11話「進展はそれぞれですね」
「私も……貴方のこと、フリッツのことが……好き」
気づけばそこまで言ってしまっていた。
胸の内で膨らみ続けていた感情。
それはいずれ破裂する。
平常時は何ともなく抱えていられたとしても、きっかけさえあれば、意識するより先にぱぁんとなってしまってもおかしくはない。
「そうですか、それはうれ――って、えええええ!!」
フリッツはかなりの衝撃を受けたようで、目をくるくるさせていたが、やがてめまいに襲われて気を失ってしまう。
「だ、大丈夫!? フリッツ? フリッツ!? しっかりして!!」
取り敢えず家の中へ連れていこう。
寝かせておけばいつかは意識を取り戻すだろう。
「――で、気絶してしまったんですね自分は」
横にしてそっとしておいたところ、三十分もかからずフリッツは目を覚ました。
「め、迷惑! お掛けしまして! すみません!」
「いいの、気にしないでちょうだい」
母は相変わらず何か思っているようだ。
離れたところからこちらをちらちら見てどこか楽しげな顔をしている。
「それより体調は大丈夫?」
「は、はい」
「なら良かった。安心したわ。ごめんなさいね、びっくりさせてしまって」
「いえそんな……」
少し間を空けて。
「けど、本当なんですか?」
彼は尋ねてくる。
「オリヴィエさんが自分のことを好きだなんて……」
どうやら彼はまだかなり戸惑っているようだ。
そういう展開は欠片ほども想像していなかったのだろう。
「本当よ」
「……その、すみません、どうしても信じられなくて」
「嘘はつかないわ」
「気を遣ってくださったのかと……えと、こういうことを言うのも、失礼……ですよねすみません」
暫し気まずさの中で互いにじっとしていたのだけれど。
「私はフリッツのことが好き」
やがて思いきって言ってみると。
「う、嬉しい……!」
彼はそんな風に発して瞳を輝かせた。
お互いに気づけていなかった相手の心。それに少しずつ近づいている。今はひしひしとそう感じる。きっと彼も、同じように感じているだろう。これまでは敢えて触れずにきたところにようやく指が触れそうな、そんな状況。距離は確かに縮まりつつある。いや、実際には、距離はもうとうに縮まってはいたのかもしれないが。その事実に向き合う時がようやくやって来ているのである。
「オリヴィエさん! ありがとうございます!」
確かに一歩近づいた、そんな日だった。
◆
ルーインは病気にかかっている。
もうほとんど動けない。
厳密に言うなら――死にかけている。
ほぼ寝たきりでお世辞にも健康とは言えない状態の身体には普通の風邪でもかなりの影響が出るもの。健康体であれば多少症状が出る程度の風邪でも、今も彼にとっては致命的なものとなりかねないのだ。
「悪い、のは……オリヴィエ……オリヴィエ、なん……だ……わる、い……のは……オリヴィエなん、だ……悪女、なん、だ……あいつ……オリヴィエ、は……悪女で魔女で、けが、れ……て、いる……んだ……悪い、のは、オリヴィエ……すべての……悪、は……オリヴィエ、にある……ま、じょは……オリヴィエだ……オリヴィエ、が、悪い……悪い悪い悪い、わる……い、んだ……」
意識が朦朧としていて、ただ、その中でもルーインはまだオリヴィエが悪いというようなことを言い続けている。
「オリヴィエ、が……わる、い……悪いん……だ、オリヴィエが……魔女、だ、から……悪女、だ、から……オリヴィエ、の、せい……なんだ、全部……僕は決して、決してそうだぜった……い、絶対、に……悪くない……はめられた……だけ、なんだ……オリヴィエ……悪女オリヴィエ……魔女オリヴィエ……穢れ、て……いる女、が、悪い……んだ、悪女が、オリヴィエが、悪い……」
だがルーインの意識は徐々に薄れてゆく。
「オリ、ヴィエ……あく、じょが……ゆる、さ……ない、んだ……オリ、ヴィ……エは、ま……じょ……だか、ら……オリ、ヴィエ……あく、じょ……けが……れを、せお……う……おん、な、だか……ら……オ、リ……ヴィエ、は……えい、え……ん、に……ゆる、され……ないんだ……オリ、ヴィエ……ぜった……い、に……わす、れ……る、なよ……オリ、ヴィ……エ……ぼ、くは……ゆる、しは……しな……い……オリ、ヴィエ、を……」
そうしてやがてルーインは事切れたのだった。




