第十一話 黒影
ここでグズグズしていたって仕方がない。
なんとかして皆さんと合流しないと。
でもこの感じ……結界が張られている。
厄介だ。結界の解除なんてしたことがない。
「自分の魔力と結界の魔力の波長を合わせれば……」
私は、いろいろな方法を試す。
―――――――――
その頃、紗夜と結弦。
「……ねぇ澄乃ちゃん。本当にこの道で合ってる?」
「合ってますよ」
迷いなく返ってきた言葉に、紗夜と結弦は顔を見合わせた。
返事の内容は正しいのに、声の調子や間の取り方が、いつもの澄乃とどこか違う。
「そ、そっか。ならいいんだけどね……」
紗夜はぎこちなく笑うが、胸の中に小さなざわつきが残る。
「澄乃、さっきから歩くの早くないか?」
結弦が問いかける。
「え?いつも通りですよ?」
澄乃の表情が薄く、感情の影がほとんど見えない。
すると突然、澄乃がぴたりと足を止めた。
「どうしたの?」
紗夜が問う。
「……二人とも、後ろ。来ています」
その声だけは、まるで本物の澄乃のように柔らかく、しかし妙に正確で、迷いがない。
そこに結弦は違和感を覚える。
(澄乃って、こんなに“気配の感知”良かったか?)
後ろを振り返ると、特に何もいない。
風も動かない。静寂だけが広がっていた。
「なにも……いないように見えるけど?」
「いますよ。すぐそこに」
淡々と告げるその澄乃の声に、紗夜と結弦は言葉を飲む。
―――――――――
黒い影は、俺の周囲を静かに回り始めた。
まるで相手の動きを探るように、足音も気配も極端に薄い。
人型かどうかすら曖昧で、輪郭が霧のように揺れている。
(……どうやら、正面から来るタイプじゃない)
俺は無意識に呼吸を整える。
いつも澄乃にトドメを刺してもらっていたが。
「久々だな。自分の力で霊と対峙するのは」
俺は数十枚の式神を周囲にばら撒く。
その中で二枚、指先で挟む。
《招来――白狐!!》
叫ぶと同時に式神が変形する。
式神の姿は瞬時に狐の姿に変わり、俺の前に現れる。
「さあ……久しぶりに暴れようか!!」
俺の言葉に呼応して、白狐が前に躍り出る。
白狐の式神が地面を蹴り、黒い影に飛びかかった。
影は腕のようなものを伸ばし、白狐を弾き返そうとする。
だが白狐は実体が薄く、攻撃の多くをすり抜けながら切り込む。
影の身体がわずかに後退した。
(こいつ……式神を嫌ってるな。それなら……!)
《招来――影縫!!》
別の式神を顕現させる。
札から伸びた黒い糸のような式神が、影の足元へ広がり、動きを縫い止めるように絡みついた。
影の動きが鈍る。
「よし……今だ、白狐!」
白狐が光をまとい、影へ突き刺さるように跳躍した。
影が霧のように波打ち、形を崩す。
あと少し……でも、決めきるにはもう一押しがいる。
今は出し惜しみできないな。
御札を贄とし、式を完成させる。
《波流式――響霊断!!》
不可視の斬撃が黒い影を襲う。
当たったと思われた瞬間、黒い影が複数の斬撃で切り刻まれた。
「波流式響霊断……普段遣いするのはかなり危険だな。周りもろとも巻き込んでしまう」
あたりを見ると、黒い影の周りには、切り刻まれた痕のある木が複数本倒れていた。
「早いとこ、みんなと合流しないと」




