業に就けたと思った。
まるでそれは夢の様に――覚めるのも早かった。
《――「分かりやすく言ってやろう。“モブ”なんだよ君は」――》
《――「覇気が無く、相手の弱点をひたすらに攻める……客が一番面白くないタイプ」――》
《――「君のそういう所が、“向いてない”」――》
淡々と述べられた言葉が、ずっと頭の中に響いている。
地獄に引っ張られたその声だけは、夢の様に覚めてくれない。
散々下に見ていた地の底に落ちていく間にも、ずっと、ずっと。
響いている。
頭の中で。
《――「すまないが、君はこれで“無職”だ」――》
ずっとずっと、響いている。
☆
「――っ!!」
また、悪夢で目が覚めた。
「……ゲームしよ……」
職を失ってから早一週間。
もぞもぞと布団から出て、呟いたのはそんな言葉。
部屋には死んだカップ麺の残骸。
一角にあるゲーミングエリアだけは綺麗なアンバランスな光景の中。
「――『コネクト』」
新品のヘッドギアを被り、そう唱える。
もう俺は無職。
コイツをいくらやろうが、ただの趣味に成り下がったが。
だからこそ、楽しみたいと思っていた。
その――2050年に現れた、世界初のフルダイヴVRMMOを。
《ようこそ『LOSTFREE』の世界へ!》
☆
ただただ、白い空間。
現れたのは光る球体。
そして俺の前に、キーボードが現れた。
《貴方の名前を教えて下さい》
「……『佐藤仁』」
《……実名はお避け下さい》
「ああ、ごめん」
脳死で反応していた。
イメージは就活だった。
目の前には面接官――だったら実名しか言わないだろって。
「……はぁ、無職、無職か……」
《……》
「……ああごめんごめん。名前は――」
《『サトウ』様でよろしいですか?》
「うん」
《承知しました。それでは次に、職業を決定します。5つの質問から貴方に合った職業を提案しますが、予めご希望する職業などあればお申し出下さい》
「……職業、職業か……」
《……?》
「……俺、無職なんだよな……」
《……無職をご希望でしょうか?》
「んなわけねーだろ!!」
《?》
「ああごめんなさい……何AIに当たってんだ俺……」
もうやだ。
こんな状態じゃゲーム楽しむどころじゃないよ。
《大丈夫ですよ 希望の職業をおっしゃって下さい》
「ありがとう(泣)」
AIに励まされる男(無職)。非常に哀れ。
……ん?
おいさっき、このAIなんて言った?
「無職って職業があんの?」
《ございます》
「マジか……」
これは驚き。
『LOST FREE』――略称LFの職業は多彩だと聞いていたが、まさかのまさか。
「無職選ぶ奴とかいんのかよ」
「……現在、ログイン中のプレイヤーの中に『無職』の方はございません」
「そ、そうすか」
名前からしてネタ職。
ひとりぐらいは居ると思ったが……。
サーバー内、誰も就いていない職業か。
《――「君は特別じゃない」――》
「……ッ」
脳裏に響くその言葉。
前の会社で言われたその落雷。
「クソが……」
“特別”になりたい。
そう思ってやってきたつもりだったのに――俺はソレになれなかった。
……ああ。
なら、今、なれば良い。
棚からぼた餅ならぬ無職。
サーバー内にゼロの職業なんて、“特別”以外の言葉が見つからない。
そうだろ、なあ。
「職業、無職で」
《本当によろしいですか?》
「ああ」
《転職はメニューから行えますが、レベルダウン・スキルリセットが実施されます。お気を付け下さい》
「了解。早く遊ばせてくれ」
《承知しました。それでは、『LOSTFREE』をお楽しみ下さい!》