とある日常
どうも、雪木です。
今回もこんな感じで書いてみましたので、楽しんで読んでもらえればと思います。
では。
あれから一週間後。
心のモヤモヤが幾分か晴れ、清々しい朝を迎えた僕は、軽やかに自転車を漕いでいく。
新緑の芽吹きに春の名残りを残しつつも、肌を刺す日差しは着実に季節の進みを感じさせる。
「おはよう勇希奈」
「おはよ、十百那」
あの日以来、お互いにもっとコミュニケーションを取って多少は心の内をさらけ出したことにより、わだかまりが解けて多少は良い方向に進みだした僕らは、ようやく関係性の第一歩を踏み出せた気がした。
「今日はテストの結果発表だな」
「うん、聞くまでもないと思うけど自信のほどは?」
「愚問だね。勇希奈は?」
「それこそ愚問じゃない?」
僕らは目を合わせると同時に口角をわずかに上げた。
【自己採点もバッチリだったし、大丈夫でしょ!】
テストも予想の範囲内で難なく解けたし、若干苦手だと感じたところも徹底的に勉強した甲斐もあって、一応は納得のいく結果を得られそうではあった。
だが、慢心してはいけない。
「拳野さんとか外部進学生の子らの実力も分かんないからなぁ」
「そういえば富樫くんも、あんな感じで勉強できるみたいだしな」
この時僕は違和感を覚えた。
【あれ?なんで十百那が…?】
いやいや、気にしすぎだと首を横に振り、無理やり違和感に蓋をして、学校へと向かう。
教室に入るなり、いつもなら活気に満ち溢れている教室も、今日ばかりはしーんとしていた。
【無理もないか、高等部のテスト一発目だし】
そんな中で席に向かうも、なんだか視線がチラチラと自分に向けられているのに気がつく。
中等部年間グランドスラムの肩書きは、当然意識するなと言う方が無理な話で、皆僕の成績が気になるようだ。
「おう、勇希奈!おはようさん」
「おはよ、鞘師さん」
「どないしたんや、そない背ぇ丸っこくして。ダンゴムシみたいやぞ」
「恵茉、それは言い過ぎ」
「そか?そないならすまん」
この二人のやり取りを見ているだけで、緊張感が解けるのが救いである。
「私は別にいいよ。影野さんも気遣ってくれてありがと」
「いやいや、私は別に…!」
「謙遜すなや。お礼言われたら素直に受け取らんと損やで」
「恵茉は少し慎ましくして」
「えぇ、なんかウチに対してだけ当たり強ない?」
いつまでもこのやり取りを見ていたいが、時間は刻一刻と過ぎていき、あっという間に朝のHRの時間を告げるチャイムが鳴る。
「はい、席に着いて!HR始めるわよ」
同時に教室のドアが開き、先生が入ってくる。
すると先生は持っていたタブレットを操作し始める。
「今から送るのは、この間のテストの学年全体の順位表です。個々の成績については、順位発表後に改めて一人ずつ送信します。では」
先生が送信ボタンをタップすると、僕らのタブレットに順位が表示された。
【ええっと、僕は…あった!】
自分の名を見つけたと同じくして、クラス全員の視線が僕に注がれる。
「おめでとうございます、鞘師さん。高等部の最初のテストも一位ですね。その調子で頑張るように」
先生の言葉の後に、パチパチと僕の前の席と横の席から真っ先に拍手が上がる。
それに釣られるようにして、一人また一人と拍手は伝播していき、その拍手はクラス全体を包み込む。
一通り拍手が済み、改めて順位表を眺める。
【お、十百那も二位じゃん。さすがだなぁ…うん?待った…同率でもう一人いる?】
目を疑ったが、確かにもう一人二位がいる。
誰かと思い、タブレットを下にスワイプしていくと、そこにあった名前に目を見開いてしまった。
「なぁ、この富樫っちゅうのって、勇希奈と同じ剣道部やなかったか?」
「う、うん。そう…だよ」
確かにあの時自分で頭が良いとは言ってたけど、まさか外部進学でいきなり二位を取るほどとは思わず、度肝を抜いた。
「え?この富樫さんって…」
「外部進学の子だよね」
「やっぱそうだよね!ヤバくない?」
クラスメイトの子らもざわついている。
一応言っておくが、この星城女子は勉学もかなり難しい。
入るのも難しいのだが、入った後も文武両道を高い水準で求められるので、入学してもついて行けずに辞めていく子も少なくない。
そんな中で入学早々に僕に次ぐ成績を取るという衝撃は、内部進学の僕らでさえも驚くほどである。
「いやぁ~、凄いやつもおるもんやな。ウチなんか十位やで」
それでも十分凄いと思うのだが。
【他は…まぁ、順当かな。万理華もちゃんと五位にいるし】
「はいはい!皆さん、各々順位は確認出来たと思うので、これから個別にテストの詳しい結果を送ります。これを見て次の反省点にするように」
そうして先生より、テストの結果が送られてきた。
「ど、どう?鞘師さん」
「対策したし、大きなミスはないかな」
【でも、苦手な化学でケアレスミスがあるのは反省点だな】
「ウチは歴史がちょいあかんわ。十二問も落としとる」
「私は数学で…大分足を引っ張っちゃった」
それぞれ反省するべき点が見つかり、次に活かそうとする者や、肩を落とす者で三者三様である中で今日も授業が始まっていくのだった。
キーンコーンカーンコーン。
「はい、今日はここまで。部活は明日から再開ですので、皆さんはくれぐれも帰りが遅くならないように。では、これで終わります」
「起立!礼!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」
皆の号令で今日も一日が終わる。
先生もHRが終わると教室を後にした。
「なあなあ!先生のあの言葉って、そういう意味やろ?」
「まぁ、多分そうだと思うよ」
「やっぱし!んじゃ、テスト週間終わりっちゅうことで、皆でカラオケ行かへん?」
「なになに?オケ行くの?行きたい!」
「私も私も!」
カラオケという言葉にクラスメイト達は色めき立つ。
【帰ってテストの反省でもするつもりだったけど、今日くらいはね】
次々と手を挙げる内に、なんとクラスの大半がカラオケに参加する事態となった。
「もちろん、万理華も行くよね?」
「まあね。たまにはストレス発散もしないとだし。それよりもアンタは少しは歌えるようにはなったわけ?」
「ふふん、任せてよ」
初めてのカラオケ以来、僕はかなり音楽を聴くようになった。
というのも音楽を聴きながら勉強をすると、かなり捗ると万理華から教えてもらったのがきっかけである。
結果的に音楽を流しながらだと、捗ることは確かだったけど、頭に入ってきづらくて僕には合わなかったんだけどね。
「お風呂の時とか、寝る前にかなり聴いてたから歌える幅もかなり広がったんだ!何なら演歌だって歌えるよ」
「…女子高生のカラオケに演歌はやめておきなさいよ」
確かに、世間一般的には演歌は若い子にはウケが良くないと言われているらしい。
【不思議だよね、いい歌なのに。あ、そうだ】
僕は自分のスマホを手に取って、Limuを開く。
『ごめん、今日クラスメイトと一緒にカラオケ行くから、先帰ってて』
『分かった。尾野さんに勇希奈の歌唱動画でも送ってもらうとするよ』
『絶対にやめて』
『冗談だよ笑。楽しんできて』
まったく、彼女が言うと冗談に聞こえないから心臓に悪い。
「ど?連絡しといた?」
「うん、楽しんできてだってさ」
「そ。なら良いんじゃない」
これで心置きなくカラオケが楽しめる。
僕は心躍りながら、クラスの皆と教室を出る。
そんな時だった。
「ねぇ、アレって…」
「うん?アレは…」
視線の先には、恐らく偶然鉢合わせたであろう十百那と富樫さんが、お互いを無言でじっと見つめている光景があった。
「おう、誰かと思ったら私と同じ学年二位の西川じゃねぇか」
「ふっ。そちらこそ今度も僕に勝てなかった富樫くんじゃないか」
【うわぁ…やっぱり意識してんじゃん】
二人とも勝てなかったのがかなり悔しいようで、視線の間には見えない火花が飛び交っている。
「ねぇ、アンタ!どうにかなさいよ」
「な、なんで私が?!」
「だって、教育係と恋人でしょ?だったらアンタが鎮めるのが筋ってもんよ」
ひそひそ声で耳打ちしてくる万理華だけど、正直言って入りにくい。
【はぁ、よりにもよって廊下でやるなよなぁ】
嫌でも目に付くところでやっているので、誰かがどうにかしないといけない。
このまま先生の耳に入っても、それもそれでまためんどくさいし。
「ほら、二人とも!そこまでにしておきなよ」
「おっ、鞘師じゃねぇか」
「おっ!じゃなくて、二人は何やってんの?」
「それがな、僕が教室を出ようとして扉を開けたら…」
「へへへ!コイツの悔しがる顔を見に来たって訳だ!」
イタズラに笑う富樫さんは、まるで悪ガキのようである。
状況が掴めた僕は、一旦二人を離してまずは十百那から話を聞く。
「どうしたんだよ、挑発に乗るなんて十百那らしくないじゃない」
「…いや、なんか彼女の顔を見たら、こう…胸のあたりがムカムカしてきてさ」
【なるほどね。そういう事か】
なんとなくだけど、いつも気が付くのが遅い僕は、そのムカムカの正体を察した。
「君の後ろを走るのは、僕だけなのに…」
「でもね、今回は同率だったけど、次はもっと頑張って勝てばいいじゃん。もちろん、私も負けないよ?」
「言ってくれるじゃないか。頑張っちゃって首位交代しても知らないぞ?」
「うん。期待してるよ」
僕の言葉に十百那は深く頷いた。
一先ずは分かってくれたみたいだし、こっちは解決したようだ。
今度はと、振り向いて反対側に歩いていく。
「こら!」
「いてっ!何すんだよ!」
にへらと笑う富樫さんに空手チョップをお見舞いし、灸をすえた。
「私言ったよね?無闇に人をおちょくらないって」
「そりゃあ、言ったけどさ…」
彼女は目を伏せて言い淀む。
【この様子だと、中学生の時に張り合える相手が居なかったか。だからこんな】
僕は富樫さんの両肩に手を乗せて、口を開く。
「よく頑張ったね」
「…別に、こんなん当たり前だし」
「でも、うちの学校に入って早々二位は誰にでもできることじゃないよ。沢山努力したんだね、凄いよ」
「…うっさい。次は鞘師を抜くから」
「じゃあ、抜かされないように私も頑張らなくちゃね」
そう言うと、彼女の口角がほんの少しだけ上がった気がした。
これでなんとか一件落着だろうと肩を撫で下ろした時──。
「ほんじゃあ、仲直りしたっちゅう証にアンタらも一緒にカラオケどや?」
悪くない提案だし僕は別にいいが、他の子らはどうなんだろうか。
「良いんじゃない?」
「丁度私も一度西川さんと話してみたかったし!」
「学年の高嶺の花と一緒にカラオケとか、他のクラスに自慢出来るしね」
良かった、クラスの皆からは概ねウケは良いようだ、十百那のは。
気になるのはもう一方の反応だが──。
「ねね、富樫さん…だっけ?カラオケとか行くの?」
「あんまし行かん。けど歌える事は歌えるぞ」
「どんなの歌うの?」
そう聞かれた富樫さんは、自分のスマホを取り出して皆に見せた。
そこには自分のお気に入りのプレイリストがズラリと並び、流行りの曲から若干マイナー寄りの曲まで非常にバラエティに富んでいる。
「まさか、これ全部歌えるの?」
「まあ、一応。走ってる時に聴いてて歌詞は覚えたからな」
そんな話をしたら、たちまち彼女の周りには人が集まって来ていた。
どうやらこちらも反応を見る限り、問題は無さそうだ。
「おっしゃ!そうと決まれば行くで!早う行こうや」
こうして僕らはカラオケに足を運ぶのであった。
今回行くカラオケは、一緒に来ているクラスメイトの子の親が経営しているチェーン店の一つである。
「いやぁ、持つべきもんは友っちゅうのは本当やな!こんな良い部屋用意してもらえるんやから」
当初はその子のご両親のご厚意で無料で貸し出してくれるとの話だったけど、流石にタダでっていうのは気が引けたので、通常料金の半額ほどで利用させてもらう事にしたのだった。
「さ!トップバッター誰行く?」
クラスメイトの一人の問いかけに、真っ先に手を挙げたのは──。
「じゃあ、私行こっかな」
「マジ?鞘師さんやるねぇ!」
こういうのにはあまり積極的な方ではない僕だけど、今はなんだか思いっきり歌いたい気分なのだ。
手早く選曲し、マイクを握る。
曲が流れ始めれば、身体は自然とリズムを刻む。
【うん、良い感じ!】
あれからうんと練習して、出づらかった低音もなんとか出るようにはなったし、ビブラートなんかもできるようになり、歌う事がとても楽しい。
「はぁ、はぁ。どう?」
全力で歌いきった僕は、息も絶え絶えである。
「最高じゃん!」
「鞘師さんってこんな感じの曲歌えるんだ!意外だな」
比較的明るめでノリのいい曲を選んだのが幸いして、場を温めることには成功したようだ。
盛り上がってきたところで、次に選曲したのは──。
「んじゃ、私が行くぜ!」
今度は富樫さんがマイクを握った。
流れてくる曲も、彼女らしく荒々しいロックだった。
彼女の性格や歌唱力もあって場は更に熱を帯びていく。
「おっしゃ!もっと!もっと乗ってこいや!!」
その後も次々に歌っていく僕らは、時間を忘れて熱狂していく。
「ごめん、ちょっとお手洗いに」
そう言って僕は一旦部屋から出た。
「ふぅ…」
「どうした?疲れたか?」
お手洗いを済ませて戻る前に、部屋の入り口横で壁にもたれかかっていた僕の隣に十百那がそっとやってきた。
「まぁね。楽しいけど一旦休憩」
「ふふ、僕もだ。みんなに話しかけられてしまってな」
普段別のクラスなので、ここぞとばかりに質問攻めにあっていてお疲れの様子だ。
そんな彼女がチラッチラッとこちらに視線を送ってくる。
意図は何となく分かった僕は、あえて何も言わずに隣の彼女の手を握った。
ほんのりヒンヤリ感じる十百那の指先。
すぐ後ろで聴こえてくるクラスメイトの歌声が、段々と聞こえづらくなっていくのだった。
いかがだったでしょうか?
小説を本格的にこうやって書き始めて、まだ二作か三作目くらいのまだまだ未熟者ですが、温かい目で応援してもらえればうれしいです。
では、また次で。




