①結婚初日と面接?
「先に言っておく。
私はあくまで君の技術や知識を買うのであって、それ以外は管理させてもらう」
「そうですか。
管理とは何を管理するんです?」
「君の金銭感覚や所有物だな」
「では最低限必要な物をお伝えしますね。
硬すぎないベッドと、
六畳間の部屋と、
手袋10枚、
2食の食事、
睡眠時間6時間でお願いします」
「?????
それだけでいいのか……?」
「はい」
返事をした小柄な少女はそう頷いた。
くせっ毛が強い赤毛は、ぴょんぴょんはねてこちらを見る。
(事前情報では、
魔石に狂い、金使いが荒く我儘な少女と聞いていた……
社交界では''魔石狂いのサーシャ''で有名だったんだが……
うーん、義理の姉の情報とすり替えられていたか……?)
ストーンウォール家の次男ゼロは思わず、顎に手を置き考えてしまった。
自分の結婚相手だと言うのに、
領地の危機を優先して簡単に承諾し、
相手を知ろうとしなかったことを恥じる。
「サーシャ、ひとまずこれからはよろしく。」
「はい、ゼロ様。
私は1日100個ほどの人工魔石を作れます。
魔石獣も中級クラスなら倒せます。
オーダーメイドの魔石アクセサリーは2ヶ月ほどかかります。」
「まてまてまてまて。
私は君の知識と技術がほしいのであって、そんな重労働をさせるつもりはない。
それはここの領民の仕事だ」
「そうなんですか?」
キョトンとした顔でサーシャはゼロを見た。
ゼロは頭を抱えた。
(元いた家ではそんなに働かされていたのか……?)
そういえば、とゼロは思った。
彼女はクリスティル一族の生き残りであり、
彼ら彼女らは魔石を扱えればどんな労働もこなすし、知識や技術を惜しみなく与えると言う。
それほど魔石が好きなのだ。
「とにかく、まず君にやってほしい仕事はこれだ」
考えるのは後だと思い、ゼロは箱を手渡す。
「古いタイプの魔石箱ですね」
「ああ。最近この魔石箱が大量に不法投棄されてな。
元々は人払いのための魔石箱なのだが、誤作動を起こして領民達の多くが不調を起こしている。
これを解除してくれ」
「わかりました」
サーシャはゼロから箱を丁寧に受け取る。
それから彼女は、まるで子どもがプレゼントをもらってすぐにラッピングを外すかのように、術式を解除した。
箱の中にある魔石を今すぐに見たい、という具合に。
「終わりました」
そしてサーシャは箱の中にあった魔石を、懐かしそうに手のひらに置いた。
「これは、私の祖母が作った魔石箱です。
今はもう見かけなくなりましたが、まだあったんですね。魔石箱は他にもありますか」
「あ、ああ」
「ぜひやらせてください。
祖母の技術を何回でも見たいのです。」
それからゼロは、残りの魔石箱の解除をサーシャにお願いした。
サーシャは解除の作業を、何度も何度も行い、
魔石箱を目に焼けつけるかのように箱を隅々まで見ていた。
それは、今は亡き人と対話してるかのようだった。
悲しいような、嬉しいような、
サーシャの褐色の瞳は曖昧に揺れていた。
その光景に、ゼロは思わず見とれてしまっていた。
すべての作業を終えたサーシャに、我に返ったゼロは言った。
「ご苦労様。今日はもう疲れただろう。
君の部屋に案内する。
足りないものがあったら、言ってくれ」
「はい。
ゼロ様、確認なのですが私は今日からゼロ様の奥方なんですよね?」
「?そうだが」
「実は私、ストーンウォール商会の面接を受けてまして。
採用のご連絡をいただいたので、
今日は使用人として呼ばれたのかと思ったのです。」
「??!
イザベラ様からは何も聞いてないぞ」
驚愕するゼロに、当のイザベラが部屋に入ってきた。
「あら。小さいことは別にいいじゃない」
「イザベラ様。面接時はありがとうございました」
「こちらこそよ。サーシャ」
イザベラは一般的な中肉中背の中年女性だが、れっきとしたストーンウォール商会の名誉会長だった。
「ゼロ。
これを機に、サーシャにあなたの魔石病について診てもらいなさい。」
「ですがイザベラ様」
「おだまり、ゼロ。部屋は私が案内するわ。行きましょ、サーシャ」
「はい、奥様」
そうしてイザベラとサーシャは部屋を出て行った。
「10数年前に一族が原因不明の皆殺し……クリスティル家の生き残り、か。」
がらんとなった部屋で、ゼロは思わず呟いた。




