12話「彼とならどんな時間も楽しくなるのです」
ルーインは罪を犯したために牢屋送りにされ、そこで体調を崩し、そのまま誰にも看取られずこの世を去った。
その話はわりとすぐに私たち一家の耳に届いた。
両親とそのことについてあれこれ喋っていて。
翌日いつも通り郵便物を届けに来てくれた一応フリッツにもその件は伝えておくことにした。
「そ、そうなんですか!?」
ルーインの最期についた話したところ、彼はかなり大きなリアクションを返してくれた。
「亡くなられたんですか」
「そうみたいなの」
「ええー……。それはさすがにちょっと意外と言いますか……驚きです」
どんな話題を振ってもそれらしい反応を返してくれるところも好きだ。
いや、べつに、そういう対応を必ずしも求めるというわけではないのだけれど。
無理して大袈裟なリアクションをして構ってくれと言うつもりはないのだけれど。
ただ、無反応な対応をされると心が折れそうになってしまうだろうから、何かしらの反応がある方がありがたいという部分は正直あるのである。
「牢屋で亡くなられた感じですか?」
「そうみたいね」
「事故……とか……?」
「風邪をこじらせて衰弱して、ということだそうよ」
「そうなんですね……」
個人的なことを話すというのは迷惑かもしれない、なんて、普段なら思っただろう。けれどもフリッツには何でも話せる。無関係ではないから、ということもあるけれど、それを除けても彼には色々なことを躊躇いなく明かしたり話したりすることができる。それは多分、彼にならどんなことでも話して大丈夫だと純粋に思えているからなのだろう。
「複雑な心境……ですか?」
彼は眉頭を少しばかり寄せて尋ねてくる。
一瞬どう答えるか迷ったけれど。
本心を伝えようと思って。
飾ることなく、自分の心に素直になって、首を横に振った。
「いいえ。彼がどうなろうが知ったことじゃないわ。何とも思わない」
実際には何とも思わないわけではない。
厳密には。
彼が亡くなったことは悲しいことではないし辛いことでもなく、むしろ逆で、ほんの少し嬉しさを感じているのだ。
それは解放の嬉しさ。
もう二度と会うことはないと思ってはいても、彼が生きている限り、会う可能性は完全にゼロにはならない。
だが彼はこの世を去ったのであれば話は変わる。
それは完全なる別れを意味していて、間違いなくもう二度と彼と顔を合わせることはないということの証明なのだ。
「そういえば今度の週末だけれど、ちょっと買い物をしたいの」
やがて話題は自然と別のものへ移る。
「どこ行かれます?」
「隣の街へ」
「えっ、じゃあ、一緒に行っても?」
彼との会話にはすっかり慣れた。
「早いわね」
「すみません……」
今では少しも気を遣うことなく言葉を紡ぐことができる。
「いいえ、気にしないで、そうじゃないの。実はね、誘ってみようと思っていたのよ」
「ほんとですか!?」
「ええ」
「うわ! やった! 嬉しい!」
まるでずっと前から親しかったかのようだ。
「じゃあ一緒に行ってくれるかしら」
「行きますっ」
距離感が近くて気の合う幼馴染みがいたらこんな感じだったのかな、なんて思うこともある。
「何買いに行くんですかっ?」
「秘密よ」
「ええっ。寂しいですよ! 隠さず教えてくださいっ」
「ひ、み、つ」
「はううぅぅぅー……」
「何言ってるのよ変なの」
「すみませんー……」
二人で出掛けることにももう慣れた。
今は最初の頃ほどの緊張感はない。
――ようやくやって来た買い物へ行く約束の日。
「おはようフリッツ」
「おはようございまっす!」
朝、やや早めの時間に私の家の前で待ち合わせして、二人並んで出発する。
「そのスカート、可愛いですね」
「ほんと? ありがと」
隣の街までは徒歩でもそんなにかからず行ける。
なのでなんだかんだ喋りつつ歩いていれば到着するはずだ。
「白くてひらひらしているところが魅力的でっす!」
「貴方って真っ直ぐね」
取り敢えず足を動かそう。
「ええー? それって褒めてますー? 悪口ですー?」
「褒めてるわ」
そうすればきっといずれは目的地へ着く。
「わーい」
「はぁ……まったく、何言ってるんだか……」