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精霊達の豊穣祭


祝☆書籍化&発売〜!

どんどんぱふぱふ〜٩( 'ω' )و


という訳で〜

この度、皆様の応援のおかげで目出たく書籍化&発売となりましたので、お礼の小噺を投稿です!

めっちゃ長い!まさかの一万文字オーバーですよ……!


久しぶりに書いたのでちょっと感じが違うかもしれませんが……少しでも楽しんでもらえると幸いです。

ではでは今後とも〜本作品をよろしくお願いしまーす!


 




『ルー君、シーちゃん!《精霊の花園》で開かれる豊穣祭に参加してみない!?』


 ある日の休日。

 エクリュ侯爵家の中庭でほのぼのピクニックをしていた私達は……唐突に現れた風の大精霊からの提案に、きょとんと首を傾げた。


「《精霊の花園》で開かれる豊穣祭?精霊(あなた)達もお祭りとか開くのね……」

『うん!豊穣祭とは銘打っても、実際は慰労会みたいなもんなんだけどねー!』

「……慰労会?」

『そー!みんなの豊穣祭は〝沢山農作物が採れました、精霊様ありがとー!〟って感じじゃん?でも、精霊わたし達の豊穣祭は、〝みんなから貰った精霊力を使って世界を豊かにしたり、色々とやったり頑張ったね〜。お疲れ様〜。これからも頑張ろ〜!〟って感じなの!』


 つまり精霊達の豊穣祭は、仕事の打ち上げみたいなものってことなのね。

 でも、私達は逆に精霊達に迷惑をかけてる方(ルインの暴走とかヤンデレモードとか、お怒りモードとか)だから……参加する資格はない気がするのだけど……。


『ルー君のヤンデレモードで迷惑かけてるから参加してもいいのかな?って思ってる?ふふふっ、大丈夫だよー!ルー君もシーちゃんももう、わたし達の仲間だからね!気にせずに参加して欲しいな!』


 風の大精霊の言葉に、ほんの少しだけ申し訳なさが薄れる。

 それでも参加するのは……と少し躊躇っていたら。

 何故、今回こんな風に参加しないかを問いかけてきた本当の理由が……風の大精霊から打ち明けられたわ。


『というか〜……できればわたし達のためにも、二人には参加して欲しいって言うかぁ〜……』

「「…………ん??」」

『最近ね?精霊王様、お仕事が忙しいんだよ。いや、まぁサボってたのは本人だから当たり前のように自業自得なんだけどね??』


 またサボってたの??あのヒト??

 ……というか嫌な予感をバシバシ感じるのだけど??


『んで。ついに爆発しちゃって』

「「爆発」」

『〝も〜っ!疲れた疲れた疲れた疲れたぁぁぁぁ!精霊王の務めなんざ放棄ボイコットしてやるぅぅぅ!ついでに豊穣祭もサボってやるぅぅぅ!〟とか。ふざけたこと言い出しちゃって。本当、お仕事放っておいた自分が悪いのにね??』

「「…………」」


 あぁぁ……。なんか無駄に、両手両足をジタバタさせながら駄々を捏ねる精霊王が明確に想像できてしまうわ……。

 そして、こめかみに青筋を浮かべる水の大精霊も想像できてしまう……。やだ、凄く苦労なさってそう……。


『でも、精霊達の日頃の頑張りを慰労するために開かれる豊穣祭に、精霊の頂点トップたる精霊王様が出ないでっていうのは……ね??』


 最後まで言葉にしなかったけれど、風の大精霊が言いたいことは分かったわ。

 豊穣祭で慰労を行うのは上位の精霊達で、慰労されるのはいつも上の手足として頑張ってくれている下位の精霊達なのでしょう。だから、一番偉い精霊がボイコットするなんて以ての外という訳ね?


『だから、ルー君とシーちゃんが来るって言えば!あのヒトのことだから、良いところ見せようとするに決まってるじゃん!?だからね!?二人には下位の精霊達のためにも参加して欲しいって言うかぁぁぁ〜……!』


 なんて土下座せんばかりで懇願してくる風の大精霊……。

 もうね……。凄く精霊王に手を焼かされてるのが分かってしまったわよね……。

 私は同情、ルインは父親の愚行の申し訳なさから、沈痛な面持ちになってしまう。

 だから、ほぼ反射的に「「参加するわ(よ)」」って二人同時に答えてしまったわよね。

 私達が参加するだけで精霊王が迷惑をかけずに馬車馬の如く働くならば……豊穣祭に参加するぐらい、どうってことないもの。えぇ。


『あ、ありがと〜!これであの馬鹿──ごほんっ。精霊王様も、二人に格好良いとこ見せるため……きちんと仕事を終わらせてくれると思う!』


 風の大精霊さん、風の大精霊さん。

 普通に言い間違えを直せてないわよ?馬鹿って言っちゃってるわよ?


『とにかく、二人も参加ってことで!あっ、ルー君!できれば豊穣祭翌日はお休みを取った方がいいかも!わたし達の豊穣祭は一晩だけど……こっちと向こうじゃ時間流れが違うからね!それなりに時間が経っちゃうと思うよ!』

「あ、そっか。なら、翌日と翌々日、大事を取ってもう一日……三日は休むことにするよ」

『うんうん!その方がいいと思う!それじゃあ、そろそろ!豊穣祭の準備もあるし、早く精霊王様を働かせなきゃいけないから!帰るね!』


 そう言った風の大精霊は『バイバ〜イ』と手を振りながら、その場から消える。

 残された私達は嵐のように現れて嵐のように消えた彼女に目を丸くして……忙しそうね、と互いに顔を見合わせて苦笑を零したわ。


 あっ……。豊穣祭の日が、こちらの豊穣祭の日と同じなのか聞き忘れちゃったわね……。

 まぁ、後で他の精霊に確認を取ることにしましょう。




 ◇◇◇◇




 そんなこんなで時間は流れて……精霊の豊穣祭当日──。

 下級精霊から開催日は、こちらの世界の豊穣祭の翌週だと無事に聞き出し。

 ひとまずこの国での豊穣祭(レメイン王国では王家が国を挙げた豊穣祭(おまつり)を開き、国の食事情を支える三大農作地を有する貴族が主催者となって夜会を開くことになっている。そして貴族達はこの時期、その三つの夜会の内の一つに参加する風習なの。ちなみに……私達は学生時代の友人(オリビエ)の実家の夜会に参加したわ)を無事に終えてからの参加、という流れになったわ。



「ルイン、忘れ物はないかしら?」

「うん、手土産も完璧だよ」


 ルインに忘れ物の確認を取ってから、私はもう一度姿鏡の前で身嗜みを整える。

 豊穣祭用(お忍びデート用とも言う)に仕立てた動き易いアプリコットカラーを基調にしたワンピースドレスを纏った私と、ブラウンベージュの生地を使ったスマートカジュアルな服を纏ったルイン。服装の方は完璧ね。

 手土産という名の奉納品の準備もオッケー。慰労会のようなモノと聞いていたし。この時期は農作物やお酒やお肉、お魚といった奉納品が沢山届けられる(今更だけど実はこの世界、精霊力だけじゃなくて物も捧げることができたの。まぁ、物を捧げるのは所謂、〝いつも精霊様ありがとうございます〟という感謝の意を示すだけの行いになるのだけどね)そうだから……敢えてそれ以外の品物を用意してみたわ。

 屋敷を留守にすることになるから、使用人達にもきちんと休暇を出したことだし。

 一応、トイズ様にも《精霊の花園》へ向かうことを伝えておいたから、行方不明だと騒がれる心配もなし。何かあったら直ぐに連絡をくれるでしょう。

 よし、準備は万全!


「そろそろ行こっか」

「えぇ」


 私達は手を繋いで、《精霊の花園》へ向かうための転移門を開く。

 歪んだ空間を潜った先はいつもと変わらぬ──ということはなく。

 カラフルなテントの下には、テーブルいっぱいに置かれた食べ物。至る所に旗飾りや花飾りなど、様々な装飾が施されていて……キャッキャッと精霊達が楽しそうに飛び回っている。いかにもお祭り、といった雰囲気だわ。

 思わずその場に立ち尽くして見ていたら……精霊達がこちらに気づいたらしく。『ルインだ〜』『シエラだ〜』と言いながら、勢いよく集まってきたわ。……本当に勢いが凄いのだけど!?!?


『今年は二人も参加するの〜?やった〜!』

『一緒に楽しも〜』


 …………どうやら、私達の参加は精霊王のサボり対策だということを知らないみたい。

 それはそうよね。自分達の慰労会を、精霊王がサボろうとしたなんて……知らない方がいいことだもの。

 当然、私達もこのことは黙っとくわ。折角の楽しげな雰囲気を壊す必要はないことだし。


『ねぇねぇ、ご飯食べる?お腹減った?』

『アレ美味しいよ〜?』


 …………目の前に飛んできた精霊が指し示したのは、多種多様なお料理がたっぷり乗ったテーブル。

 ……あら?精霊って別にご飯食べなくても大丈夫じゃなかったかしら?

 なのに、なんで食べ物まで準備されて……?今日が豊穣祭だから……?


「うーん……多分、嗜好品のようなものなんじゃないかな……?ほら、すっごい食べるのに集中してる個体も何ニンかいるし」


 私の疑問を察したルインが、別のテーブル……テント下のテーブルでひたすらご飯を食べてる精霊や、審査員みたいに見た目をチェックして。匂いを嗅いで。一口食べて頷いてメモを取ったり。ワインを揺らしてソムリエみたいに飲んでいる精霊達を指し示す。

 …………なんか無駄にプロ味が高い個体がいるのは、気の所為かしら?あ、気の所為じゃないんですね……はい。


『ルイン、シエラ』


 と、今更ながらに知った精霊の新しい一面に驚いていたら。ザッと精霊達が左右に割れて、向こう側から豪奢な衣装を纏った火の大精霊が現れたわ。

 赤を基調とした服なのは普段と変わらないけれど……珍しく高そうな装飾品を身につけているし。ファー付きのマントが〝THE・猛者〟という貫禄を醸し出している。

 ……本当に凄いわね。服だけでこんなに雰囲気が変わるなんて……。

 でも……服装が変わっても火の大精霊は火の大精霊で。彼はニカッと笑って、私達を歓迎した。


『よく来たな。今日は精霊われらの豊穣祭。是非、楽しんでいってくれ。さぁ、こっちだ』


 火の大精霊に案内されて、会場の中央へと近づいていく。

 中央には大きな舞台が用意されており……正面向かいの壇上には、花と木で豪奢に仕立て上げられた玉座が準備されている。

 あちらの世界にはあまり姿を現さない人型の──中級精霊がチラホラと見られて。着飾った彼らと視線が合えば、にっこりと微笑んで軽く挨拶をされた。勿論、こちらも同じように挨拶を返す。

 そんな風に歓迎されながら進むと……舞台から少し離れたところで、自身が着ている豪奢な衣装(ドレス)が汚れるのも厭わずに地面に座り、小さな下級精霊達の髪を結ってあげている風の大精霊の元に辿り着いたわ。

 彼女は近づいてきた私達に気づく。すると……今相手をしている精霊に『ちょっと待っててね〜』と声をかけてから、こちらに駆け寄ってきた。


『いらっしゃ〜い!お迎えに行けなくてごめんね〜』

「いや、招待ありがとう。風の」

『うん、楽しんでいって!』

「えぇ、そうするわ。……それにしても、精霊達の髪を結ってあげていたの?」


 私は、周りを飛び回る下級精霊達の髪を見ながら問いかける。


『うん。中級の子達は自分で着飾るとかできるけど……下級の子は見て通り、幼い子ばっかりでしょ?だから、必然的に不器用な子も多いから……折角の豊穣祭だし、綺麗に身支度を整えてあげてたの!』

「成る程ねぇ。折角のお祭りだから、どうせなら着飾って参加したいわよね。なら、私達がこれを持ってきたのは……タイミングが良かったかもしれないわ」

「そうだね。という訳ではい、奉納品プレゼント

『ふむ。わざわざすまんな』

『わぁ〜!何々〜?』


 ルインから奉納品が入った籠を受け取った大精霊達は、中を覗き込んで嬉しそうな声をあげたわ。


『おぉ!化粧品に装飾品!』

『更には本や玩具か。あちらの世界からの奉納品で、食べ物は有り余っていたから……それ以外を選んでくるとは。流石、ルインとシエラだな』


 この反応、どうやら食べ物以外の奉納品を持ってきて正解だったみたい。精霊達は今にも手に取りたくて堪らないとばかりにウズウズしているわ。

 でも、流石に皆に行き渡るほどの数は持ってこなかったから……下手したら、早い者勝ちとか取り合いになってしまうかしら?と、若干の懸念を抱いたけれど。

 大精霊が他の精霊達に『こら、抜け駆けは禁止だ』とか、『後で精霊王様に数を増やしてもらうから、今は我慢してね〜』なんて言い聞かせていたから、後のことは大精霊達が上手くやってくれそうだと思えたわ。

 ふぅ……。喧嘩の火種にならなくて一安心。


『ルイン、シエラ。このはしゃぎっぷりを見て分かるように……皆、とても喜んでいる。本当に、ありがとう』

『うんうん!ありがとー!みんなも二人にお礼を言おう!せーのっ!』

『『『ありがと〜!』』』

「「……ふふっ。どういたしまして」」


 精霊達からのお礼に、笑顔を返す。こんなに喜んでもらえて、良かったわ。

 ……と、まぁそんなこんなで。精霊達に絵本を読んであげたり、髪を結う手伝いをしていたら、それなりに時間が経ったらしく。

 唐突にリィィィン……と、涼やかな音が響き渡った。


『おっと。ルー君、シーちゃん、そろそろ始まるよ〜』


 風の大精霊が言うのと同時に、玉座の前に光が集まった。

 現れたのは……当然ながら、私達がよく知る精霊王。

 でも、今日ばかりはいつものおちゃらけた雰囲気は一切なくて。金銀を使った装飾品に、精霊の布を使った威厳ある服装。笑みすらも浮かばぬ真顔の所為なのかいつもの五割増しぐらいにイケメンで……。


「あれが……父さん、だと……!?」


 流石のルインも、精霊王の王様っぷりに開いた方が塞がらないみたい。その気持ち、分かるわ。直前までサボろうとしていたことを知っているから、余計に驚くわよね。

 精霊王はこちらをチラリと見るけれど、いつものウザ絡みはなく。軽く目線を下げるだけの挨拶で済ませる。

 ちょっと待って……。本当にこんな真面目な精霊王、初めて見るんだけど??違和感が、半端ないんだけど??


『今日のよき日に豊穣祭を開催できたこと、心より嬉しく思う。精霊達よ……世界のための日頃の献身、感謝する。今日は我ら自身を労わるための日だ。一時のことではあるが……心から楽しんでくれ。──ここに、豊穣祭の開催を宣言する!』


 ──わぁぁぁぁぁ!! パチパチ、パチパチ!!

 歓声と拍手が溢れる。私達もぽかんっ……としながらも、なんとか拍手をしたわ。


「…………ゆめ?」

「…………多分現実よ、ルイン……」


 どうしよう。あまりにもマトモな精霊王なんて見たことがなかったからか、ルインが現実を受け入れきれてないわ。……まぁ、私も同じ反応なのだけどね!

 沢山の精霊達に囲まれて、王らしい態度で会話をしている精霊王をぽかんっと見ていたら……隣から聞こえてきた声。


『ふふふっ、随分と驚いているわね。ルイン君、シエラちゃん』

『ほほほっ、それも当然じゃろう。二人はあのふざけた精霊王様しか知らなのだからのぅ』

「「………はっ!」」


 ハッと我に返って、振り向く。

 視線の先には……スリットの入ったロングドレスを纏った水の大精霊と禁欲的な詰襟の服を着た土の大精霊が立っていて。私達は慌てて、二人に挨拶をしたわ。


「ご、ご機嫌よう。大精霊様がた」

「い、いつの間に?」

『精霊王様がこの場にいらっしゃられた時に一緒にね。まぁ、二人の目には入っていなかったようだけど』

『精霊王様が普段と違うご様子なのだから、そちらに気を取られるのも仕方ないことだがのぅ』


 そ、そう言われると申し訳なくなるわ……。

 でも全然気づかなかったの。水と土の大精霊様達もとっても綺麗に飾っているのに。

 やっぱりそれだけ、精霊王の衝撃が強かったってことなんでしょうね……。


『おっ。二人もこっちに来たんだ〜?』

『精霊王様入場の側仕え役──……だけじゃなくて、まぁ色々と。……うん。本当に色々と、お疲れだ』

『……ふっ。ありがとう。本当、きちんと参加してくださって良かったわ……』

『…………これもルイン達のおかげじゃのぅ……。息子夫妻に良いところを見せようと、無駄に張り切ってくれたわい』


 すんっ。と遠い目になる水と土の大精霊に、私達はそっと目を逸らす。

 その……精霊王が色々と駄々を捏ねて、今日のお祭りもサボろうとしていたのは聞いていたけれどね?この二人の態度が改めてそれを実感させたというか……。

 もう少し、精霊王は反省すべきだと思うわ。本当に。


『…………とはいえ。精霊王様の真面目が持ったのも、ここまでだったようだけど』

『うむ……。またお守りの始まりかのぅ……』

『ルイィィィィン!』


 ボソッと呟いた水と土の大精霊の言葉の通りに……それが目に入ってしまう……。

 そう……大きな声でルインを呼びながら、こっちに向かって満面の笑顔で走ってくる精霊王の姿が……。

 ──ぴよぉぉぉぉんっ!

 ……って、はぁ!?!?あの精霊王ヒト、息子であるルインに抱きつこうとしたらしく……思いっきり飛び上がったわ!?!?


「うわぁ!?」


 けれど、そう易々と抱きつかれるのを許すルインじゃない。ギョッとした彼は軽やかな動きでかわす。

 となれば精霊王は必然的に、ベシャァァァァアンッと地面を滑っていく(スライディングする)ことになる訳で……。

 とんでもない光景に、大精霊達は一瞬で死んだ魚のような目になったわよね。南無三……。


『んもぅ!酷いぞっ、ルイン!受け止めてくれたっていいじゃないか!』

「いや、いきなり飛びかかってくれば当然避けるに決まってるからね?」

『…………。言われてみれば……確かに!?』

「うん。納得するのは新しいパターンだ……。というか折角今日はいつもと違って少しは格好いいとか思ってたのに。やっぱり相変わらずの残念仕様だったか……」

『……格好いい、だと?』


 ──キラキラキラキラ〜☆

 精霊王の顔が凄まじい勢いで、輝き始める。

 息子に褒められたのがとっても嬉しかったみたい。見えないはずの尻尾(なお、勢いよく振られている)が見えるようだわ。


「………………」


 そんな感想を抱く私に反して、考え込んでいるルイン。

 ……そして何かを思いついたように微かに目を見開くと、にっこりと。それはもう素晴らしいぐらいに胡散臭いイイ笑顔を、精霊王に向ける。


「あぁ。今日の父さんはとても格好良いよ。貴方の息子であることが、誇らしいぐらいだ」

『!!ル、ルインッ……!』


 !?!?!?

 ル、ルイン!?いきなり、何を言い出してるの!?!?

 私と大精霊達はギョッと目を見開きながら、二人の会話に耳を傾ける。


「だから今日は、格好いい父さんが格好良く。精霊王らしく、精霊達を労ってやってる姿を……もっと見ていたいな」

『も、もっとわたしの格好いい姿を……!!』


 あ、あら??なんだか……会話の流れが……??


「うん。立派な父さんなら小さな精霊達、ヒトリヒトリに声をかけてあげる慈悲深さがあるんだろなぁ〜……。あっ、ほら父さん。精霊達が父さんにねぎらわれるのを待ってるよ。早く行ってあげて」

『ま、任せろ!』

「俺は少し離れたここから見てるね。ほら、アレだよアレ。離れて見る方が丁度いいやつ」

『近過ぎると逆に分からないってヤツだな!分かった!わたしの格好いい姿を!遠くから好きなだけ見るといいぞ、ルインッ!』


 …………という言葉を最後に。精霊王はキリッとした顔で、彼と話したくて若干ウズウズしていた精霊達の方に格好よく歩いて行く。

 はっやい。もう既に真面目な精霊王モードになってるわ……。

 そんな父を見送ったルインはくるりとこちらを振り向いて……ニヤリと。若干腹黒モードなトイズ様似な笑顔を浮かべてみせた。


「どう?これで精霊王がやる気全開になったから……大精霊達は今日一日、お守りから解放されると思うんだけど」

『『『『!!』』』』


 そう言われた大精霊達は、ハッとした顔で息を呑む。勿論、私も同じ反応。


「今日は実質、慰労会なんだろう?なら、一番労われなきゃいけない大精霊達が、今日ぐらいは楽できないとね。という訳で精霊王のお守りをしなくていいことが、俺からの慰労だ。本当に細やかなプレゼントだけど……少しは喜んでもらえるかな?」


 だって、ルインは言葉巧みに精霊王を操って……今日一日、真面目に精霊王をやるように仕向けたんだもの。

 それはいつも精霊王のお守りで苦労している大精霊達が……今日ぐらいはそれをしなくても済むようにするため。

 そんな計らいに、彼らは感動したみたい。本当に嬉しそうにルインにお礼を言っていたわ。


『ありがとう。本当に……本当に最高なプレゼントだ、ルイン』

『精霊王様のことを気にせずに楽しめる豊穣祭なんて初めてだよ!!』

『素晴らしい……!素晴らし過ぎる手腕だわ!ルイン君!』

『ほほほほっ。今日一の功績者はルインに決まりじゃのぅ』


 という感じで大精霊達から感謝されまくって。本日のMVPがルインに決まったところで……私達はやっと、落ち着いて豊穣祭を楽しむことになった。

 他の精霊達と一緒にご飯を食べたり踊ったり、歌ったり。一部の精霊達はお酒を飲んだり、愚痴ったりと大人な時間を過ごす。

 勿論、精霊王は真面目に精霊王やってました。……普段からこれなら、大精霊達も楽でしょうに……。

 まぁ、そんなこんなで。楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもの。気づいた時にはもう、それなりに時間が経ってしまっていたわ。





「……シエラ。そろそろ帰らない?」


 ある程度楽しめたわね……と思った頃、ルインがふとそう言い出す。

 私としてももう満足していたから、「えぇ、構わないわ」とそれを了承したわ。


『あれ?もうそんな時間?』

「いや、時間の流れの違い的にはまだ余裕があるけど……ちょっと早めに帰るだけだよ。はしゃぎ過ぎたからね。休んで、仕事に備えないと」

『あっ、それは確かに!じゃあ、お別れだね!みんな〜ルー君達帰るみたいだから挨拶をね〜。せーのっ!』

『『『ばいば〜い、またね〜』』』


 幼い精霊達に絵本を読んであげていた風の大精霊が、その子達と一緒に手を振る。


『もぐもぐもぐ……ごくんっ。今日は楽しめたか?……なんて聞かなくても、その表情で答えは充分だな。今日はありがとう。よかったらまた来年も参加してくれ』

「えぇ、是非」


 火の大精霊が大きなパフェ(実は甘党だったらしい。今更過ぎる新しい事実に、驚きを感じたわ)食べるのを止めて、また来年もと誘ってくれる。

 私達はにっこりと笑って、それに頷く。


『うぅ〜ん……』

『ほほほっ。落ちた水のの分も儂が別れを言っておくとするかのぅ。またのぅ、二人とも』


 水の大精霊は日頃のストレスからかとんでもない量のお酒を飲み(……普段が大人の女性って感じだから、カパカパお酒を飲む姿を見てその苦労を察してしまったわよね……えぇ)……撃沈してしまっていたけれど。土の大精霊はそんな彼女の介抱をしていた土の大精霊が、代わりに別れを告げる。

 私達は今日一日の……いいえ。日頃の感謝を込めて、彼らに別れの挨拶をしたわ。


「えぇ。またね、皆様」

「今日はありがとう。それじゃあまた!」


 別に今生の別れって訳じゃないから、私達はあっさりと《精霊の花園》からお屋敷へと帰宅する。

 向こうはまだ宵の口──といったところだったのに、窓の外を見ればもうこちらでは朝日が登り切っていた。時間的にはお昼に近いみたい。


「…………楽しかったね、シエラ」

「えぇ。そうね、ルイン」


 ひとまず落ち着こうと、ソファに隣り合って座った私達は豊穣祭の感想を言い合う。

 楽しかった。本当に楽しかったわ。でも、きっと……ルインは私よりも楽しんでいたと思う。

 だって……堅っ苦しい夜会パーティーに貴族として参加する時よりも、こっちのお祭りにお忍びで繰り出す時よりも。今回の方が遥かに楽しそうだったもの。

 やっぱり半分は精霊だから、精霊流のお祭りの方が肌に合うって言うのかしらね?

 …………まぁ?実のところは私も、精霊の豊穣祭の方が心穏やかに楽しめたのだけど。

 なんせ常日頃ルインに向けられる他の女性達からの熱〜い視線がないんだもの。自分達以外のヒトがいても嫉妬に気を取られずに、ルインだけに集中できるなんて……楽しめた理由としては充分でしょう?

 とはいえ……嫉妬する私も、ルインは好きみたいだけれどね?


「勿論。どんなシエラでも愛してるよ?」


 私の心の声に、ルインがにっこりと笑いながら答える。


「でもやっぱり……俺が一番好きなのは、二人っきりでいる時の、俺の愛に溺れるシエラだからさ」

「…………!?」


 色気全開の、それはもうとっても悪い男の顔をしながら。


「だからね?シエラ、俺の奥さん?残りの時間はずっと、俺と二人っきりで過ごしませんか?帰ってきたことは誰にも知らせずに──……俺の愛に、どろどろに溺れてくれませんか?」

「っ……!!」


 そっと、耳元で囁く。

 甘い甘い、誘惑を──……。

 私は彼の色気に当てられて熱くなった頬を手の甲で押さえながら、彼に問いかける。


「ねぇ……ルイン……?貴方、もしかして……これも見据えて、三日のお休みを取ったの……?」

「ふふふっ。どうせ休みを取るなら……シエラとの甘い時間を確保するために、利用しない手はないよね?」


 あぁ、もう……本当に悪いヒトね。

 豊穣祭に誘われたことを上手く利用して、イチャイチャするために多めの休みを確保しておくなんて。

 本当はズル休みなんてしてはいけないことだと分かっているけれど……許してしまわずにはいられないわ。

 だって……ルインと二人っきりの時間を過ごせるのは……私も凄く嬉しいのだもの。


「…………貴方のズルに乗ってしまう私は、悪い子よね」

「そうだね?シエラ()悪い子だ。でも、他の人にバレなかったら……君が悪い子だなんて誰にも知られることはないよ?知るのは、俺だけ」

「なら、貴方が悪いヒトであることを知るのも私だけ?」

「当然」


 なら……悪い子同士らしく。誰にも秘密な、甘い時間を過ごしましょうか?


「……ルイン」

「シエラ」



 私は彼の首に腕を回して……二人っきりの時間に溺れていった──……。





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